日本語字幕か吹き替えか ―ピクサーTM映画『カーズ』の場合― 永山友子(神奈川大学外国語学部非常勤講師)
本研究の目的 日本で公開された、アメリカ英語アニメーションの日本語字幕版と日本語吹き替え版を比較検討し、共通点と相違点を指摘しながら、マルチモード・ディスコース(multimodal discourse)の表現性の可能性を追究する。
理論的背景 Discourse in Place (Scollon and Scollon, 2003) Geosemiotics → 環境記号論
マルチモード・ディスコース (multimodal discourse) 表現モード(mode) 見せるモード(seeing mode) 聞かせるモード(hearing mode) 理解させるモード(understanding mode) 感じさせるモード(feeling mode)
データ 日本で公開された、アメリカ英語アニメーション映画『カーズ』 (原題Cars) (2006年、アメリカ、(日本公開は、2007年)の日本語字幕版と日本語吹き替え版 アメリカ公開2006年6月、日本公開2007年
日本語字幕版 英語から日本語へのコード・スイッチング(code-switching) 英語のセリフから、日本語の字幕へのモード・スイッチング(mode-switching) → 聞かせるモードから見せるモードへ の切り替え
日本語吹き替え版 英語から日本語へのコード・スイッチング モード・スイッチングは行われていないが、セリフだけでなく、一部の英語表記が日本語に書き換えられている
コード・スイッチング(code-switching) ある言語の使用から、他の言語の使用への切り替え ⇒ どの表現モードでも起こりうる
モード・スイッチングmode-switching 吹き替え版の途中で、聞かせるモードから、見せるモードへの切り替え 英語版が見せている英語表記を、吹き替えのセリフで読み上げて聞かせる (eg. Hudson Hornet)
字幕の表現性 縦書きと横書き カタカナ 傍点 記号
吹き替えたセリフの表現性 イタリア語のセリフを、日本語を話せるイタリア人に吹き替えさせている イタリア語を日本語に訳さず、そのままにしている ジョーク
吹き替え版における コード・スイッチング 英語版が見せている英語表記を、日本語表記に書き換える eg. 『ラスト・ラップ』、『ドライブインの表示』
オリジナル英語版における コード・スイッチング イタリア語 ⇒ 英語 eg. ルイジとシューマッハ 英語 ⇒ 日本語 eg. 日本のテレビの番組
字幕版と吹き替え版の 共通点 タイヤの斜塔(ピサの斜塔のパロディ) イタリア語しか話さないグイドのセリフを採り上げていない シューマッハの英語からイタリア語へのコード;・スイッチング コード(モード)・スイッチングをしている英語表記としていない英語表記がある
字幕版と吹き替え版の 相違点 Route 66の意味合いを伝えているかどうか Radiator Springs の創始者 Morgan Stanleyを紹介しているかどうか
結論 1 子どもや、英語が分からない日本人母語話者の観客を対象にした英語アニメーションを日本で公開する場合には、話の分かりやすさと正確さを混同するべきではない。
結論 2 字幕をつけるかつけないか、そして、どのようにセリフを吹き替えるかという問題は、情報操作につながる可能性があるため、観客側のメディア・リテラシーが重要である。 e.g.『つみきのいえ』 (ナレーションがない日本語 アニメーション)、 『チェブラーシカ』(キリル文字を使用するロシア語映画 の日本語字幕版と日本語吹き替え版)