農作業における作業強度の計測・解析 に関する基礎研究 - 作業強度と重心動揺について -

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農作業における作業強度の計測・解析 に関する基礎研究 - 作業強度と重心動揺について - 農作業における作業強度の計測・解析    に関する基礎研究      - 作業強度と重心動揺について - 宮崎大学農学部    御手洗正文・木下 統・木田 博隆 佐竹製作所    藤島 壮

研究の背景 現在の農作業には、無理な姿勢での連続作業、重い農産物の運搬作業、長時間の単調な仕分け作業などがまだ多く存在する。 このような作業は人体の局所的な疲労や慢性的な疲労、精神的な苦痛を生み出す原因となっている。  高齢化が進む中で、これらの問題を解決していく為には作業強度や農作業者の疲労・精神的苦痛、作業の快適性などの計測・解析・評価を行い、農作業の改善をはかっていく事が重要な課題となっている。 現在の農作業には、無理な姿勢での連続作業、重い農産物の運搬作業、長時間の単調な仕分け作業等が多く存在する。 図1:はくさい収穫作業 図2:ダイコン運搬作業 図3:ほうれんそう調整作業

作業の快適性の計測・解析・評価における問題点  作業の快適性の計測・解析・評価における問題点  これまで、作業者の疲労や作業強度については様々な計測方 法が提唱されてきた。しかし、多くの計測法は作業時に作業者 の身体に直接測定器具を取り付けるなど、普段の作業とは異な る違和感を作業者に与えるものであった。 図4:作業姿勢のモニタ測定 図5:RMR測定

研究の目的 作業者の疲労に伴う重心動揺に着目 1.重心動揺測定装置の試作を行う。 2.室内作業負荷試験により重心動揺の計測・  解析を行い、作業者の疲労や作業強度と  重心動揺との関係を明らかにする。

人体重心動揺のしくみ 内耳からの 平衡感覚 目からの 視覚情報 皮膚・筋肉・関節等からの 体性感覚情報 脳(各感覚器からの情報を統合) 内耳からの 平衡感覚 目からの  視覚情報 皮膚・筋肉・関節等からの       体性感覚情報 脳(各感覚器からの情報を統合) 足や体幹の筋活動を調節 重心動揺

重心動揺測定装置 重心動揺測定装置はフォースプレート、ロードセル、ストレンアンプ, コンピュータ、重心動揺誘導回転盤から構成した。 200 cm Rotating Disc Model Human Subject 170 cm Force Plate Ground Level Load Cell Cable Wire Strain Amplifier Computer 図6:重心測定装置の概要

重心動揺誘導回転盤 Rotating Disc Model 35 cm 200 cm Circular Mark 170 cm Force Plate Rotating Disc Model Human Subject 35 cm 200 cm Circular Mark r = 5 cm 図7:重心動揺誘導回転盤の概要 170 cm

重心点座標の算出方法 y x F L1 L4 L2 F=F1+F2+F3+F4 L3 Xc = F1+F2+F3+F4 左図のようにフォースプレートに設置された4つのロードセルにかかる荷重を計測し、重心点の荷重Fと座標cg(Xc,Yc)を以下の式で求めた。 x (X2.Y2) (X4.Y4) (0,0) F1 F4 F2 F3 Y y (X3.Y3) F Cg(Xc.Yc) L1 L4 L2 (X1.Y1) F=F1+F2+F3+F4 L3   Xc = F1+F2+F3+F4 F1・X1+F2・X2+F3・X3+F4・X4   Yc = F1+F2+F3+F4 F1・Y1+F2・Y2+F3・Y3+F4・Y4

測定項目(1) x 図a 重心点の移動例 平均重心点(Xav,Yav) 5分間(3000個)計測した重心点座標の平均値で表した。 y 重心平均移動量(㎝)       測定時間内に重心が 移動した総移動量(図a:l1+l2+l3 )をサンプリング点間数(図a: 3個)で除した値で表した。                 図a: (l1+l2+l3)/3 重心平均移動量増加率(%)   安静時の重心平均移動量を基準とし、作業後に測定した重心平均移動量をこの基準値で除して百分率で表した。 cg1 cg2 cg3 平均重心点 cg4 l1 l2 l3 y x 図a 重心点の移動例 (サンプリング間隔100ms)

測定項目(2) x 図b 重心点のずれ距離 4. 平均重心点からのずれ距離(㎝) 4. 平均重心点からのずれ距離(㎝)    計測した各重心点の平均重心点からの距離( l1,l2,l3,l4 )の平均値で表した。              平均重心点からのずれ距離増加率(%)   安静時の平均重心点からのずれ距離を基準とし、作業後に測定した平均重心点からのずれ距離をこの基準値で除して百分率で表した。 cg1 cg2 cg3 平均重心点 cg4 l1 l2 l3 y x l4 6. 消費カロリー(kcal/min)      各負荷レベルにおける作業中の消費カロリーを算出した。          図b 重心点のずれ距離

