公衆衛生学コース 人を対象にした研究のデザインⅡ 藤田 裕規 近畿大学医学部公衆衛生学.

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公衆衛生学コース 人を対象にした研究のデザインⅡ 藤田 裕規 近畿大学医学部公衆衛生学

本講義の目標 SBO 特異的行動目標 GIO 一般教育目標 記述疫学から得られた仮説を検証する分析疫学の概要を習得する 分析疫学の目的と方法の概要を説明できる 症例対照研究とコホート研究の方法と得失を説明できる コホート研究とランダム化比較試験の違いを説明できる

疫学調査の種類と目的 観察疫学研究 介入疫学研究 記述疫学研究 分析研究 (横断研究、コホート研究、症例対照研究) 臨床試験(個人割付介入研究) 集団割付介入研究 疫学者は黙って観察しているだけで、何も手をださない 曝露状況を研究者自身の介入によって変化させ、その後の疾病発生頻度が変化するかどうかを検討する。

分析疫学 Analytical epidemiology  記述疫学調査で導かれた仮説を人間集団で検証し、仮説をより確かなものにする研究方法 研究デザイン 症例対照研究 コホート研究

A医師の研究  A医師はかねてより胃癌患者に喫煙者が多いと感じていた。そこで、胃癌患者100人についてその生活習慣を調べ、喫煙者が85人を占めていることを発見した。  彼はこの喫煙率は明らかに高率であり、喫煙が胃癌の原因になっていることを示すものと考えた。 A医師は正しいですか。

A医師の研究の問題点 胃癌患者の喫煙率85%は高そうに見えるが、胃癌でない患者でも喫煙率は85%程度かもしれない。 胃癌患者の喫煙率が胃癌でない患者の喫煙率よりも明らかに高いことを示す必要がある。 対照群が必要。 (症例群) 胃癌患者 喫煙率85% (対照群) 胃癌でない患者 喫煙率?% 比較

症例対照研究(患者対照研究) case-control study (2)危険因子への曝露状況の把握 (1)疾患発生状況の把握 曝露群 疾病群 疾病発生群の曝露頻度の観察 (症例) 非曝露群 曝露群 非疾病群 疾病非発生群の曝露頻度の観察 (対照) 非曝露群 観察の方向性=逆行 時間の流れ 観察開始時点

A医師の研究 Ⅱ A医師は、喫煙が胃癌と関連するかどうかを調べるために、胃癌患者100人と、胃癌でない人(対照群)100人の喫煙状況を調査した。患者群では100人中、喫煙者が85人を占めたが、対照群では45人であった。 A医師は、胃癌患者の喫煙率が対照群に比べて有意に高いことから、喫煙が胃癌の原因になっていると考えた。 A医師は正しいですか。

症例対照研究 症例(患者)群 (胃がん) 対照群 (胃がんでない) 要因曝露 (喫煙) あり 85 45 なし 15 55 100 要因曝露率 症例群:85/100  対照群:45/100 オッズ 症例群:85/15   対照群:45/55

A医師の研究Ⅱの問題点 曝露情報(喫煙)は被験者の記憶に頼ることが多いので、不確か。 胃癌の発症よりも喫煙開始が時間的に先んじていることを証明できない。 一般に、症例対照研究では、原因は結果に先んじる「関連の時間性」を証明できない。

A医師の研究 Ⅲ A医師は、症例対照研究の弱点を克服するために、大阪狭山市の住民で胃癌検診で異常がなかった1万を喫煙状況を把握した上で、1年間追跡した。その結果、喫煙者4000人中、胃がんを発症したのは12人で、非喫煙者6000人中、胃がんを発症したのは3人であった。喫煙者では胃癌の罹患率は年間1000人対3人、非喫煙者では年間1000人対0.5人であった。 喫煙群で対照群より胃癌の罹患率が高く、喫煙が胃癌の原因になっていると考えた。 A医師は正しいですか。

コホート研究cohort study (要因対照研究 factor-control study) 要因に暴露されたグループと暴露されなかった グループの二つに分け、それぞれのグループからどの程度の疾病が発生するかを追跡していく。 研究開始時点ではアウトカムをもつ者はいない。

