第二次世界大戦前の大手民鉄の成長状況 澁澤 洋 -関西・関東の大手民鉄の比較― 泉北高速鉄道㈱ 2017.11.12

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第二次世界大戦前の大手民鉄の成長状況 澁澤 洋 -関西・関東の大手民鉄の比較― 泉北高速鉄道㈱ 2017.11.12 2017.11.12  ビジネスクリエーター研究学会第19回研究大会  自由論題報告1(A301教室) 第二次世界大戦前の大手民鉄の成長状況 -関西・関東の大手民鉄の比較― 泉北高速鉄道㈱ 澁澤 洋

目 次 1.研究の目的 2.先行研究 3.人口動向 4.分析方法 5.第二次世界大戦前の大手民鉄各社の鉄道整備状況 目 次 1.研究の目的 2.先行研究 3.人口動向 4.分析方法 5.第二次世界大戦前の大手民鉄各社の鉄道整備状況 6.大手民鉄各社の経営状況(1937年度) 7.第二次世界大戦前の大手民鉄各社の成長状況   【参考】最近時点(2016年度)での大手民鉄各社の動向 8.まとめ

1.研究の目的 わが国において新橋-横浜間に鉄道が敷かれてから僅か13年後の1885年、わが国初の純民間資本鉄道である阪堺鉄道(現在の南海電鉄)は、難波-大和川間にて営業を開始している。その後、1906年に制定された鉄道国有法により、多くの私鉄が国有化された(1906年10月-1907年10月間で17社、路線長4,534kmが買収された。)が、南海電鉄や東武鉄道等は私鉄のまま営業を続け、現在に至っている。 今日の大手民鉄(現在16社)*は、第二次世界大戦直前で、かつ国家総動員法等の国家統制や戦災による被害の影響を受ける以前、成長の1つのピークを迎えていたと考えられる。第二次世界大戦前の大手民鉄の成長状況はどのようなものであったのかについて、関西・関東に区分して概観してみたい。                                             *一般社団法人 日本民営鉄道協会による分類

2.先行研究 (1)第二次世界大戦前の鉄道会社の成長状況 中西(1979)は、都市交通の近代化過程を 電気鉄道の過渡期・創設期(明治20年代迄)を経て、  第1段階:電気鉄道の成立=都市内路面鉄道の形成期(明治30-40年代)  第2段階:電気鉄道の確立=郊外電気鉄道の形成期(明治末・大正)  第3段階:地下高速鉄道出現(昭和初期) に分類している。 そして関西型(京浜急行を含む)と関東型に分類している。

大阪圏=関西型(京浜急行を含む) 東京圏=関東型 中西(1979)によれば、この第3段階当初(1928(昭和3)年)時点での民鉄の現況と、第2段階当初(1911(明治44)年)から成長状況については以下のとおり、その特徴を述べている(表-1)。 大阪圏=関西型(京浜急行を含む) ①大正初期に鉄道網の骨格を形成。 ②郊外分散以前のレジャー等の消費性の交通需要を基盤に成立し、鉄道敷設と沿線開発を媒介に郊外化が進展。 東京圏=関東型 ①関東大震災を機とする中産サラリーマンの郊外移住趨勢(郊外化が前提)にのって飛躍的に発展

表-1-2の通り、関西の鉄道整備状況は、関東に比べて、明治大正期に整備が進捗していることが分かった。 表-1-2 第二次世界大戦までの鉄道の整備状況 ⇒以上から、本研究でも中西(1979)に準じて、関西と関東の大手民鉄に分けて、    成長性等の分析を進めていくこととしたい。

表-1-3 地方鉄道、軌道および国鉄別成長・収益状況(1926~1935年) 参考までに、 1926年~1935年間の収益状況を地方鉄道、軌道および国鉄別にみると、各主体とも40%程度の利益を確保しており、現在の営業利益率(概ね10%台、表-17)に比して高い収益性を確保していることが分かる(表-1-3)。 表-1-3 地方鉄道、軌道および国鉄別成長・収益状況(1926~1935年)

