第5回 日本語教育と音声研究会 談話と音声 ー音声教育との接点ー 早稲田大学 戸田貴子 toda@waseda.jp 2006年7月8日.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
第 4 課 写真をとっ てもいいですか?. 目的 許可に関する表現が聴き取れる。 聴く前に ( 1 )聴解に使う音声的知識について学 ぶ。 ー 外来語( 2 ) ( 2 )絵を見て許可を求めたり許可をし たりする。
Advertisements

Prohibition 新しい漢字 日本語212 1月7日(木) 1. あたらしい動詞 (new verbs) あくしゅをする おじぎをする くるまをうんてんする 2.
日本の高校における英語の授業は 英語でがベストか? A13LA161 文学部2年 米山里香子 英語で授業を行うべきではない.
インドネシアの高等教育における 日本語教育の現状と問題 Wawan Danasasmita インドネシア教育大学( UPI )
日本語教授法 & 日本語教育とは  外国語としての日本語、 第二言語としての日本語 についての教育の総称である。
日語誤用分析 (大学院) 2月 21 日(月・一)~ 担当 神作晋一. 第1章 第二言語習得論とは 1. 「対照分析」の時代 2. 「対照分析」から「誤用分析」へ 3. 中間言語分析へ.
日語課程設計與研究 (大学院) 2月15日(水・三)~  担当 神作晋一.
日本人のリズム感.
教授学的状況理論による 日豪数学科授業の比較分析 の試み
研修のめあて 授業記録、授業評価等に役立てるためのICT活用について理解し、ディジタルカメラ又はビデオカメラのデータ整理の方法について研修します。 福岡県教育センター 教員のICT授業活用力向上研修システム.
コンピュータ プレゼンテーション.
意見・考えを問う授業における インタラクションの特徴
府内の小・中学校に普及 使える英語プロジェクト事業費 「習得」中心の授業
日本語教育における 発音指導の到達目標を考える
神戸大学大学院国際文化学研究科 外国語教育論講座外国語教育コンテンツ論コース 神戸 花子
日本語を考える Introduction to Japanese Linguistics
DLSJ (A Distance Learning System for Japanese)
プレゼンテーションの技法 諏訪邦夫.
明示的知識とコミュニケーション能力: 文法指導の意義と位置づけに関する提案
教科用教材ソフトの「英語フラッシュカード」を電子黒板で実行
経営学部 キャリアマネジメント学科 宮前 駿史
森田 衛 国際交流基金 釜山日本語教育室 2014年 大邱中等日本語教育研究会研修会 2014年5月27日 大邱グローバル教育センター
日本語複合動詞の習得研究 ―使用実態の調査を中心に
第9課.
If: The たらConditional pg.457
日本語教育グローバルネットワーク J-GAP
~私たちはことばを使って何をしているか~ 学びLIVE2006/6/18 東洋大学 三宅和子
「自分を理解し、理解してもらいたい」 自然な感情
2011年6月24日(金) 於 名桜大学言語学習センター 国際学群 伊藤孝行
複言語・複文化状況における日本語教育 -ことばの教室で私たちがめざすもの
Global Exploration Program in Beppu
C-2 導入プレゼン1 国際交流って何?.
1 提案授業について      平成24年度 小学校外国語活動研修講座.
英語絵本と読み聞かせ -読み聞かせ体験の有効性-
形式言語とオートマトン Formal Languages and Automata 第4日目
形式言語とオートマトン Formal Languages and Automata 第4日目
リメディアル英語教育における チャンツの効果
小中連携を進めるために! 外国語教育における 三つのステップと大切にしたいこと 岐阜県教育委員会 学校支援課
広瀬啓吉 研究室 4.音声認識における適応手法の開発 1.劣条件下での複数音源分離 5.音声認識のための韻律的特徴の利用
高校における英語の授業は英語でがベストか
形式言語とオートマトン Formal Languages and Automata 第4日目
第23回応用言語学講座公開講演会 会話分析からみた文法研究の新展開 講師:林誠先生(米国イリノイ大学准教授)
教育工学を始めよう ~研究テーマの選び方から論文の書き方まで~ (第1章)
第1課 みんなの日本語(初級Ⅰ本冊) 始めましょう!.
演習1 英語ノートを使った          ICTによる授業.
1.発音しよう 2.足し算にトライ 3.読んでみよう
ておく.
第 九 課 2019/4/6.
2. 音声とは 2.1 音声の科学 2.2 どうやって声を作るか ー調音音声学 2.3 声の正体とは ー音響音声学 2.4 どうやって声を聴き取るか ー聴覚音声学.
日本の高校に於ける英語の授業は 英語で行うのがベストか
小学部児童が友だちに要求を 受け入れられなかったときに自傷をせず 言葉で伝えることができるための支援
多文化共生社会への取り組み: 多文化共生教育の現状 2
英語学習者のためのオンライン自学自習ソリューション
日本の高校における英語の授業は 英語がベストか?
井上郁菜 原田祐介 福井優志 白チリゲル 平川絢瑚 井上恵利佳
日本の高校における英語の授業は英語でがベストか?
Microsoft PowerPoint 2001 Netscape Communicator Fetch 3.03
研究の軌跡と今後の展望 外国語学習の科学:SLA研究の過去・現在・未来 ―30年を振り返り、これからの研究を考える― 第20回
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
英語音声学(6) イントネーション.
2015 The 10th International Symposium on Oral Proficiency Interview
明示的文法知識が 正確な言語使用に結びつかないケース 浦野 研(北海学園大学)
シカゴ国際体験プログラム in DeKalb
呂 雷寧 RO, Rainei (上海財経大学 外語学院・ 常勤講師)
Copyright © 2017 Benesse Corporation All Rights Reserved.
  情報に関する技術       情報モラル授業   .
韓国人日本語学習者による多義動詞の習得における母語の影響 ―典型性と転移可能性の観点から―
英語音声学 前期・木1・CALL1 担当:福田 薫
プレゼン資料(進行者用・研修者用)   校内研修会 教師自身の望ましい自己表現.
Presentation transcript:

