『マクロ金融特論』 (4) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論2016
世界各国の為替相場制度 ブレトンウッズ体制 1971年8月、ニクソン・ショック(金ドル交換停止) 1973年、主要国が変動為替相場制度へ移行 1978年、キングストン合意(自由に為替相場制度を選択) マクロ金融特論2016
国際金融のトリレンマ アメリカ ユーロ圏 マクロ金融特論2016 出典:小川英治「東アジアの通貨事情が見える「国際金融のトリレンマ」入門 」『プレジデント』2011.6.13号
為替相場制度の分類 自由変動 ソフト・ペッグ ハード・ペッグ 固定為替制度 管理フロート制度 BBCルール カレンシー・ボード 通貨同盟 ドル化 変動為替制度 バスケット・ペッグ ドル・ペッグ マクロ金融特論2016
両極の解 と 中間的為替制度 両極の解(two corner solutions):自由変動為替相場制度(free float)または厳格な固定為替相場制度(hard peg) 中間的為替制度(soft peg) :伝統的な固定為替相場制度、管理フロート制度 WilliamsonのBBC(Basket, Band, Crawling)ルール マクロ金融特論2016
図2:為替相場制度採用数の推移 マクロ金融特論2016
どの為替制度が良いかは、ケース・バイ・ケース。 中間的為替制度より両極の為替制度の方が望ましいという理論的根拠はない。 両極の為替制度 vs. 中間的為替制度 為替相場の変動性・固定性には、様々なメリット・デメリットによるトレード・オフ関係がある。最適な為替制度が両極(corner solution)にあるとは一概には言えない。 どの為替制度が良いかは、ケース・バイ・ケース。 中間的為替制度より両極の為替制度の方が望ましいという理論的根拠はない。 マクロ金融特論2016
固定為替相場制度のメリット 為替相場の安定性 インフレ的金融政策の抑制 金融政策に対する信認 マクロ金融特論2016
為替相場の安定性(1) 企業が為替リスクに直面している。 企業の利潤 マクロ金融特論2016
為替相場の安定性(2) 利潤の期待効用( ) マクロ金融特論2016
為替相場の安定性(3) 利潤の期待効用最大化 ⇒生産の限界費用に企業の危険負担費用が上乗せされたものと価格が等しい生産水準で最適化される。生産量が減少する。 マクロ金融特論2016
インフレ的金融政策の抑制 政府にインフレを発生させる誘引(通貨発行利益、インフレ税)がある。 固定相場制度下において、金融政策の自由度を失うことによってその誘引を抑制する。 インフレ抑制的な金融政策を行う外国の通貨に自国通貨を固定することによって、自国でインフレ抑制。 マクロ金融特論2016
図2:政府収入に占める通貨発行利益とインフレ率 マクロ金融特論2016
金融政策に対する信認 インフレ抑制的な金融政策スタンスをもつ外国の通貨に自国通貨を固定することによって、金融政策の自由度に縛りをかけ、民間経済主体による金融政策に対する信認を高める。(インフレ抑制の名声の輸入) マクロ金融特論2016
変動為替相場制度のメリット 国際収支調整の費用 金融政策の自由度 安定的投機 マクロ金融特論2016
国際収支調整の費用 固定為替相場制度下における国際収支調整の費用=赤字の場合には失業の増大 変動為替相場制度下における国際収支調整の費用=為替相場の調整 マクロ金融特論2016
金融政策の自由度 変動相場制度下においては、金融政策の自由度が高まる。 外国の金融引締めによって外国利子率が上昇すると、資本が自国から外国へ流出する。自国通貨に対して減価圧力が作用する。 変動相場制度下では、貨幣供給を管理可能。 固定相場制度下では、為替介入によって貨幣供給が減少。自国でも金融引締め。 マクロ金融特論2016
安定的投機 Friedman:投機の自然淘汰説 ファンダメンタルズを知らない投機家は市場から排除される。 ファンダメンタルズを知らない投機家は市場から排除される。 結果として、ファンダメンタルズを知っている投機家のみが市場に残る。 投機は為替相場をファンダメンタルズに向かって安定化させるように作用する。 マクロ金融特論2016
投機は本当に安定的か? バブルの発生 情報の不完全性⇒群衆行動 ①美人投票モデル ②名声モデル ③情報の段階的伝達(カスケード)モデル 合理的予想を持つ投機家vs.ノイズ・トレーダ マクロ金融特論2016
固定為替相場制、カレンシー・ボード、ドル化、通貨同盟 より厳格な固定制のメリット ①制度の信認 ②金利のリスク・プレミアムの軽減 より厳格な固定制のデメリット ①為替相場以外による調整 ②国内の中央銀行(最後の貸し手)の不在 マクロ金融特論2016
固定相場制vs.管理フロート制 制度の透明性とアカウンタビリティ 信認⇒ハネムーン効果 介入の効果や制度の維持のための裁量と曖昧さ マクロ金融特論2016
単一共通通貨ユーロの導入 1999年1月1日より経済通貨同盟(EMU: Economic and Monetary Union)の第3段階に入る。EU(発足当時11か国、現在、18か国)が金融取引においてユーロを導入。 2002年1月1日よりユーロ紙幣・硬貨が流通。 ユーロ導入国: ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、オーストリア、フィンランド、ポルトガル、アイルランド、ルクセンブルグ、ギリシア、スロベニア、 キプロス、マルタ、スロバキア、エストニア、ラトビア 【未参加:イギリス、スウェーデン、デンマーク、新EU7か国[ポーランド、チェコ、ハンガリー、リトアニア、ルーマニア、ブルガリア、]は未参加。その内、ERMⅡ国は、デンマーク、リトアニア】 マクロ金融特論2016
