第9~10回 社会福祉の対象者と 特性
福祉対象者の代表的な障害・疾患 子ども:①知的障害・②発達障害 高齢者:③認知症 精神障害者:④統合失調症・ ⑤気分障害 精神障害者:④統合失調症・ ⑤気分障害 本来、公認心理師の科目「発達心理学」、 「精神疾患とその治療」に該当する内容 ボリュームも多い分野なので、 概要をさらっと説明するにとどめたい。
1.知的障害(Intellectual Disability) 平均以下の知能:知能指数(IQ)70未満 18歳未満で発症 現在の適応不全 意思伝達 自己管理 家庭生活 社会的・対人的技能 (学習能力・仕事・健康・安全)
代表的な知能検査 田中ビネー知能検査Ⅴ 精神年齢 ÷ 生活年齢 × 100 ウェスクラー式知能検査 被験者の知的な能力が、何歳の人の平均と 同じかをあらわしたもの ウェスクラー式知能検査 言語性IQと動作性IQに分けて算出 WPPSI:乳幼児用 WISC:児童用 WAIS:成人用
知的障害の程度 程度 IQ 手帳 内容 軽度 50~69 B2 中等度 35~49 B1 重度 20~34 A2 最重度 ~20 A1 85%が該当。話し言葉の獲得や抽象的な事項の理解に遅れ。身辺処理は自立。高度の仕事でなければ従事可能。 中等度 35~49 B1 10%。話し言葉の発達は様々だが全例で遅れ。身辺処理も遅れ。 重度 20~34 A2 3~4%。会話はほぼ不可能だが、成人例では簡単な身辺整理や単純な会話が可能なことも。 最重度 ~20 A1 1~2%。IQの正確な測定は困難。快・不快を示すが、要求や指示の理解は困難。
知的障害の原因疾患 原因 重度になるほど、合併症の割合が増加 染色体異常(ダウン症候群) 先天代謝異常症(フェニルケトン尿症) 神経皮膚症候群 胎児期感染症、中枢神経感染症など 重度になるほど、合併症の割合が増加 自閉スペクトラム症の合併率(30%) てんかんの合併率(10~30%)
知的障害の判定 療育手帳の判定について 従来は、知能指数(IQ)を基準に判定が なされることが多かった。 現在は、IDの重症度をIQ値のみではなく、 学力・社会性、生活自立能力、適応能力か ら総合的に判断する
2.発達障害 発達障害者支援法 この法律において「発達障害」とは、 自閉症、アスペルガー症候群その他の 広汎性発達障害、 学習障害、 注意欠陥多動性障害 その他これに類する脳機能の障害であって その症状が通常低年齢において発現するも のとして政令で定めるものをいう。
2.発達障害 大きく分けて 3分類 引用:LITALICO発達ナビ
発達障害の特徴 高次脳機能の習得障害 非進行性 発達期に生じる 日常生活・社会生活において 対応を必要とする問題がある 脳のある部分に何らかの微細な機能障害 本人の責任や家庭の問題に起因するのではない 非進行性 症状・障害の程度が改善・悪化したりしない 発達期に生じる 日常生活・社会生活において 対応を必要とする問題がある
1.学習障害 (LD:Learning Disorders) 知的能力に遅れがないにもかかわらず、学習 上の特定の分野「読み・書き・計算」におい て1つ以上の特異な困難さをもっている状態 アメリカ精神医学会の新しい診断基準である DSM-5では、以下のように呼称される 限局性学習症 SLD:Specific Learning Disorder
LDの3つの種類 読字障害(ディスレクシア) 書字表出障害(ディスグラフィア) 算数障害(ディスカリキュリア) 一文字ずつ読む、文節中で不自然に区切る 行や文字を読み飛ばす… 書字表出障害(ディスグラフィア) 平仮名・カタカナが未定着、形が似た文字 の混同・発音が同じ字の誤表記… 算数障害(ディスカリキュリア) 繰り上げ、繰り下げができない・数の大き い、小さいがよくわからない…
LDの症状の現れ方 本格的な学習が始まる小学生頃まで判断が 難しい 文字の読み書きが「できない」のではなく、 「正確に、すらすらとできない」 幼児の学習障害の特徴 言葉、文字を覚えるのが遅い・折り紙が折れな い、ボタンがとめられないなど手先が不器用 文字の読み書きが「できない」のではなく、 「正確に、すらすらとできない」 口頭での言葉のやりとりには全く問題が 認められないことも多い
2.注意欠陥多動性障害(ADHD) Attention-deficit hyperactivity disorder 多動性(過活動)、衝動性、注意を症状の特 徴とする神経発達症もしくは行動障害 不注意:集中力がない 多動性:じっとしていられない 衝動性:考えずに行動してしまう