第5回 日本語教育と音声研究会 談話と音声 ー音声教育との接点ー 早稲田大学 戸田貴子 toda@waseda.jp 2006年7月8日

1.文法と音声 例:終助詞「ね」「よ」 2.談話と音声 例:あいづち、フィラー、ポーズ 3.待遇表現と音声 例:丁寧さと音声の関係 音声研究の広がりと可能性 1.文法と音声   例:終助詞「ね」「よ」 2.談話と音声   例:あいづち、フィラー、ポーズ 3.待遇表現と音声   例:丁寧さと音声の関係

音声コミュニケーション研究 発話 意図 形式 話し手 聞き手 場面 内容 聴取 音声を媒材とした話しことばに関する研究

発表の目的 1.日本語教育の視点から談話研究と 音声教育の接点について考察する。 2.談話における音声的誤用が   音声教育の接点について考察する。 2.談話における音声的誤用が   コミュニケーションに及ぼす影響に   ついて述べる。 3.具体的な音声教育方法の検討を行う。

「そうですか」のイントネーション1 なぜ誤解が生じたのか

「そうですか」のイントネーション2 表現意図を伝達する音声表現とは

「そうですか」のイントネーション3 母語(母方言)からの転移

音響分析1 NNS_SOODESUKA

音響分析2 NS _SOODESUKA

音響分析3

自然環境と教室環境 イントネーションの誤用 学習者による気づき NSによる指摘  ×指導

談話研究と音声教育との接点 「『そうですか』の意味は?」 単文では指導できない。談話レベルで 導入する必要がある。  「『そうですか』の意味は?」 単文では指導できない。談話レベルで  導入する必要がある。 疑念・落胆・喜び・ 驚き・躊躇等の  表現意図の伝達と音声表現の関係。  (戸田2004)

音声教育方法論の検討 教師用日本語教育ハンドブック⑥ 発音 改訂版 (1989) 国際交流基金日本語国際センター 第6章 練習問題 発音 改訂版 (1989) 国際交流基金日本語国際センター  第6章 練習問題 コイの好きな校医に対する好意が恋に変わった。 三条さんは山上から三畳の部屋へ帰った。

教育理念 話者の気持ち 音声表現 音声教育とは学習者の表現意図(気持ち)を伝えるための音声表現の学習機会を提供すること。教師による単なる音声的規範(モデル)の提示だけでは、コミュニケーション教育とは言えない。

【聞いてみよう】 【発音してみよう】 【声に出して練習しよう】 【考えてみよう】 【コラム】 【応用練習1~3】 【タスク】 各課の構成 【聞いてみよう】 【発音してみよう】 【声に出して練習しよう】 【考えてみよう】 【コラム】 【応用練習1~3】 【タスク】 (戸田2004)