ユーロとその導入国 2015年1月1日より リトアニア Source: European Central Bank マクロ金融特論2016
表1:ユーロ圏と日・米の比較主要データ ユーロ圏 米国 日本 人口* (100万人) 303 278 127 面積 (1,000 km2) 2,495 9,373 378 GDP** (10億ユーロ) 6,553 10,709 5,145 世界貿易に占める割合 15.2% 20.3% 8.1% マクロ金融特論2016 出典:欧州委員会
通貨同盟への道のり 1979年に当時のEC加盟国が欧州通貨制度(EMS:European Monetary System)を導入し、為替相場メカニズム(ERM:Exchange Rate Mechanism)を採用。 EMS参加国通貨の加重平均値である欧州通貨単位(ECU:European Currency Unit)が導入。ECUを基準にグリッド方式でEMS参加国通貨間の為替相場を±2.25%(一部の国、時期には6%や15%)の許容変動幅(band)内に安定化。 1990年よりEMUの第1段階 1992年に欧州通貨危機が発生 1994年よりEMUの第2段階 1999年よりEMUの第3段階 2002年よりユーロ紙幣・硬貨が流通 マクロ金融特論2016
経済通貨同盟(EMU)の3段階アプローチ 出所:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_eu/k_kankei/pdf/eu_j_0408.pdf#01 マクロ金融特論2016
欧州中央銀行制度 欧州中央銀行制度(ESCB: European System of Central Banks) 欧州中央銀行(ECB: European Central Bank)と各国中央銀行(NCB: National Central Bank)によって組織 欧州中央銀行が一元的な金融政策を運営。 欧州中央銀行が金融政策を決定し、各国中央銀行が金融政策を遂行する。 欧州中央銀行の金融政策の目標は物価安定の維持(消費者物価指数を中期的に2%を下回ること)。 マクロ金融特論2016
図3:ECBと各国中央銀行 欧州中央銀行制度 ECB 理事会 各国中央銀行 各国中央銀行 各国中央銀行 各国中央銀行 【政策決定】 【政策運営】 マクロ金融特論2016
通貨同盟参加のための経済収斂条件(マーストリヒト基準) EMUに参加して、ユーロを導入するためには、以下の経済収斂条件(マーストリヒト基準)を満たす必要がある。 物価:過去1年間、消費者物価上昇率が、消費者物価上昇率の最も低い3か国の平均値を+1.5%より多く上回らないこと。 財政: GDPに対して財政赤字が3%以下であり、GDPに対して政府債務が60%以下であること。 為替相場:少なくとも2年間、独自に切下げを行わずに、深刻な緊張状態を与えることなく、欧州通貨制度EMSの為替相場メカニズム(ERM)の許容変動幅内にあること(ERMⅡの許容変動幅は15%) 金利:過去1年間、消費者物価上昇率が最も低い3か国の長期金利の平均値を2%より多く上回らないこと マクロ金融特論2016
表2:ユーロ導入直前(1998年)の経済収斂条件 Data: ECB マクロ金融特論2016
図4a:ユーロ圏諸国のインフレ率 マクロ金融特論2016 Data: ECB
図4b:ユーロ圏諸国の長期金利 マクロ金融特論2016 Data: ECB
図4c:ユーロ圏諸国の財政赤字 マクロ金融特論2016 Data: ECB
図4d:ユーロ圏諸国の政府債務 マクロ金融特論2016 Data: ECB
未参加国のユーロ導入とERMⅡ ERM(Exchange Rate Mechanism)Ⅱ ・ユーロ導入の1999年1月1日から実施 ・通貨同盟未参加国のユーロ導入の準備段階 ・当該国通貨とユーロの為替相場を一定の変動幅で連動させる。 ・ERMⅡ国:デンマーク、リトアニア マクロ金融特論2016
通貨統合の理論:最適通貨圏 最適通貨圏とは、通貨同盟に参加して、共通通貨を利用することが適している地域。 各国間で非対称的ショックが発生したときに、通貨統合後は、為替相場以外の手段で非対称的ショックによって生じる各国経済間の不均衡を調整する必要がある。 マクロ金融特論2016
非対称的ショックに対する対応 A国 好況 B国 不況 労働者不足 失業 労働の移動 貿易 財政移転 為替相場による調整 A国通貨増価 B国通貨減価 労働者不足 失業 マクロ金融特論2016
最適通貨圏の基準 ショックの対称性 労働の移動性 貿易面における経済の開放度 財政移転 マクロ金融特論2016
ショックの対称性 非対称的な供給ショック(石油ショック、生産性ショック) 為替相場以外の調整が必要となる。 為替相場以外の調整が必要となる。 非対称的な需要ショック(消費者の選好ショック、投資や輸出に与えるショック) 自然失業率仮説から言えば、各国における物価による調整によって、長期的な非対称的な需要ショックは消失する。 マクロ金融特論2016
表2:総供給ショックの相関(1969~89年) マクロ金融特論2016
労働の移動性 非対称的な供給ショックに対して、労働の移動性によって対応可能。 A国 好況 B国 不況 労働者不足 労働者移動 失業 賃金上昇 賃金低下 マクロ金融特論2016
貿易面における経済の開放度 需要増大ショック←輸入増で対応 需要減少ショック←輸出増で対応 貿易面において経済が開放されていないと、需要ショックを国内で吸収。GDPや物価水準が変動。 マクロ金融特論2016
財政移転 好況の国で得られた租税を不況の国に補助金として支払う。 国際的な財政移転が可能となるためには、財政政策における国際政策協調や各国の財政主権の統合が必要。 マクロ金融特論2016