ADHDの3類型 不注意優勢型 多動・衝動型 混合型 忘れ物が多い 気が散りやすい 行動が他の子よりワンテンポ遅れる 落ち着きがなく、授業中立ち歩く 体を動かすことがやめられない ささいなことで手を出したり、大声を出す 混合型 不注意/多動・衝動の両方の特徴を持つ
ADHDの症状の現れ方 他者とのトラブルの原因となる行動をとる ことが多い 言葉の後れがみられることもある 他の子をたたく、乱暴をする 我慢できずにかんしゃくをおこす 落ち着きがなくじっとしていられない 言葉の後れがみられることもある 小学校に入学する頃に、症状が顕著に現れ てくる。結果的に周りから問題視される。
広汎性発達障害 DSM-5では、 自閉スペクトラム症 ASD:Autistic Spectrum Disorder と総称されるようになる 自閉症 3歳位までに現れ、①他人との社会的関係の形成の 困難さ、②言葉の発達の遅れ、③興味や関心が狭 く特定のものにこだわることを特徴とする行動の 障害 アスペルガー症候群、高機能自閉症など DSM-5では、 自閉スペクトラム症 ASD:Autistic Spectrum Disorder と総称されるようになる
自閉症の基本症状 社会性の障害 コミュニケーションの障害 こだわりの障害 人への関わり方が一方的 相手の気持ちに無頓着、他者に全く関心がない 会話の相互性が乏しい 正確すぎる言葉使い、細部にこだわる話し方 非言語の意味を読み取ることが苦手 こだわりの障害 ごっこ遊びや創造的な遊びの乏しさ 動作を反復したり、同一性を維持しようとする 傾向が強い
社会性の現れ方の違い 孤立型 受身型 積極型 呼びかけに応じず、周りに人がいないかのよ うに一人遊びに没頭するタイプ 誘われれば一緒に遊び、従順なため自閉症で あることがわかりにくいタイプ 積極型 物怖じせず、人懐っこい反面、失礼なことを 言ったり、一方的に話し続けたり、質問をし つこく繰り返したりするようなタイプ
自閉症の基本症状 高機能自閉症 アスペルガー症候群 DSM-5では、基本症状は2つ 知的発達の遅れを伴わない 知的発達の遅れ・言葉の発達の遅れを伴わない DSM-5では、基本症状は2つ 「社会性」と「コミュニケーション」が 1つになった 症状に多様性があり、連続体として重なり合っ ているので、上記のような境界線を設けない
発達性協調運動症 運動が苦手・手先が不器用 乳幼児期:運動発達が標準の月齢より遅れがち 学齢期:不器用さが目立つ 折り紙やハサミの使い方が下手 ひも結びやボタンとめが苦手 楽器演奏が苦手 これらの症状が日常生活や学校生活で支障を きたす場合のみ診断する 有病率は6%前後
発達検査(本人対象) 新版K式発達検査 乳幼児から成人までを対象 被験者の応答反応と行動を観察 姿勢・運動(P-M) 認知・適応(C-A) 言語・社会(L-S) の3領域について 評価する。
発達検査(保護者への面接) 津守・稲毛式乳幼児精神発達診断法 生後1ヶ月から7歳 適用年齢別に3種類の質問紙を用いる 5領域(運動・探索・社会・生活習慣・言語) 遠城寺式乳幼児分析的発達検査法 0歳~4歳7ヶ月 3領域6項目(運動・社会性・言語) グラフにプロットすることで、 発達の様相が捉えやすい
3.認知症 一度正常に達した認知機能が、 後天的な脳の障害によって持続性に低下し、 日常生活や社会生活に支障をきたすように なった状態をいい、 それが意識障害のないときにみられる
正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳外傷、脳腫瘍、甲状腺機能低下症、ビタミンB12など 認知症の種類と割合 正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳外傷、脳腫瘍、甲状腺機能低下症、ビタミンB12など
認知症の原因疾患 原因疾患は数十種類ある 疾患を治療すれば症状が改善する 認知症もある アルツハイマー型認知症 レビ-小体型認知症 疾患を治療すれば症状が改善する 認知症もある アルツハイマー型認知症 レビ-小体型認知症 脳血管性認知症 前頭側頭型認知症
認知症と生理的加齢の物忘れ 生理的加齢 認知症 物忘れの 仕方 経験した出来事の一部を忘れる 経験したこと自体を 忘れる 病識 自覚あり 生理的加齢 認知症 物忘れの 仕方 経験した出来事の一部を忘れる 経験したこと自体を 忘れる 病識 自覚あり なし 日常生活 支障はあまりない 支障著しい、 支障を要する 経過 進行しない 進行する 見当識障害 少ない あり