表-1-4 地方鉄道、軌道の成長・収益状況(1936~1945年) 1936年以降は戦時中で、物・人の移動が激しくなり、また物価も上昇し、収入、費用とも急増している(表-1-4)。 中西(1979)pp.516-517.は、「軍需産業への根こそぎ動員による超完全雇用と道路需要からの需要移転のためであったのは言うまでもない。重化学工業地帯を沿線に持つ大都市私鉄では輸送量の激増はことに顕著であった。」という。 表-1-4 地方鉄道、軌道の成長・収益状況(1936~1945年)

(2)本研究での対象期間の考え方  金谷(1987a)は、「私鉄の事業展開は明治末期にその萌芽がみられたものの、当時の私鉄業には公益事業として、・・・兼業展開が規制されていて・・・その後の著しい発展はなかった。・・・昭和4年の『地方鉄道法』の改正(兼業を不可とする第9条の規定の削除)により、この規制が緩和され、私鉄業の兼業形態は新たな時代を迎えた。・・・私鉄業の本格的事業展開は、昭和初期の生き残り戦略の中に求められるのではないだろうか。」という。 ⇒以上から、関西、関東ともに昭和初期頃迄に、鉄道整備の骨格を形成したと考えられる。従って、この時期の成長状況を考察することとした。また、1928(昭和13)年度には、国家総動員法や陸上交通事業調整法が公布・施行されていることから、これら国家統制の影響を比較的受けておらず、また物価が比較的安定し、超過需要の発生していないこの前年度(1927(昭和12)年度)迄を対象期間とした。

(3)鉄道会社の多角化  正司(1998)は、「・・・価格規制(総括原価主義)や政府からの各種介入が存在するため、民間企業である鉄道会社が、規制を受けない分野へ進出することは、なんら不思議なことではない。・・・沿線にはいわゆる開発利益が生じており、その内部化を計ることは至極合理的行動である。・・・私鉄企業に限らず、有形・無形の資産を出来る限り効率的に活用することが、企業の収益面・成長面で大きな課題になることは一般的に妥当するはず。」としている。 ⇒以上から、本業に加え多角化も成長に寄与していると考えられるため、民鉄の多角化に関しても考察を進めることとした。

3.人口動向 日本の総人口を1888(明治20)年度以降でみると、第二次世界大戦末期を除いて、ほぼ一貫して増加してきた(図-2)。 (出典)総務省統計局

 関東(1都3県)と関西(2府4県)を比較すると、第二次世界大戦以前は、関西の人口合計は、関東の人口を上回っていたが、大戦後は関東の人口が大きく伸び、直近では関東の人口規模は関西の人口の1.5倍程度となっている(図-3)。 (出典)総務省統計局

 第二次世界大戦以前の関東・関西の主要都市の人口推移をみると1925年、1930年では大阪市の人口が最大(「大大阪の時代」と呼ばれている。)であったが、1935年以降、東京特別区部の人口が急増していることが分かる(図-4)。 (出典)総務省統計局

4.分析方法 (1)分析データ ・第二世界大戦以前については、主に内閣鉄道院(1908-1920年度)および鉄道省(1920-1943年度)の「鉄道統計資料」の財務データ等、各社社史の財務データ等に基づき、成長性および多角化の状況について、関西・関東に区分して分析を行う。 ・なお、参考までに行う直近の大手民鉄の成長状況については、有価証券報告書のセグメント・データ(連結決算データ)*に基づき分析を行う。  *正司(2001)pp.201-202.でも述べている通り、グループ全体では有証のデータより規模が大きくなる。 (2)分析対象 ・大手民鉄である関西5社と関東8社*について、昭和初期の10年間(1927-1937年度)の成長と1937年度の多角化の状況について比較分析を行う。 ・参考までに、上記会社について、直近の10年間(2006-2016年度)の成長と2016年度の多角化の状況との比較も併せて行う。 *東京メトロも2004年から大手民鉄(16社目)となっているが、上野-浅草の開業が1927(昭和2)年、新橋までの延伸が1938(昭和13)年であり、本研究の対象期間内での成長が極限られていること、また関西では、このような路線は大阪市交通局が行う市内交通であることから、本研究の対象外とした。