コホート研究(要因対照研究) cohort study(factor-control study) 1. 危険因子への曝露状況の把握 2. 疾病発生状況の把握 疾病発生群 曝露群 疾病非発生群 疾病発生群 非曝露群 疾病非発生群 時間の流れ

コホート研究cohort study (要因対照研究 factor-control study) 症例(患者)群 (胃がん) 対照群 (胃がんでない) 要因曝露 (喫煙) あり 12 3988 4000 なし 3 5997 6000 曝露あり:発生率=12/4000=3/1000 年間1000人対3人 曝露なし:発生率=3/6000=0.5/1000 年間1000人対0.5人

A医師の研究 Ⅲ A医師は、症例対照研究の弱点を克服するために、大阪狭山市の住民で胃癌検診で異常がなかった1万を喫煙状況を把握した上で、1年間追跡した。その結果、喫煙者4000人中、胃がんを発症したのは12人で、非喫煙者6000人中、胃がんを発症したのは3人であった。喫煙者では胃癌の罹患率は年間1000人対3人、非喫煙者では年間1000人対0.5人であった。 喫煙群で対照群より胃癌の罹患率が高く、喫煙が胃癌の原因になっていると考えた。

A医師の研究Ⅲの問題点 1年の追跡期間では短すぎる。 そもそもコホート研究は因果関係を示しているか 開始時に胃癌がなかったと言っても、すでに微細な癌ができていたかもしれない。 そもそもコホート研究は因果関係を示しているか 第3の要因があって、それが喫煙を誘発し、喫煙とは無関係に胃癌を起こしているかもしれない。 例 飲酒

喫煙者 非喫煙者 第3の要因の影響があるかも 胃癌 飲酒 飲酒が喫煙を誘発し、喫煙とは無関係に、飲酒が胃癌を起こしているかもしれない。 公衆衛生学コース 2011/11/01 第3の要因の影響があるかも 喫煙者 非喫煙者 胃癌 胃癌 飲酒 飲酒 子宮頸癌の患者対照研究 頸癌患者群では、対照群よりHSV-2抗体陽性率が高かった。   このため、HSV-2が頸癌を起こした可能性が示唆された。 ところが、同時に測定したHPV抗体陽性率も頸癌患者群で高かった。 HPVは頸癌を起こすことがよく知られている。実は頸癌の原因はHPVで、HSV-2ではなかった。 では、なぜこのようなことが起こったか。 HPVもHSV-2もSTD 不特定多数との性交渉が多いと、HPV感染のリスクもHSV-2感染のリスクも高くなる。 結局、HSV-2と頸癌の関連性は、不特定多数との性交渉、あるいはそれによるHPV感染という交絡要因によって起こった交絡だった。 飲酒が喫煙を誘発し、喫煙とは無関係に、飲酒が胃癌を起こしているかもしれない。 公衆衛生学 伊木雅之

Cross-sectional study まとめ 症例対照研究とコホート研究 過去 現在 未来 後向き研究 Retrospective study 症例群と 対照群を設定 過去の仮説要因への 曝露状況を調査 前向き研究 Prospective study 要因曝露群と 対照群を設定 疾患の発生や死亡を 未来に向かって追跡 横断研究 Cross-sectional study

症例対照研究とコホート研究の得失 症例対照研究 コホート研究 観察期間 短い 長い 労力と費用 小さい 大きい 希な疾患の調査 できる ほとんどできない 集団の移動の影響 疾患診断の信頼性 勝る 劣る 曝露情報の信頼性 バイアスの影響 関連の時間性の評価 できない 相対危険度の計算 近似値はできる 寄与危険度の計算 総合的な信頼性

後ろ向き?コホート研究 retrospective cohort study 過去 現在 未来 要因曝露群と 対照群を設定 前向き研究 疾患の発生や死亡を 未来に向かって追跡 回顧的(後向き)コホート研究 要因曝露群と 対照群を設定 疾患の発生や死亡を 現在まで追跡

回顧的コホート研究の得失 長所 短所 過去のデータが活用できる。 時間、労力、資金が少なくてすむ。 仮説要因への暴露状況が曖昧になる恐れがある。 アウトカムの把握が確実でない可能性がある。 必要な情報がすべてそろっているとは限らない。 対象者の脱落防止策を実施できない。

