中学部3年生自閉症児が一人で活動する時間を増やす事例 ~対人への不適切行動を減らすために~ 日野 浩志
指導目標 【長期目標】 卒業後,施設入所することができる。 不適切な行動をとることなく,家庭・学校・地域で生活を送ることができる。
指導目標 【短期目標】 担任以外の指導者の集団の中での学習場面でも,不適切な行動がなく一人で活動する時間が増える。 複数名が在籍する教室で,休み時間も一人で休憩する時間が増える。
標的行動 一人の学習スペースで,休憩と課題で一人で過ごすトータル時間を増やす。 一人の学習スペースで,暴力、暴言、その他不適切行動を減らす
現状のABC分析 一人で 課題をする 5 休憩(↑) トークン表あり 近くに複数の教員 褒める言葉(↑) 近くに複数の友達 休憩(↑) 近くに複数の教員 褒める言葉(↑) 近くに複数の友達 複数の教員・友達がいる学習スペースで トークンのポイント(↑) 教員・友達の話し声 一人で 課題をする 課題がなくなる(↑) トークン表あり 人との会話なし(↓) 様々な課題や 活動あり 人の反応なし(↓) 5 5
解決策のABC分析 一人で 課題をする 6 教員の笑顔(↑) 離れたところに教員 少しのおかし(↑) 褒め言葉(↑) 友達の話し声なし 教員の笑顔(↑) 離れたところに教員 少しのおかし(↑) 褒め言葉(↑) 一人の学習スペース 一人で 課題をする 友達の話し声なし 人との会話なし(↓) 一人でできる課題あり 近くに人なし(↓) ルールあり 人との反応なし(↓) 6 6
現状のABC分析 一人で 休憩をする 7 近くに教員なし(↓) 近くに複数の教員 近くに複数の友達 図鑑の写真(↑) CDの音楽(↑) 図鑑の写真(↑) 複数の教員・友達がいる教室で CDの音楽(↑) 教員・友達の話し声 一人で 休憩をする 人の注目なし(↓) 図鑑,CD, ビデオあり 人との会話なし(↓) 教室内のイスに座って休憩するルール 人の反応なし(↓) 7 7
解決策のABC分析 一人で 休憩をする 8 人との会話なし(↓) 離れたところに教員 近くに人なし(↓) 人の反応なし(↓) 人との会話なし(↓) 離れたところに教員 近くに人なし(↓) 人の反応なし(↓) 一人の休憩スペース 一人で 休憩をする 友達の話し声なし 図鑑の写真(↑) 図鑑,CDデッキ, おもちゃあり CDの音楽(↑) ルールあり 人の注目なし(↓) 8 8
現状のABC分析 暴力する 9 複数の男性教員がくる(↓) 近くに教員 教員の無反応 カームダウンの部屋にいく(↓) 気に入らない教員の返答 自分の方が強いという感覚(↑) 気に入らない教員の表情 相手が殴ってこない(↑) 自分の要求が通らない すっきり(↑) 暴力する 教員の無反応 一人になる(↓) ルール表あり 注目あり(↑) 声かけあり(↑) 教員と話をしている時 関わりあり(↑) 注意が得られない時 殴った時、蹴った時の相手の反応(↑) 9 9
解決策のABC分析 暴力する 10 複数の男性教員がくる(↓) 離れたところに教員 一人になる(↓) 教員の無反応 すっきり(↑) カームダウンの部屋に行く(↓) 離れたところに教員 一人になる(↓) 教員の無反応 すっきり(↑) 口頭での約束あり 関わりあり(↑) 暴力する 自分が強いという感覚(↑) 注目が得られない時 相手が殴ってこない(↑) 教員と目が合った時 殴った相手の反応(↑) 殴った感覚(↑) 10 10
現状のABC分析 不適切行動 11 好きな教員が近くにいる 教員が近くにいる 一部ルール表あり 教員の無反応 床や壁が排泄物で汚れた状態(↑) 物を投げたり蹴ったりする感覚(↑) 好きな教員が近くにいる 注目あり(↑) 教員が近くにいる 声かけあり(↑) 一部ルール表あり 関わりあり(↑) 教員の無反応 不適切行動 物が壊れる音(↑) 排泄したスッキリ感(↑) 気に入らない教員の返答 つばのかかった様子(↑) 気に入らない教員の表情 一部、ルール表にチェック(↓) 教員と話をしている時 自分の言った暴言を聞く(↑) 注目が得られない時 下ネタの響き(↑) 11 性器をさわる感覚(↑) 11
解決策のABC分析 不適切行動 教員の反応なし(↓) 注目なし(↓) 離れたところに教員 関わりなし(↓) 教員の姿なし 無反応 12 物が壊れる音(↑) 不適切行動 注目が得られない時 排泄したスッキリ感(↑) つばのかかった様子(↑) 教員と目が合った時 性器をさわる感覚(↑) 一部、ルール表にチェック(↑) 自分の言った暴言を聞く(↑) 下ネタの響き(↑) 12 12
