東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科 健康教育学 友納 理緒

Slides:



Advertisements
Similar presentations
1 STAS-J 導入プロセスと 看護師への影響 宮城千秋(沖縄県立精和病院) 神里みどり(沖縄県立看護 大学)
Advertisements

MSW の役割について 広島大学病院 薬剤部 藤田啓子. MSW の仕事とは? ・主に医療機関や老人保健施設、在宅介護支援センター等 に勤務し、医師・看護婦・理学療法士などと共に、 医療チームの一員として、患者さんとその家族への相談 やさまざまな援助を行っています。 ・社会福祉の専門家として、患者さんに関わる経済的、
カウンセリングナースによる 新しい治療システム -ストレスケア病棟での治療体験と カウンセリングナースの導入- 福岡県大牟田市 不知火病院 院長 徳永雄一郎.
(社)日本画像医療システム工業会 会長 桂田 昌生
【障害者自立支援法に基づく就労継続支援A型事業所用】 最低賃金適用除外許可 作業実績、作業能力に関する資料
RCA 出来事流れ図の作成例 頂上事象 根本原因1 医師は看護師にボスミン1筒を注射筒に用意するよう指示した。 患者は 死亡した。
2014年介護施設       夜勤実態調査結果報告 2015年5月 日本医療労働組合連合会.
(提案者名を記載) ○○○○ 平成22年度「医療情報化促進事業」 提案書 (様式8) 提案書雛型ア、イ及びウ
ノーマライゼーションかしわプラン策定に向けた基礎調査について
平成26年度 診療報酬改定への要望 (精神科専門領域) 【資料】
ウェブを活用した 思春期等相談活動に関する研究
定期的な生活習慣調査および 調査結果のフィードバックが 中学生の生活習慣改善に及ぼす影響
エアゾール缶等の収集処理時の 事故発生状況と今後の課題
ー大学院教育課程強化に関するプログラムについてー
第3回はままつCDE研究会 アンケート集計結果
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」 の説明
緑茶の洗浄効果に関する研究について 23030171 長谷川尚子.
情報は人の行為に どのような影響を与えるか
わが国の社会福祉現場における 人材確保の動向と今後の展望
公益社団法人岩手県栄養士会医療職域会 代表 太田代 健二
 女性支援ワーキンググループは、日本臨床検査医学会において女性が活動しやすい環境を提供するための方策を調査する目的で、学会員を対象にアンケート調査を行い(2015年2月)、265名より回答を得ました(回答率10%)。  ご協力をいただきました会員各位に深謝するとともに、本アンケートで寄せられた意見を今後の活動に生かしてまいります。
ドイツの医師職業規則 から学ぶもの 東京医科歯科大学 名誉教授  岡嶋道夫.
集中治療室入室経験者の その後の生活・人生について
4 第3次障害者基本計画の特徴 障害者基本計画 経緯等 概要(特徴) 障害者基本法に基づき政府が策定する障害者施策に関する基本計画
健康・医療の知識とメディア                  林 剛生.
仕事帰りと拘束時間に着目した行動目的選択
Ⅲ.サービス開発の方法.
14回. まとめ 情報のまとめかた DBの利用 情報検索の留意点 情報検索と情報収集 68 基礎知識の必要性 68
動画で見る 全国がん登録 2016年1月から始まる「全国がん登録」について、ご紹介します。.
フランスの年金調整会議 年金調整会議は、2000年に創設された。常設の団体であり、メンバーは国会議員、経営者・労働組合の代表、専門家、国の代表である。その主たる目的は、フランスの年金制度を監視すること、年金に関連する公的政策への勧告をすることであり、専門的知識と全ての参加者による協議に基づいている。
訪問看護における看護管理のあり方 ステーションの管理者に求められるもの 在宅看護学 遠山 寛子.