認知症の2つの症状
中核症状 記憶障害 見当識障害 行動障害 覚える・覚えておく・思い出すのうちどこかが障害された状態 見当識とは、時間・場所・現在の年月日。それが障害された状態 見当識障害 失行:簡単な日常動作ができない 失認:対象を正しく認識できない 失語:発話の障害と理解の障害 行動障害
周辺症状 認知症の症状の基盤となる「中核症 状」から二次的に起こる症状 BPSDとも呼ばれる Behavioral and psychological symptoms of dementia ケアする側からすると、ケア負担の 要因となり、しばしばネグレクトや 身体拘束、虐待にもつながる 問題行動と呼ばれてきました 未だにその表現が残っていることがあります 問題行動と言ってしまうことでその人を問題のある人と印象づけてしまいます 倫理的な問題でもありますし、介護する側によっても問題とマイナスな印象で介護困難感をより介護しにくい状態と意識してしまいます 問題と思っているのは介護者側であって、当事者は原因があってその行動をしています 介護者がこまった人とつくりだしている、表現によって与える印象は違ってきます こまったなではなく、その行動には原因があって、サインがでている それがなにかをつきとめその原因に対しての対応を考えるという行動、対応が重要となります 言葉によって与える印象は違ってくるので 認知症をにんち、にんちと言っていたり、問題行動といっていたり、認知症に関わっているからこそそこからただしていかなければ 社会の印象もかわらないのではないかなと思っています
周辺症状の例 幻覚 徘徊 異食 攻撃的言動 実際に存在しない人、ものが見えていたり、 聞こえない音が聞こえる状態 妄想 実際に存在しない人、ものが見えていたり、 聞こえない音が聞こえる状態 妄想 被害妄想、物とられ妄想、嫉妬妄想など 徘徊 家の中や外にでて、歩き回る状態 異食 食べ物ではないものを食べてしまう状態 攻撃的言動 暴言や暴力
周辺症状 危険行為 夕方の不穏状態 不潔行為 性的逸脱行為 ケアへの抵抗 周りへの配慮ができないままで行動する状態 周りへの配慮ができないままで行動する状態 夕方の不穏状態 夕暮れ症候群、夕方になるとそわそわ 落ち着きがなくなる状態 不潔行為 排尿排便を素手で触ったり、口に入れてしまう状態 性的逸脱行為 周りや対象に配慮できずに性的行為をする状態 ケアへの抵抗 介護者のケアができない状態
周辺症状の現れ方は十人十色 周辺症状 中核 症状 身体的要因 心理的要因 認知機能障害 環境的 要因 社会的 要因 幻覚 妄想 徘徊 異食 など 中核 症状 認知機能障害 このように、BPSDを引き起こす要因には、身体的要因・心理的要因・物理的環境的要因・社会的要因などがあります。 身体的要因とは、痛み、かゆみ、不快感、倦怠感などです 心理的要因とは、不安、あせり、心細さなどです 社会的要因とは、社会の認知症の人に対する偏見の目や疎外感 物理的環境的要因は、物人、環境が変わる、新しい物をつかう、初めての人と会う、などです 様々なものが入ってきます 介護する方々も入ります 自分たちの介護の方法が認知症の人に影響を及ぼすということを意識してもらいたいです 認知症の人が落ち着きがなくなっていたり、怒ったり、泣いたり、笑ったり、穏やかになったりするとき、何らかの影響を与えています 環境的 要因 社会的 要因 日本認知症ケア学会(2007):認知症ケア標準テキスト改訂・認知症ケアの基礎、認知症ケア学会
認知症の検査 長谷川式認知症スケール(HDS-R) 簡易認知機能検査(MMSE) 検査者からの質問に答える形式 9の質問 Mini-MentalーStateーExamination 11の質問 文章構成・図形把握の質問
精神障害 精神保健福祉法 第5条 この法律で「精神障害者」とは、統合失 調症、精神作用物質による急性中毒又は その依存症、知的障害、精神病質その他 の精神疾患を有する者をいう 診断基準 DSM-5:アメリカ精神学会の精神疾患 の診断統計マニュアル ICD-10:世界保健機関の国際統計分類
伝統的な3分類 外因性:脳そのものの器質的な病変や、 内分泌や代謝などに伴い、二次的に脳に 障害が起こる 外因性:脳そのものの器質的な病変や、 内分泌や代謝などに伴い、二次的に脳に 障害が起こる 内因性:明らかな外的要因がなく、遺伝的 素因と何らかの身体的基盤の存在が疑わ れるもの 心因性:強いストレスや心的外傷、性格 など心理的な問題が主なもの 現在は、原因ではなく現れている「症状」 を評価する診断方法が採用されている