方法 【対象児】 生徒A(支援学校中学部3年生男子) 自閉症、知的障害 注意欠陥多動性障害(ADHD) WISC-IV:IQ44 自閉症、知的障害 注意欠陥多動性障害(ADHD) WISC-IV:IQ44 【指導場面】 学校生活全般 【般化場面】 指導者5名以外の教員 【教材】 一人の教室、スケジュール、一人でできる課題
介入1 手続き(1) ・4人の教室から一人の教室へ変更する。 介入1 手続き(1) ・4人の教室から一人の教室へ変更する。 ・集団の授業に参加することをやめ、一日の活動を自立課題、休憩、虫取りのみとする。 ・Aが話しかけてきたときに、反応 しないことを全教員に周知する。 ・暴力行為(殴る、蹴る、人につばをはく、物を投げるなど)があったときは、複数の男性教員がカームダウンの部屋に誘導する。
介入1 手続き(2) 1 教室、学習内容、一日の流れ、「人と話せないルール」、人に話しかけても反応がないこと、虫取りのルールを口頭で説明する。(指導開始日のみ) 2 トランジッションカードを手渡し、次の活動を指さしをする。 3 そのまま次の活動をした場合は、2~3m離れた場所で見守る。 もし、次の活動に移れない場合は、トランジッションカードをもう一度手渡し、次の活動を指さしする。トランジッションカードを受け取らない場合は、目の前にトランジッションカードを置き、離れて見守る。Aが話しかけてきたときは、視線を合わさず距離を置く。
介入1 手続き(3) 4 Aが課題を完成させ報告してきたときは、課題を 確認してできている場合は、ハイタッチをしながら 介入1 手続き(3) 4 Aが課題を完成させ報告してきたときは、課題を 確認してできている場合は、ハイタッチをしながら 褒めたあと、お菓子箱を渡す。 5 お菓子箱についているトランジッションカードを指 さす。 (指導開始日のみ) 6 休憩コーナーに入ったら、距離を置く。Aが話しか けてきたときは、視線を合わさず見えない位置に 移動する。
介入2 1 介入1の手続き(1)(2)(3) は同じ。 2 学校で暴力があれば,入院手続きをすることを 伝える。
記録方法 一人で課題をした時間と一人で休憩をした時間の合計 不適切行動があった回数/一日あたり
達成基準・中止基準 中止基準 指導期間:2014年1月8日~ 達成基準 ①不適切行動・・・1日の不適切行動の回数が15回以下が20日連続。 指導期間:2014年1月8日~ 達成基準 ①不適切行動・・・1日の不適切行動の回数が15回以下が20日連続。 ②一人で課題・休憩・・・1日150分以上が7日間連続。 中止基準 ①不適切行動・・・1日の暴力の回数が10回を超えたとき。 ②一人で課題・休憩・・・1日50分以下が3日間連続。
DVDプレーヤーに小便,課題を隠す,投げる 結果(1) 不適切行動の回数 ベースライン 介入1 介入2 1日にあった回数(回) DVDプレーヤーに小便,課題を隠す,投げる 暴言100回以上,小便7回,暴力7回 週末に父親とのケンカが影響 日付
結果(2) 1日にあった回数(回) 日付
結果(3) ベースライン 介入1 一人での活動時間(分) 日付
結果(4) 「一人で課題・休憩」の介入1では「一人教室への変更」「人と話せないルール」「すべての授業を一人だけ」に前提条件を変更したことで大きな成果が出た。 「不適切行動」の介入1では,はじめの4日間は不適切行動の回数が50回以下で,暴力もなかった。 6日目に不適切行動が200回を超え,暴力も7回あった。 1月22日以降,学校でよく寝るようになった。 学校で50分以上,寝ている日は暴力もなく不適切行動も少ない(15回未満)。
結果(2) 「不適切行動」の介入2では,追加となったルールを説明した2/13は,不適切行動が30回を超えた。 2/13以降は,不適切行動が10回以内であった。
考察(1) 人との関わりを減らす環境設定やルールを作ることで,一人で休憩できる時間が増えた。 → 支援者側の負担も激減した。 → 支援者側の負担も激減した。 一人でできる活動,一人での休憩,教員の立ち位置などの前提条件を整えても,不適切行動の減少にはつながらなかった。
考察(2) 寝ている時間が多いほど,不適切行動は減る傾向。 「学校で暴力があれば入院」のルールが効果的。