目的:各被験者の無負荷時における基礎データを収集する。 Ⅰ.無負荷時における重心動揺試験 目的:各被験者の無負荷時における基礎データを収集する。 調査方法:立位安静(両足直立姿勢)と片足直立姿勢、視覚刺      激(誘導回転盤)の有無による無負荷時(安静状態)      での重心動揺変化を計測した。  被験者: 4名(男女、各2名)  重心動揺測定時間: 5 分  重心動揺測定中の姿勢: 両足直立・片足直立  誘導回転盤: 有(高・中・低速)・無      高(160rpm)・中(120rpm)・低(90rpm)  回転盤軌道: 円回転・楕円回転(偏心5cm )

重心動揺測定姿勢 図8:両足直立姿勢 図10:片足直立姿勢 図9:両足位置 図11:片足位置

試験結果 視覚誘導の有無による重心点移動分布の比較 (cm) (cm) (cm) 図12 両足・誘導無しにおける 重心点の移動分布  視覚誘導の有無による重心点移動分布の比較 (cm) (cm) (cm) 図12 両足・誘導無しにおける    重心点の移動分布 図13 両足・誘導有りにおける     重心点の移動分布

図14 両足・片足、誘導有・無による重心平均移動量増加率と 平均重心からのずれ距離増加率 無負荷状態の重心動揺試験 増加率(%) 重心平均移動量      増加率 平均重心点からのずれ距離増加率 両足・誘導有  片足・誘導無  片足・誘導有 図14 両足・片足、誘導有・無による重心平均移動量増加率と   平均重心からのずれ距離増加率

Ⅱ.ルームランナーによる作業負荷量と重心動揺試験 (誘導回転盤無し) Ⅱ.ルームランナーによる作業負荷量と重心動揺試験               (誘導回転盤無し) 目的: 作業強度と重心動揺の関係を明らかにする。  被験者: 4名(男女、各2名)  重心動揺測定時間: 5 分  負荷レベル: 5段階(走行速度1, 3, 5, 7, 9 km/h)  重心動揺測定中の姿勢: 立位安静(両足直立)  誘導回転盤: 無 し

試験方法 安静20分→重心動揺測定5分→負荷作業20分→重心動揺測定5分→安静20分を1セットとして作業負荷ごとに5セット行った (20分) 図15:イス座安静 (20分) 図16:重心動揺測定 (5分) 図17:ルームランナー走行 (20分)

試験結果 :消費カロリーと重心動揺(誘導回転盤無し) 50 40 30 20 10 2.1 6.4 10.8 14.8 14.8 32.5 増加率(%) 30 20 10 平均重心点からの ずれ距離増加率 重心平均移動量増加率 2.1 6.4 10.8 消費カロリー (kcal/min) 14.8 14.8 32.5 図18:消費カロリーと重心平均移動量増加 率ならびに 平均重心からの距離増加率の関係

Ⅲ.エルゴメータによる作業負荷量と重心動揺試験 (誘導回転盤有り) Ⅲ.エルゴメータによる作業負荷量と重心動揺試験                 (誘導回転盤有り) 目的:作業後に視覚刺激(誘導回転盤)を与えることで、作業強    度や疲労の度合が重心動揺にどのような影響を与えるかを    明らかにする。  被験者: 4名(男女、各2名)  重心動揺測定時間: 3 分  負荷レベル: 4段階(走行速度15、20、25、30 km/h)  重心動揺測定中の姿勢: 立位安静(両足直立)  誘導回転盤: 有り(楕円軌道・120 rpm)

試験方法 安静20分→重心動揺測定3分→負荷作業10分→重心動揺測定3分→安静20分を1セットとして作業負荷ごとに4セット行った。 図19:エルゴメータ走行 (10分) 図20:重心動揺測定 (3分)

試験結果 :視覚刺激を与えた場合の重心平均移動量増加率 図21 各被験者の消費カロリーと重心平均移動量増加率の関係 重心平均移動量増加率(%) 消費カロリー(kcal/min) 被験者 図21 各被験者の消費カロリーと重心平均移動量増加率の関係

まとめ 作業後の重心動揺を測定した結果、誘導回転盤無しでは、消費カロリー15kcal/min以下において、重心動揺と作業負荷の間に一定の相関性が見られず、重心動揺から作業負荷や疲労の推測は難しい事が明らかになった。 作業後に視覚刺激を与えると、それに誘発されて作業負荷の大きさに比例した重心動揺が発現することが明らかになった。さらに実験データを構築していくことによって、個人的な作業強度や疲労程度を重心動揺から推定・評価する事が可能になるものと考えられた。