再分配政策 公共経済学(財政学A ) 第7回 畑農鋭矢.

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Compensated Demand Function ・ ・
Compensated Demand Function ・ ・ と置く。 =
公共経済学 完全競争市場.
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再分配政策 公共経済学(財政学A ) 第7回 畑農鋭矢

再分配とは? 所得・消費・効用の分布が変わる。 * 07/16/96 再分配とは?  市場経済による資源配分 ┏━━━┻━━━┓ ↓           ↓ 所得の不平等    リスクの存在 ↓           ↓ 貧しい人々     不幸な人々 ┗━━━┳━━━┛ ↓ 再分配による資源配分の変更 所得・消費・効用の分布が変わる。 *

* 07/16/96 契約曲線と効用の分布 y財 OB E4 E3 E2 E1 OA x財 *

再分配政策の手段 累進税 累進的所得税の根拠 社会保障支出 生活保護、社会福祉、社会保険、失業対策など * 07/16/96 再分配政策の手段 累進税 累進的所得税の根拠 社会保障支出 生活保護、社会福祉、社会保険、失業対策など 世代間の再分配 公的年金、医療・介護保険などの社会保険 地域間の再分配 地方交付税、補助金など *

累進税 累進(課)税:所得に応じて税率が高くなる制度 より単純な累進税 T:税収、Y:所得、t:税率(一定) ①税額控除 * 07/16/96 累進税 累進(課)税:所得に応じて税率が高くなる制度 より単純な累進税   T:税収、Y:所得、t:税率(一定)  ①税額控除   A:税額控除(一定)   T=tY-A 平均税率 T/Y=t-A/Y(累進的)  ②所得控除   D:所得控除(一定)   T=t(Y-D) 平均税率 T/Y=t-tD/Y(累進的) *

再分配政策の基準 数値例 高所得者Hの所得50、低所得者Lの所得10 効用関数の数値例 * 07/16/96 再分配政策の基準 数値例 高所得者Hの所得50、低所得者Lの所得10 効用関数の数値例 ベンサム基準とロールズ基準 「最大多数の最大幸福」:社会厚生=Hの効用+Lの効用       or 「最貧者の最大幸福」:社会厚生=効用の最小値 所得 10 20 30 40 50 効用 60 75 85 限界効用 15 *

再分配政策の帰結 完全な平等が望ましい!⇒限界税率100% 再分配による社会厚生の変化 再分配 による移転額 所得 効用 社会厚生 H L * 07/16/96 再分配政策の帰結 再分配による社会厚生の変化 再分配 による移転額 所得 効用 社会厚生 H L ベンサム ロールズ 50 10 85 95 40 20 75 115 30 60 120 完全な平等が望ましい!⇒限界税率100% 10 20 *

平等政策の問題点 平均所得30以上は100%課税される。 ⇒平均所得以上の労働供給は阻害される。 ⇒高所得者Hは30しか働かない。 * 07/16/96 平等政策の問題点 平均所得30以上は100%課税される。  ⇒平均所得以上の労働供給は阻害される。  ⇒高所得者Hは30しか働かない。  ⇒再分配の資金が不足する。 高い税率⇒格差は縮小        ⇒効率性低下        ⇒効率性と再分配のトレードオフ *

* 07/16/96 契約曲線と効用の分布(再) y財 OB E4 E3 E2 E1 OA x財 *

効用可能性曲線 Bの効用 O Aの効用 契約曲線上の動き OA⇒OB OA AとBの効用の選択可能範囲は? 右下がり 原点に対して凹 * 07/16/96 効用可能性曲線 Bの効用 契約曲線上の動き   OA⇒OB AとBの効用の選択可能範囲は?   右下がり 原点に対して凹   限界効用逓減により OA OB 45° O Aの効用 *

社会厚生関数と社会的無差別曲線 Hの効用 W2 W1 O Lの効用 社会厚生関数とは? W=W(u1,u2,…uN) 社会厚生関数の特徴? * 07/16/96 社会厚生関数と社会的無差別曲線 Hの効用 社会厚生関数とは?   W=W(u1,u2,…uN) 社会厚生関数の特徴? ●不平等回避   ⇒無差別曲線は    原点に対して凸 ●パレート原理 ●匿名性 u# W2 u* W1 45° O u* u# Lの効用 *

ベンサム型とロールズ型 ベンサム型 Hの効用 不平等回避なし ロールズ型 低効用の人に関心 WR W2 WB O Lの効用 45° * 07/16/96 ベンサム型とロールズ型 Hの効用 ベンサム型  不平等回避なし ロールズ型  低効用の人に関心 WR W2 WB 45° O Lの効用 *

* 07/16/96 最適な効用の分布 Hの効用 いずれのケースでも 平等(E)が最適 E 45° O Lの効用 *

再分配政策の弊害 労働供給への効果 失業保険⇒就労意欲を阻害 社会保障負担⇒勤労意欲を阻害 * 07/16/96 再分配政策の弊害 労働供給への効果 失業保険⇒就労意欲を阻害 社会保障負担⇒勤労意欲を阻害 資本蓄積への効果 社会保障⇒私的貯蓄の減少⇒資本蓄積を阻害 医療・介護保険 ⇒病気や要介護のリスクに対する備えが減退 パレート効率性を阻害? *

再分配政策の費用 E M F 再分配による死荷重損失 E→M Hの効用 Lに有利な再分配:HはLと同じ所得しか稼がない(uH>uL) * 07/16/96 再分配政策の費用 Hの効用 再分配による死荷重損失 E→M E Lに有利な再分配:HはLと同じ所得しか稼がない(uH>uL) Hに有利な再分配(uH>uL) M→F(45°線を越えない) M 本来の効用可能性曲線 F 45° O Lの効用 *

次善(セカンド・ベスト)解 E J Q M F Hの効用 ベンサム型(J)はHに有利 ロールズ型(M)はLに有利 Qは中間 O Lの効用 * 07/16/96 次善(セカンド・ベスト)解 Hの効用 ベンサム型(J)はHに有利 ロールズ型(M)はLに有利 Qは中間 E J Q M F 45° O Lの効用 *

自発的な再分配 利他主義(altruism) 低所得者の消費水準を憂慮⇒寄付行為 他人による救済でもOK 外部性により寄付行為は過小供給に 与える喜び(joy of giving) 自分自身の寄付行為が重要 過小供給の程度を緩和

* 07/16/96 保険と効用 効用 U(YH) D E U(YL) YL YH 所得 *

保険としての再分配制度 これから生まれる人の状態に関するリスク ⇒民間保険では対処できない * 07/16/96 保険としての再分配制度 これから生まれる人の状態に関するリスク ⇒民間保険では対処できない 無知のベール 誕生後の状態が確率的にしか分からない   ⇒再分配制度が保険になる   ⇒再分配制度による効用の増大(パレート改善) 再分配制度の維持   誕生後→良好な状態の人ほど制度から離脱   ⇒政府による再分配制度の強制が必要 *