(3)成長性指標 成長性指標としては、最もよく使われる売上高(営業収益)と、本業の儲けを示し、他の利益指標より変動が小さいとされる営業利益を用いることとした(青木(2008))。 (4)多角化分析 Rumelt(1974)、正司・Killeen(2000)、正司(2001)の研究をベースとして多角化の分析を行った鎌田・山内(2010)の分析手法に準じて、本研究でも多角化分析を行う。 先行研究での多角化の分類方法は、各部門の売上高(営業収益)が全体に占める割合によって、専業(S)型、本業(D)型、関連(R)型、非関連(U)型の4つに分類している。本研究でもこれに準じて分類した。なお、本研究では、売上高(営業収益)に加え、営業利益のウエイトについても同様の手法にて分析を進めることとした(表-2、図-1)。

図-1 多角化の分類方法 表-2 多角化の分類方法 図-1 多角化の分類方法 表-2 多角化の分類方法 Rumelt(1974)らは、「多角化度が高まるにつれ収支率が向上し、関連型*で最も大きくなり、非関連型になるとダウンする」ことを明らかにした。 *これを抑制的-主力企業/抑制的-関連企業と表現している。

多角化分類(本業、関連事業、非関連事業)は、鎌田・山内(2010)に従って、以下の通りとした(表-3)。 ①本業とは、運輸業のことであり、鉄道、バス、タクシー、船舶等を   含む。 ②関連事業には、流通、不動産、ホテル、レジャー、サービス等を含む。 ③非関連事業には、①②に含まれないもので、建設業等である。 表-3 多角化分類

5.第2次世界大戦前の大手民鉄各社の鉄道整備状況 (1)関西5社(表-4、5) ・近鉄:1930年迄には、略現在の路線を完成させたが、主力子会社(参      宮急行電鉄、大阪鉄道)の合併は1941年以降。 ・南海:1925年迄に現在の鉄道網が完成済。(1940年には現在のJR阪       和線も合併)。 ・京阪:1930年迄に、現在の路線に加え、現在の阪急千里線、同京都線      を運営する子会社も合併。 ・阪急:1921年迄に現在の鉄道網が完成済。 ・阪神:1905年には概ね現在の路線を完成済。

表-4 第2次大戦前の鉄道会社別年表(関西) (出典)数字でみる鉄道2016年版、各社の有価証券報告書、社史

表-5 第2次大戦前の各社別系列会社・グループ会社等(関西) 関西5社については、表-5の各社の決算データを単純合計した。 表-5 第2次大戦前の各社別系列会社・グループ会社等(関西) (出典)内閣鉄道院および鉄道省「鉄道統計資料」

(2)関東8社(表-6、7) 東武:1920年迄に伊勢崎線、東上線等を完成させているが、野田線などは第 2次世界大戦末期に合併して取得。     2次世界大戦末期に合併して取得。 西武:1927年迄に略現在の路線を完成させているが、一体化は終戦直前。 京急:1905年に品川-神奈川間開通させたが、湘南電気鉄道㈱(横浜以南)と     の品川-浦賀の直通運転開始は、1933年。1941年湘南電気鉄道と合併 小田急:1927年新宿-小田原間全通。1940年帝都電鉄合併。 東急:1926年目黒-神奈川間開業、1927年渋谷-神奈川間直通運転、1929年     大井町線開業 京王:1928年新宿-東八王子間直通運転開始 京成:1933年京成上野-京成成田間全通 相鉄:1933年神中鉄道㈱が、横浜-厚木間全通。1943年相模鉄道㈱が吸収。