主な精神症状 自我障害 離人感:自分が自分でないような気がする させられ体験:自分の思考や行動が他人に操られている、支配されていると感じる 意識障害 せん妄:軽度の意識混濁をもとにして、興奮・幻覚、錯覚、妄想などが現れる 知覚障害 幻覚:実際には存在しない対象を、存在するものとして知覚する。 幻聴・幻視など
主な精神症状 思考障害 妄想:明らかに誤った思考内容を正しいと確信して訂正不能なもの 強迫:ある考えや行為が不合理で無意味なものとわかっているのに、それでも支配されてしまう 気分障害 抑うつ:憂うつで悲観的になったり、ささいなことで気分が落ち込む 意欲と行 動の障害 意欲の低下:何もする気になれず、起床、更衣、入浴等がおっくうになり、生活に支障をきたす
4.統合失調症 統合失調症は、幻覚や妄想という症状が 特徴的な精神疾患です。それに伴って、 人々と交流しながら家庭や社会で生活を 営む機能が障害を受け(生活の障害)、 「感覚・思考・行動が病気のために歪ん でいる」ことを自分で振り返って考える ことが難しくなりやすい(病識の障害)、 という特徴を併せもっています。2002 年、日本精神神経学会は、同学会におけ る用語を「精神分裂病」から「統合失調 症」に変更した統合失調症に共通する症 状は、思考や行動、感情がまとまりにく くなることである
統合失調症の症状 引用:こころの健康情報局すまいるナビゲーター
統合失調症の3病型 病型 好発年齢 症状 破瓜型 思春期 感情・意欲および思考・認知の障害が中心になる 緊張型 20歳前後 極度の興奮と昏睡(周囲の働きかけに反応しない) 妄想型 30歳前後 幻覚と妄想が主な症状
病気の経過 と症状 1.前兆期 2.急性期 3.消耗期 (休息期) 4.回復期
ストレス・脆弱性モデル 病気になりやすいもろさ(脆弱性)があるとこ ろに、周囲の環境や重大なライフイベントなど の様々なストレスが発症の引き金となるという 考え方
5.気分障害 気分障害とは、気分の上がり下がりが 主な症状となる疾患。 身体的症状:食欲不振や睡眠障害 精神的症状:抑うつ気分や興味の喪失 気分障害とは、気分の上がり下がりが 主な症状となる疾患。 身体的症状:食欲不振や睡眠障害 精神的症状:抑うつ気分や興味の喪失 生涯有病率10~15% 各年齢で幅広く発症する 女性は男性の2倍
引用:cocooruうつ傾向度診断
うつ病の症状 睡眠障害の発現頻度が高い 日内変動がみられる、朝に弱い 長く続くと学校・職場に行くのが辛く、 将来にも自信を失って、周囲の意見を聞 くゆとりもないまま退学届・辞表を出す 死んだ方がましと、 自殺念慮:死にたい気持ち 自殺企図:自殺を計画、実行する
躁状態 多弁 高揚感 自信過剰 誇大妄想 常に活動的で落ち着きがない 眠らなくても平気 逸脱行為(例、無計画な投資) 周囲の人が迷惑を被る上に、本人の生活に も支障をきたす
双極性障害
その他の気分障害 気分変調症 気分循環症 非定型うつ病 うつ病ほどひどくはないが、慢性的な鬱状態 が続き、なかなか正常な気分に回復しない 軽いうつ状態と正常な気分、躁状態を繰り返 している状態 非定型うつ病 うつ状態ではあるが、典型的なうつ病で現れ る症状とは違った症状がみられ、心身の機能 に支障が生じやすい
気分障害の分類(DSM-5) 躁状態 大 躁状態 小 そもそも、「気分障害」という用語は使用 されなくなった
抑うつ傾向の心理検査 SDS(Selfrating Depression Scale) 抑うつ状態に関連する20の質問 回答を4段階で評定して、抑うつ性を測定する BDI(Beck Depression Inventory) うつ病に関する四つの文章の中から一つを選ぶ 21の質問から抑うつ傾向を測定する CES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale ) 一般人におけるうつ病の発見を目的として開発 20の質問に回答し、気分障害の有無を判定
統合失調症の心理検査 PANNSS(Positive and Negative Syndrome Scale) 陽性・陰性症状評価尺度 30項目(陽性7・陰性7・総合16項目) BACS(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia) 統合失調症認知機能簡易評価尺度 6つの検査:言語性記憶・作動記憶・運動機能 注意・言語流暢性・遂行機能