コホート研究(要因対照研究)の得失 長所 短所 観察研究の中ではもっとも信頼性が高い。 要因群と対照群が要因暴露の有無以外は同等であるという保証がない。

無作為割付 胃癌 未知の要因の影響と対処 タバコ胃癌体質 喫煙者 非喫煙者 【対策】 「タバコ胃癌体質」の影響を、喫煙群と非喫煙群で同じにしたい。 喫煙者 タバコ胃癌体質 でも、未知なので、 測定できないし、 調整のしようがない。 無作為割付 タバコ胃癌体質 非喫煙者 胃癌 【対策】 「タバコ胃癌体質」の存在率が喫煙群と非喫煙群で同じと期待されるような群分けにする。 未知の「タバコ胃癌体質」が喫煙→胃癌の見かけの関係を作っているのかも知れない。

介入研究、臨床試験 intervention study, clinical trial 治療や予防対策を実際に人間集団に適用してその効果を確認する一種の人体実験。 薬剤の効果判定。

ランダム化(無作為割付)比較試験のデザイン 介入研究の一種 ランダム化(無作為割付)比較試験のデザイン   介入研究の一種 コホート研究 喫煙群 対象者 測定 測定 測定 非喫煙群 喫煙状況で2分 ランダム化比較試験 喫煙群 対象者 測定 測定 測定 非喫煙群 無作為に割付 追跡開始 12 4 8

ランダムサンプリング と ランダム化割付 母集団 間違えるな!! 研究対象者 (標本) ランダム化割付 (無作為割付) 介入群 非介入群 (薬剤投与) 非介入群 (偽薬投与) ランダムサンプリング 標本

ランダム化(無作為割付)比較試験 Randomized controlled trial (RCT) ランダム化(無作為割付)比較試験  Randomized controlled trial (RCT)  集団を無作為に2群に分け、一方に問題とする要因(新薬)を付加、または除去という介入をし、他方は放置(偽薬投与)して、問題の疾患のその後の状況を比較する方法。 一種の介入研究で、人体実験。十分な倫理的配慮が必要。 薬剤などの治療効果の評価は原則RCT。

ランダム化比較試験のポイント ランダム化(無作為割付) 盲検化 割付重視の解析 Intention-to-treat analysis 2群の特性(未知の交絡要因を含む)に差がなくなる ランダム化(無作為割付) 盲検化 割付重視の解析 Intention-to-treat analysis 研究からの脱落者をデータから除外せず、最初の無作為に割り付けられた群のまま生存率や死亡率を出して解析すること 患者側の心理的効果(プラセボ効果)+医師の介入の程度と診断の差をなくす 無作為割付された状況を試験期間の最後まで保持

ランダム化比較試験の例 Woscop Study 【課題】 中等度の高コレステロール血症はあるが、心筋梗塞の既往のない者で、血清コレステロール低下薬pravastatinは非致死性心筋梗塞と冠動脈疾患死を減少させるか 【対象】 45-64歳の心筋梗塞の既往のない男性で、総コレステロール 272±23mg/dl の6595人 【介入】 Pravastatin (40mg/day)投与群       Placebo投与群のいずれかに無作為割付

ランダム化比較試験の例 Woscop Studyの結果

ランダム化比較試験の例 Woscop Studyの結果

ランダム化比較試験の得失 長所 短所 未知の交絡要因の影響を受けない。 最も強固な根拠を与える。 危険と思しき要因を付加する研究はできない。 対象者の人権保護に万全の措置が必要。 偽薬は患者が受け入れにくい。 1度に1つの要因しか検討できず、効率が悪い。 コホート研究と同じ前向き研究なので、時間、労力、お金がかかる。

異なる研究デザインでの異なる結果

ホルモン補充療法(HRT)の 心筋梗塞への影響 臨床医のための女性ホルモン補充療法(1994) 高齢女性の健康増進のためのホルモン補充療法ガイドライン(2001年) HRTは心筋梗塞を減らす。 Look !