表-6 第2次大戦前の鉄道会社別年表(関東) (出典)各社の有価証券報告書、社史

表-7 第2次大戦以前の各社別系列会社・グループ会社等(関東) 関東8社については、表-7のとおりの各社の決算データを単純合計した。 表-7 第2次大戦以前の各社別系列会社・グループ会社等(関東) (出典)鉄道省「鉄道統計資料」

6.大手民鉄各社の経営状況(1937年度)(表-8) 関西5社と関東8社を比較すると、鉄道業での営業収益は関西が関東の1.5倍。営業利益でも1.4倍と関西が優位。関連事業を含めた営業利益では、関西が1.3倍となっている。 関西5社でみると、本業の営業収益は近鉄グループが最大で、以下南海、京阪の順であるが、京阪以下は大きな差異はない。また、阪神、阪急は関連事業での儲けが大きい。 関東8社では、東武、東急が営業収益、営業利益とも他社を大きく上回っている。関連事業を加えると西武が最大の営業利益を上げている。 多角化の状況を営業利益ベースでみると、関西では5社中3社が専業中心で、関東では8社中5社が専業中心と、多角化はあまり進んでいないことが分かる。多角化を進めている会社でも電気供給業のウエイトが高い。

表-8 1937(昭和12)年度時点での私鉄の経営状況 (出典)鉄道省「鉄道統計資料」

表-9 1937年時点での大手民鉄の多角化の収益状況 表-9 1937年時点での大手民鉄の多角化の収益状況

表-9-2 東京地方14私鉄における本業と兼業の利益額(昭和11-13年平均) 表-9-2 東京地方14私鉄における本業と兼業の利益額(昭和11-13年平均) (出典)中西(1979)pp.456-459.

4(4)の分析手法を用いて、第二次世界大戦以前の大手民鉄の多角化について分類すれば以下の通りとなり、戦後の先行研究に比べると専業型(S型)が多い。 表-10 大手民鉄の多角化の分析結果(戦前)

7.第2次世界大戦前の大手民鉄各社の成長状況  1927-1937年度の10年間における成長性を本業の営業収益をみると、関西5社では40.0%増であるのに比して、関東8社では69.3%増の高い伸びを示している。同じく本業の営業利益では、関西5社で20.4%増に比して、関東で59.3%増となっている。  また、関連事業を含めた営業利益では、関西5社で11.9%増に比して、関東8社では104.0%増と概ね倍増していることが分かる(表-11)。  首都圏では、東京特別区の人口が1925年の1,996千人から、1935年には5,876千人へ約3倍増加したこと、郊外の発展、鉄道整備の進捗等が、鉄道の成長寄与したものと考えられる(図-4)。 以上から、第2次世界大戦以前の10年間(1927-1937年度)では、関東の大手民鉄の方が、関西に比して成長性は高かったものの、営業収益や営業利益規模では、依然関西の方が関東を上回っていたことが分かった。

第二次世界戦前では、表-11のとおり、関西5社より、関東8社の成長性が高い。 表-11 鉄道事業の成長状況(1937年度/1927年度) (出典)鉄道省「鉄道統計資料」

社史のデータでも概ね表-11と同様の結果となった。 表-12 各社の成長状況(社史ベース) (出典)各社社史

表-13 多角化と成長率・収益率の関係(1937年度) 鎌田・山内(2010)と同様に、多角化と収益率の関係に加え、多角化と成長率の関係をもみた。 サンプル数が少ないものの、多角化している企業(D型)の方が高い収益性や成長性を確保しているという関係性が一応認められた(表-13)。 表-13 多角化と成長率・収益率の関係(1937年度)