1.じゃない 1)いい会社じゃない? 意見求め 2)いい会社じゃない。 否定 3)いい会社じゃない。 驚き 「第9課 イントネーション」 【発音してみよう】 1.じゃない 1)いい会社じゃない? 意見求め 2)いい会社じゃない。 否定 3)いい会社じゃない。 驚き 「第9課 イントネーション」

【応用練習】 4.レストランで 「ここは、わたしが。」 「えっ、でも…。」 「わたしが誘ったんですから、 払わせてください。」 「そうですか…。じゃ、今日は ごちそうになります。」

5.大学で 「日本語が上手ですね。」 「いや、まだまだです。勉強を始めてまだ半年ですから。」 「そうですか。そんなふうには見えませんね。」 【応用練習】 5.大学で 「日本語が上手ですね。」 「いや、まだまだです。勉強を始めてまだ半年ですから。」 「そうですか。そんなふうには見えませんね。」

旅行の計画 聞き返しのイントネーション 「ホテル?」「旅館?」 →アクセントとイントネーションの関係 言いよどみ 「和室はちょっとね…。」 【応用練習】 旅行の計画 聞き返しのイントネーション  「ホテル?」「旅館?」 →アクセントとイントネーションの関係 言いよどみ  「和室はちょっとね…。」

【応用練習】 グループ1:拗音化(Palatalization) グループ2:脱落(Elision) グループ3:融合(Coalescence) グループ4:撥音化 (Moraic Nasalisation) 「第4課 話しことばの発音」

言語の普遍性 調音のしやすさ 拗音化(Palatalization) 食べちゃ(食べては),飲んじゃ(飲んでは)  食べちゃ(食べては),飲んじゃ(飲んでは)  I betcha (I bet you), Wouldja (Would you) 脱落(Elision)  ~てる(~ている), ~てく(~てくる)  it’s (it is) , c’est (ce est ) Toda(2006)

言語の個別性1 ストレスタイミング vs モーラタイミング (Stress-timed) (Mora-timed) ストレスタイミング vs モーラタイミング (Stress-timed)    (Mora-timed) 英語(Stress-timed language)  強勢のない音節で起こる。 日本語(Mora-timed language)  強勢とは関係なく起こる。 Toda(2006)

言語の個別性2 融合(Coalescence) 降りて上がる ×降りたがる ~とく(~ておく), ~たげる(~てあげる)   ~とく(~ておく), ~たげる(~てあげる)  上がって降りる ×上がっとりる  降りて上がる  ×降りたがる Toda(2006)

撥音化(Moraic Nasalisation) 食べられない (食べらんない) 帰れない ×帰んない, 帰れんない Toda(2006) 言語の個別性3 撥音化(Moraic Nasalisation)  食べられない (食べらんない)  帰れない ×帰んない, 帰れんない Toda(2006)

【コラム】 「このカメラ、持ってて。」 友達のカメラを持って、そこで待っています。 「このカメラ、持ってって。」  友達のカメラを持って、そこで待っています。 「このカメラ、持ってって。」  友達のカメラを持って、どこかに行きます。  →促音の有無が、行動展開に影響する。 戸田(2004)

同僚を誘ってビアガーデンへ。 友達の誕生日パーティーの準備。 人気の映画の前売り券の購入。 →試験の準備、地震の備え。 戸田(2004) 【応用練習】 同僚を誘ってビアガーデンへ。 友達の誕生日パーティーの準備。 人気の映画の前売り券の購入。 →試験の準備、地震の備え。 戸田(2004)

まとめと今後の課題 談話研究と音声教育 談話レベルの発音練習 音声を視野に入れた談話研究の成果を 音声教育に応用する。  音声を視野に入れた談話研究の成果を  音声教育に応用する。 談話レベルの発音練習  適宜音声に焦点を当て、学習者の注意を  喚起する。(Focus on Form)

参考文献 窪薗晴夫(1999) 『日本語の音声』岩波書店 --------(2006) 『アクセントの法則』岩波書店 田中真一・窪薗晴夫(1999) 『日本語の発音教室』くろしお書店 戸田貴子(2003) 「外国人学習者の日本語特殊拍の習得」 『音声研究』7巻2号、日本音声学会 pp.70-83. --------(2004) 『コミュニケーションのための日本語発音 レッスン』スリーエーネットワーク. Toda, T. (2003) Second language speech production and perception: acquisition of phonological contrasts in Japanese, Lanham, MD: University Press of America. --------(2006) Focus on form in teaching connected speech. In J.D.Brown, & K. Kondo-Brown, (Eds.), Perspectives on teaching connected speech to second language speakers (pp.187-203). HI: University of Hawai’i Press.