Nurses’ Health Study(コホート研究)では、減らす! 冠動脈疾患死を53%減らす! (NEJM 1995;332:1589-93)

WHI研究のランダム化比較試験(RCT)では、 増やす! 有意差あり! WHI 研究ではHRTによって冠動脈疾患が 29%増加した。

HRTの冠動脈疾患への作用 Nurses’ Health Study (NHS): USの看護師 約40000人のコホート研究。HRT継続で冠動脈疾患による死亡が半減する。(NEJM 1995) WHI研究: 16600人の女性を対象とした二重盲検無作為割付偽薬対照比較試験。HRTは冠動脈疾患の罹患を29%上げる。(JAMA 2002)

RCTとコホート研究で、なぜ結果が異なるのか RCT コホート研究 人種 コホート研究参加者はRCTの対象者より、  正常体重者が多く、  教育歴が高く、  禁煙した人が多い。 HRTの実施者ではさらにその傾向が強い。 偽薬 HRT 対照 HRT ≒ < < 体格 教育 ≒ < < コホート研究参加者は健康に気を遣っている人が多く、HRT実施者ではさらにその傾向が強い。 喫煙 ≒ < <

HRTの冠動脈疾患への作用 Nurses’ Health Study (NHS): USの看護師 約40000人のコホート研究。HRT継続で冠動脈疾患による死亡が半減する。(NEJM 1995) WHI研究: 16600人の女性を対象とした二重盲検無作為割付偽薬対照比較試験。HRTは冠動脈疾患の罹患を29%上げる。(JAMA 2002)

× 教訓 HRTの心筋梗塞への影響 HRTは心筋梗塞を減らす。 研究デザインを確認せずに、 教科書を信じてはいけない 臨床医のための女性ホルモン補充療法(1994) 高齢女性の健康増進のためのホルモン補充療法ガイドライン(2001年) HRTは心筋梗塞を減らす。 教訓 研究デザインを確認せずに、 教科書を信じてはいけない

臨床試験・治験 新しい治療法 (医薬品、医療器具、手術など) の有効性と安全性を検証するために、ヒトを対象として行う介入研究を臨床試験という。 この内、医薬品として(薬事法上)の承認を国(厚生労働省)から受けるために行う試験のことを治験という。

臨床試験の種類と内容 臨床試験 主な目的 対象者 デザイン 治験 第Ⅰ相試験 新薬、新治療の安全性の確認、認容量の決定 比較的少数の(原則)健常者 介入研究 第Ⅱ相試験 新薬、新治療の有効性と安全性の検証。用法・用量を決定。 比較的少数の患者 介入研究、偽薬か標準治療を対照としたNRCT、RCT 第Ⅲ相試験 新薬、新治療の有効性と安全性を立証 比較的多数の患者 偽薬か標準治療を対照としたRCT 製造販売後 第Ⅳ相試験 稀な副作用など大規模・長期間にモニター 大規模、様々な属性の患者 サーベイランス

被験者の人権の保護 治験をはじめ、介入研究は一種の人体実験であるので、被験者の人権には特段の配慮が必要である。 観察研究においても配慮は必要。

我が国の、人を対象にした研究の倫理指針 1). 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令 good clinical practice (GCP) 2). 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(平成26年) 「疫学研究に関する倫理指針」と「臨床研究に関する倫理指針」が統合 3). ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針

共通する基本的事項 医学研究の中で人体実験に属する研究が必要であることを認める。 社会的に有益で、十分な科学的情報に基づく研究を行う。 被験者の福利への配慮が科学的、社会的利益より優先される。 研究計画書は倫理審査委員会で事前に審査をされ、承認されねばならない。 被験者は研究に関して十分な説明を受け、自由意志で参加を承認するインフォームドコンセントを提出する。 個人情報の保護に万全を期す。

形成評価試験 × 〇 症例対照研究では罹患率を比較する。 症例対照研究では要因への暴露状況に関する情報が曖昧になるおそれがある。 コホート研究は後ろ向きには行われない。 コホート研究はまれな疾患でも容易に実施できる。 ランダム化比較試験はコホート研究より強い根拠を与える。 介入研究やランダム化試験は一種の人体実験であるので、対象者のInformed consentが不可欠である。