【参考】最近時点(2016年度)での大手民鉄各社の動向 (1)概況 2005-2015年の人口増加状況をみると、関西では大阪府、滋賀県で微増しているものの、全体では0.8%減となっている。一方関東では、東京都、神奈川県を中心に4.8%増(1,652千人増)となっている(図-3)。 関西5社と関東8社の営業収益を、2016年度時点で比較してみると、営業収益全体、本業の営業収益では、関西5社で首都圏の6割程度となっており、概ね人口比と同じ程度の割合となっている(表-14、15)   ただし、セグメント別にみると不動産業やレジャーサービス業で、首都面に比して関西のほうが健闘していることが分かる。 多角化では、営業収益では先行研究と概ね同一の結果となったが、営業利益で区分して多角化の動向をみると、非関連型(U型)の企業が増加している一方、京成電鉄では専業型(S型)で、本業での利益ウエイトが高いことが分かった(表-16)。

(2)人口動向動向 第二次世界大戦後は、東京都特別区の人口が1965年頃まで急増した。また大阪市の人口は1965年頃をからやや減少傾向に転じ、1980年には横浜市の人口が大阪市を上回るようになった(図-5)。 (出典)総務省統計局

表-14 現在の大手民鉄の営業収益の状況(2016年度) セグメント情報によれば、営業収益合計での関西のウエイトは関東の62.4%。運輸業のウエイトも概ね同じだが、レジャー・サービス業では、関西のほうが高く(1.3倍)、不動産は概ね互角であった。 表-14 現在の大手民鉄の営業収益の状況(2016年度) (出典)各社有価証券報告書

表-15 現在の大手民鉄の営業利益の状況(2016年度) 同様に営業利益合計では、関西のウエイトは関東の59.2%。運輸業では54.2%の水準であるが、不動産(81.5%)、レジャーサービス業(72.4%)で、関西が比較的健闘している。 表-15 現在の大手民鉄の営業利益の状況(2016年度) (出典)各社有価証券報告書

多角化分類においては、営業収益で見ると先行研究と概ね同様の結果となったが、営業利益で区分してみると、R(関連)型企業からU(非関連)型へのシフトしている企業(近鉄、東武、小田急、京急)が見られた。また京成では本業で利益確保している(表-16)。 表-16 大手民鉄の多角化の分析結果(現在)

表-17 現在の大手民鉄の営業利益率の状況(2016年度) 営業利益率では、関東の方が総じて若干高い水準にあるが、戦前に比べると利益水準は低い。 表-17 現在の大手民鉄の営業利益率の状況(2016年度)

(3)最近時点での大手民鉄各社の成長状況(表-18,19) 私鉄各社の最近10年間(2006-2016年度)の成長状況を、営業収益面みると、関西5社では、16.2%増加しているが、関東8社では、14.9%減少してる。関西では、不動産やレジャーサービスでの増加が目立つ。逆に関東ではレジャーサービス業や建設業でのマイナスが目立つ。 営業利益でみると、関西、首都圏とも10%台の伸び率で概ね同じであるが、運輸業で、関西がマイナスなのに比して、関東では9%のプラスとなっている。 関連事業では、関西の伸びの方が関東の伸びよりもいづれの分野においても高くなっており、関西においては多角化事業で、利益の成長を確保していることが分かった。

表-18 大手民鉄の直近10年間の成長状況(営業収益の伸び率) 営業収益の伸び率をみると、運輸業では、関西、関東ともマイナスであるものの、営業収益合計では、関西がプラス(+16.2%)なのに比して関東がマイナス(-14.9%)と明暗が分かれた。関西ではレジャーサービス、不動産などが高い伸びとなった。 表-18 大手民鉄の直近10年間の成長状況(営業収益の伸び率) (出典)各社有価証券報告書

表-19 大手民鉄の直近10年間の成長状況(営業利益の伸び率) 営業利益の伸びをみると、営業利益合計額では、関西・関東とも10%台と、概ね同様の数値となっているが、運輸業では、関東がプラスなのに比して、関西でマイナスと対照的な結果となった。関西では、本業以外の部門で営業利益を確保していることが分かる。 表-19 大手民鉄の直近10年間の成長状況(営業利益の伸び率) (出典)各社有価証券報告書