ヘルスプロモーションのための ヘルスリテラシーと 聖路加看護大学『看護ネット』
基調報告 「産婦人科勤務医の就労環境の実態 ー日本産婦人科医会調査から」
 クリティカルケア領域に             おける家族看護     ICU入室中の患者家族の      ニードに対する積極的介入について              先端侵襲緩和ケア看護学                    古賀 雄二 
看護職員の労働実態 調査結果報告 2017年 日本医労連は、1988年以降、約5年に1度「看護職員の労働実態調査」を実施してきました。
平成27年度 介護報酬改定について 改定内容(案) 内容 介護報酬のマイナス改定
看護現場における 労務管理の法的側面① <労働法と労働契約>
管理的側面 管理者に必要な経営知識 経営学の基本 ①マネジメントと組織.
看護管理学特論 救急・集中治療領域における家族看護
緩和ケアチームの立ち上げ ー緩和ケア医の立場からー
大阪府健康づくり推進条例の概要について (1) 条例制定の背景・必要性 (3) 条例案の概要 (2) 条例制定のポイント
輝いて、自宅で ~終わりよければすべてよし~
がん患者の家族看護 急性期にあるがん患者家族の看護を考える 先端侵襲緩和ケア看護学 森本 紗磨美
睡眠のメカニズムに沿った介護的アプローチ
今年度の取り組みについて 情報共有システムの評価に関するアンケート結果
医療マネジメント学会 長野地方会 第1回クリティカルパス軽井沢セミナー 8/23(土)~24(日)   軽井沢で お会いしましょう                                      
(C)2011女性にやさしい職場づくりナビ.
高齢慢性血液透析患者の 主観的幸福感について
フレイルとは すずかけの木通信H30.3月号 お口の健康の維持は 全身の健康に影響します。 健康な状態と日常生活で
子どもに対する 生活習慣病予防の 取り組み           健康情報分析学            三輪 夕起.
筑波メディカルセンター病院 緩和ケア病棟 佐々木智美
我が国の自殺死亡の推移 率を実数で見ると: 出典:警察庁「自殺の概要」
LCP日本語版の使用方法 東北大学大学院医学系研究科 保健学専攻緩和ケア看護学分野 宮下光令.
東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野
「雇用と社会保障の密接な連携」を通じた介護分野の成長戦略
先進予防医学共同専攻臨床疫学 臨床疫学とは 現在の取り組みと成果 研究材料・手法 未来のあるべき医療を見つめて改革の手法を研究します。 特徴
ナラティブ・アプローチの看護への有効性の検討
「アルコール依存症者の回復過程における看護師の役割」
SWOT分析 看護師 転職例 強み (Strengths) 弱み (Weaknesses) 機会 (Opportunities)
アウトカムによる        ケアマネジメントの評価 在宅ケア看護学 奥富 幸至.
在宅医療施策の取組状況と今後の展開(案)
看護学生への喫煙教育による認識の変化からみた禁煙支援
南魚沼市民病院 リハビリテーション科 大西康史
若年性認知症の人への支援 若年性認知症支援コーディネーター これらの支援を一体的に行うために を各都道府県に配置
地域における医療提供体制の確保に資する設備の特別償却制度(医療機器に係る特別償却の拡充・見直し)
自殺対策基本法(振り返り) 資料4 基本理念(第2条)
STAS導入を試みての 経過報告と今後の課題
新医師確保総合対策のポイント 【医師数に関する全体状況】 【 対 策 】 短期的対応 19年度概算要求への反映
衛生委員会用 がんの健康講話用スライド.
○ 大阪府におけるHACCP普及について S 大阪版 評価制度を設ける 大阪府の現状 大阪府の今後の方向性 《従来型基準》
Presentation transcript:

東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科 健康教育学 友納 理緒 看護師の睡眠に関する文献検討 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科 健康教育学  友納 理緒

Ⅰ.はじめに ‘92年診療報酬改定において基準看護承認用件に「2交代も差し支えない」の一項が加えられてから、2交代が増加傾向 ’99年の病院看護基礎調査では、一般病棟では、   3交替制勤務‐63.9% 2交代制勤務‐33.9% 全体としては2交代制勤務を推進する方向へ

なかでも、2交代制勤務の大きな課題の一つは 2交代制勤務の問題点 12時間、16時間という長時間勤務による看護師への負担 休憩(仮眠)の確保が困難 事故を誘発する可能性がある!という意見もある。 なかでも、2交代制勤務の大きな課題の一つは 睡眠(仮眠も含める)の問題である

Ⅱ.研究目的 勤務中の眠気・疲労による事故を減らすこと 看護師の生活の質を向上させること 仮眠の確保の問題を解決する糸口を見つけることで、2交代制勤務の導入率をさらに高めること これらの達成が、結局は患者安全の向上につながっていくものである。 患者安全の向上 看護師の勤務体制の整備

Ⅱ.研究方法(文献検索) 検索期間:1996~2003年の過去8年間 検索資料:国内文献‐医中誌インターネット版 海外文献-MEDLINE       海外文献-MEDLINE 医中誌(看護;原著;ヒト)   keyword:「交代制勤務、看護師、睡眠、仮眠」 MEDLINE   keyword:「shiftwork, sleep, nurse」

Ⅲ.研究結果   文献検索結果 医中誌による検索結果 ⑥「交代制勤務、看護師、睡眠」で5件 ⑦「交代制勤務、看護師、仮眠」で3件

 文献検索結果 MEDLINEによる検索結果 ④「shiftwork, nurse, sleep」で4件

文献検討に用いた文献 看護職の睡眠・仮眠の実態、効果、対策 医中誌とMEDLINEで検索した文献 文献を選択 考えられる文献  文献検討に用いた文献 看護職の睡眠・仮眠の実態、効果、対策 などについて扱っている 文献を選択 医中誌とMEDLINEで検索した文献 ・国内文献 6件 ・海外文献 1件 その他の重要と 考えられる文献 ・国内文献 8件 ・海外文献 6件

看護職の交代制勤務と睡眠の実態 勤務体制の実態 睡眠の実態 勤務形態: 3交替>2交代 日勤 準夜勤 深夜勤 勤務の組み方:  勤務体制の実態 勤務形態: 3交替>2交代 日勤 準夜勤 深夜勤 勤務の組み方:    ①毎日異なった勤務帯  71.9%    ②2~3日で勤務帯が異なる 18.6%    →96.2%が一週間に3つの勤務帯を        交代で働いている 勤務帯の交代方向:     右回り 5.8%<左回り 28.6%     右回り/左回り混在 28.8%  勤務の仕方:日勤→深夜 37.6%             準夜→日勤 12.9%  勤務間隔:約半数が11時間以内 夜勤: 全Nsの70%        約半数が2人以下夜勤           睡眠の実態 仮眠:8時間夜勤-10%以下       12時間夜勤-40%                 16時間夜勤-77.4% 平均仮眠時間は、夜勤時間の関数で比例しない。12時間が最も多い。 12時間、16時間夜勤では勤務の後半に仮眠を取得 勤務前仮眠は、89%がとっており、19時代台にとる者が多い。時間は、163.0分±65.2分

睡眠に関する基礎的情報 睡眠は、休息と活動のサーカディアンリズムを背景としている。  睡眠に関する基礎的情報 睡眠は、休息と活動のサーカディアンリズムを背景としている。 不足すると、大脳の情報処理能力に悪影響が出て、事故や過誤が起こりやすくなる。 睡眠には、a. ノンレム睡眠とb. レム睡眠がある。   1セット:90分  一晩:平均5セット繰り返される    a. ノンレム睡眠-4段階 (2段階が1番長い)  深い     b. レム睡眠-入眠70~90分あたりの睡眠 浅い     *起床時、夢を覚えている場合、レム睡眠が中断された証拠! 交代制勤務などにより睡眠のサイクルが壊れた場合、回復には7~14日間必要である。

仮眠に関する基礎的情報 仮眠は、夜勤に伴う眠気や作業能力の低下、疲労、ストレスに対しては 効果的である。  仮眠に関する基礎的情報 仮眠は、夜勤に伴う眠気や作業能力の低下、疲労、ストレスに対しては    効果的である。 仮眠なしのNsは、昼間の睡眠でも仮眠ありのNsと同じだけの睡眠時間を    取れないため、疲労が溜まる。(仮眠の必要性あり) 仮眠と疲労の関係   ①勤務前の仮眠のみの場合は、その仮眠時間が3時間以上ならば、勤務終了後の 疲労感が低下する。 ②勤務中の仮眠のみの場合は、仮眠時間1時間を超えれば、勤務前の仮眠よりも 勤務終了後の疲労感が低下する。 ③同じ仮眠時間をとるならば、勤務前の仮眠よりも勤務中の仮眠の方が勤務終了後 の疲労感を低下させる。   →つまり、深夜勤務帯に1時間以上の仮眠を取ることが、慢性疲労を予防 するために効果的である。 しかし、仮眠直後は、事故や過誤の危険性が高い。