ここでも、鎌田・山内(2010)の分析方法に準じて、多角化と収益率の関係に加え、多角化と成長率の関係をみた。多角化している企業の方が高い収益性や成長性を確保しているという関係性は、鎌田・山内(2010)の分析結果と同じく、多角化している方が収益性や成長性が高いという結果はみられなかった(表-20)。 表-20 多角化と成長率・収益率の関係

8.まとめ 大手民鉄の成長状況を、第二次世界大戦前である1927-1937年度の10年間の成長率でみると、関東8社は人口の急伸もあって、関西5社より高い伸びを示した。 しかし、第二次世界大戦直前(1937年度)においては、なお関西5社の方が、売上・営業利益の規模とも、関東8社を上回っていた。 多角化については、戦後に比して戦前ではあまり進んでおらず、多角化ウエイトの高い事業は電気供給業であった。サンプル数は少ないが、多角化傾向のある企業の方が成長性や収益性が高い傾向が一応確認できた。 近時10年間(2006-2016年度)の成長性(営業収益)では、運輸業では関東、関西ともマイナスであった。しかし、多角化分野では、関西の伸び率は関東に比べて高く、営業収益合計でみると、関西ではプラスなのに比して、関東ではマイナスと対照的な結果となった。関西では多角化によって収益を確保していることが分った。  なお、現在時点(2016年度)では、関西5社の営業収益・営業利益規模は、関東8社の6割程度であるが、多角化分野である不動産業やレジャーサービス業が比較的健闘していることが分った。                                                                                                       以  上

【参考文献】 Rumelt,R.(1974)“Strategy, Structure and Economic Performance”,Harvard Business School   鳥羽欽一郎他訳(1977)『多角化戦略と経済成長』東洋経済新報社 青木茂男(2008)『要説 経営分析』森山書店 大阪市行政局(1959)『大阪市制70年の歩み』大阪市 大阪市立大学経済研究所編(1990)『世界の大都市7 東京 大阪』東京大学出版会  金谷隆正(1987a)「私鉄業の事業展開概観(上)」運輸と経済第47巻9号,pp.17-25.  同    (1987b)「私鉄業の事業展開概観(下)」運輸と経済第47巻10号,pp.43-53. 鎌田裕美・山内弘隆(2010)「鉄道会社の多角化戦略に関する分析」『交通学研究』第54巻,pp.95-114. 国土交通省鉄道局監修(各年版)『数字でみる鉄道(各年版)』(一財)運輸総合研究所 斎藤峻彦(1987)「関西大手私鉄企業における多角的事業展開」運輸と経済第47巻9号,pp.36-45. 正司健一(1992)「京阪神都市圏私鉄の多角化経営」『運輸と経済』第52巻7号,pp.44-48. 同    (1998)「大手私鉄の多角化戦略に関する若干の考察:その現状と評価」『國民經濟雑誌』第177巻第2号,PP..49-63.   同 (2001)『都市公共交通政策』千倉書房 正司健一・Bruce J.Killeen(2000){大手私鉄の多角化戦略に関する若干の考察:その現状と評価」『交通学研究』,pp.185-194. 宋娟貞・正司健一(2014)「日本の大手私鉄の多角化戦略に関する考察とそのインプリケーション」 『國民經濟雑誌』第209巻号,      PP.1-15. 鉄道省「鉄道統計資料 昭和2年版第三編監督編」国立国会図書館デジタルコレクション  同  「鉄道統計資料 昭和12年版第三編監督編」国立国会図書館デジタルコレクション 内閣鉄道院「鉄道統計資料 大正6年版」国立国会図書館デジタルコレクション 中西健一(1979)『日本私有鉄道史研究(増補版)』ミネルヴァ書房  同    (1987)「大都市地域の形成と民営鉄道」廣岡治哉編『近代日本交通史』法政大学出版局,pp163.-172. 吉田茂(1986)「交通事業の多角化-日本の交通事業を中心に-」『運輸と経済』第46巻4号,pp.27-36.  同  (1987)「交通産業の事業展開と戦略的意義」『運輸と経済』第47巻9号,pp.4-15.