サーカディアンリズムに関連する事項 人間のサーカディアンリズムは24時間よりやや長い約25時間周期である。 サーカディアンリズムにより、人は日中活動し、夜間眠るように調整されている。 そのため、日中の睡眠は軽く浅い。 交代制勤務をしている看護師や夜専の看護師は、睡眠の質が乏しく、眠気によるミスを起こしやすい。 具体的には、3交替制勤務者は、日勤のみの勤務者に比べて、睡眠不足による医療事故が1.83倍、通勤中の居眠りや事故が約2倍といわれている。 2交代制勤務より3交代制勤務の方が有意に生体リズムへ影響を与える。

効果的な睡眠・仮眠のとり方のポイント 睡眠のポイント 仮眠のポイント 看護師の勤務前の仮眠は、自宅  効果的な睡眠・仮眠のとり方のポイント   睡眠のポイント 身体や筋肉を回復させるために、少なくとも7時間は床につく必要がある 夜勤が続く場合、夜勤後2回の睡眠をとるといい。   ①夜勤後すぐ ②午後1~5時 夜勤後日常の生活に戻る場合   ①夜勤後すくに2~3時間    ②その日の夜 就寝前3時間は激しい運動を避けるべき 就寝前1~2時間は飲酒を、6時間はカフェイン摂取を避ける 睡眠環境を整備すること  仮眠のポイント 2交代勤務中は午前1~4時、3交代勤務中は午前3~6時が適している。 長さは前述の通り 仮眠環境を整備すること:   看護師の勤務前の仮眠は、自宅    で取るより病院でとる場合の方    が有意に長い 仮眠確保のためには、3交代より2交代が望ましい 夜勤の看護師数は、交代で仮眠を確保できるように3人以上が望ましい

看護職としてのアクションプラン 臨床現場からのアプローチ  看護職としてのアクションプラン  臨床現場からのアプローチ 看護ケアの質、看護師自身の生活の質向上のために、臨床側・研究側相互の歩み寄りと協力が必要不可欠 臨床側は、異常さを主張し、変わる手間をおしまない。研究側は、利用しやすいツールの開発、巡回・面接の実施。   睡眠・仮眠に関連する知識を提供する教育の充実 教育機関の教育プログラムの中に、交代制勤務を取り巻く、睡眠・仮眠・サーカディアンリズムへの影響、眠気と医療ミスのリスクの関係などの問題について考える時間を導入すべき 継続教育の中で、交代制勤務についての知識を提供すべき    「目の前の患者だけに対して最高の看護をするのではなく、すべての患者に最高の看護を提供する!」 一時の無理によるミスを防ぐ 将来的には、セルフスケジューリングシステムが導入できるように・・・

看護職としてのアクションプラン 夜勤あけの睡眠のとり方に関する研究の実施 政策改革への参画 先行研究等からの“ガイドライン”の作成  看護職としてのアクションプラン  夜勤あけの睡眠のとり方に関する研究の実施  政策改革への参画 臨床の場のみで解決できる問題の限界 研究者は、臨床の場に問題点を提示したり、対策を考案をしていく一方で、政策を作成する側に対しても問題解決のため、政策の改革の必要性を訴えていく必要がある。  先行研究等からの“ガイドライン”の作成 仮眠のとり方(時間帯、長さ)や看護師の睡眠障害の防止方法に関する文献はいくつかあるが、臨床の現場が参考にできるような“ガイドライン”が存在しない 全体としての統一見解“ガイドライン”の必要性‐病棟が導入しやすいような具体的情報を含む

看護職としてのアクションプラン 新たな勤務体制の確立  看護職としてのアクションプラン  新たな勤務体制の確立 ガイドライン作成時、このガイドラインを十分に考慮した勤務スケジュールを実際の業務において実施・評価し、より事故のリスクの   低い勤務体制・スケジュールのあり方を構築していくことが重要 今回の文献検討からみえた睡眠のために理想的な勤務体制の条件    ・2交代(3交代では右回り)が最適    ・勤務時間帯を約3週間固定する    ・次の勤務帯に移行するまで少なくても24時間あける    ・仮眠スペースを確保・整備する