作業療法の効果を目指す アセスメントと治療操作の考え方

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J.Kominato 個別ケアプラン作成の留意点 個別ケアプラン作成の留意点 J.Kominato.
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キー・コンピテンシーと生きる 力 キー・コンピテンシー – 社会・文化的,技術的道具を相互作用的に活用する力 – 自律的に行動する力 – 社会的に異質な集団で交流する力 生きる力 – 基礎・基本を確実に身に付け,いかに社会が変化しようと, 自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え, 主体的に判断 し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力.
学習目標 1 .セルフマネジメントモデル,学習援助型教育とは何か を理解する. 2 .セルフマネジメント支援のために必要な構成要素につ いて理解する. 3 .セルフマネジメントにおいて看護職に求められる能力 と責任について理解する. SAMPLE.
第8章 心の病気 生徒の心の問題に対処するために (1) 道案内  なぜ教育心理学を学ぶのか 1  効果的な授業をするために 2記憶 3学習 4動機づけ  生徒を正しく評価するために 5評価  生徒の心を理解するために 6性格 7性格検査  生徒の心の問題に対処するために 9治療 10.
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アンケート② 病棟体制.
本章の学習目標 1.精神に障害のある対象者への援助を進めるにあたり,援助の特徴と,なぜそのようにするのかがわかったうえで,具体的な方法を考えられること. 2.精神に障害のある対象者は,病的な体験のために部分的に日常生活に支障を来たす場合が少なくない.生活を通じて,自己のあり方や生活スキルの見直しが求められる.日常の生活が治療的な環境として大きな意味をもち,またそこで援助を行う看護師も治療的な環境の一つであることを理解する.
ドイツの医師職業規則 から学ぶもの 東京医科歯科大学 名誉教授  岡嶋道夫.
平成21年度 特別支援学校新教育課程中央説明会 (病弱教育部会).
薬物乱用防止教室 健康で幸せな生活を送るために.
平成27年度 障害者虐待防止権利擁護研修 施設コース
本邦における「障害」の射程と 身体障害者手帳をめぐる問題
国内平成24年 210 万人の 認知症(⇒20年後 400万人超?) そのうち7~9割に BPSD(認知症周辺症状)出現する
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リサーチ・パートナー・シート 2015年11月版.
脳血管障害 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 緊急処置 一般検査 画像検査 治療 診断
Ⅲ.精神医学的アプローチの提案 精神科医 片山知哉 療育研究大会全体会シンポジウム 家族背景の要因で「難支援」に至るケースへの対応
女子大学生におけるHIV感染症のイメージと偏見の構造
独立行政法人国立病院機構 舞鶴医療センター認知症疾患医療センター 川島 佳苗
介護予防サービス・支援計画表 記入のポイント.
このスライド原稿は、諸事情により伏せ字にしている部分があります。また、画像資料(約50枚)は全て削除してあります。
 クリティカルケア領域に             おける家族看護     ICU入室中の患者家族の      ニードに対する積極的介入について              先端侵襲緩和ケア看護学                    古賀 雄二 
2007年10月14日 精神腫瘍学都道府県指導者研修会 家族ケア・遺族ケア 埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科 大西秀樹.
株式会社メディカルアーツ スタッフ研修 放課後等デイサービス ホップステップ 合同会社サンクスシェア 田中 さとる ホップステップスタディ
基礎看護の授業を通して思考力,判断力,表現力,技能を育成する指導方法の工夫改善についての研究
学習目標 1.急性期の意識障害患者の生命危機を回避するための看護がわかる. 2.慢性期の意識障害患者の回復に向けた看護がわかる. 3.片麻痺患者のADL獲得に向けた看護がわかる. 4.失行・失認の患者が生活に適応するための看護がわかる. 5.失語症の患者のコミュニケーション方法の確立に向けた看護がわかる.
Evidence-based Practice とは何か
SAMPLE 1.人間の活動・運動の意義が理解できる. 2.随意運動の成り立ちが理解できる. 3.同一体位による身体への影響が理解できる.
地域・社会貢献をするために人として必要な資質
総合病院国保旭中央病院 緩和ケア病棟 清水里香 舘山昌子 辻きみよ
がん患者の家族看護 急性期にあるがん患者家族の看護を考える 先端侵襲緩和ケア看護学 森本 紗磨美
司法精神科領域における作業療法 医療観察法における作業療法士の役割と 関連する領域における経験より
(2)発達障害学生の 修学支援・就労支援 第24回障害と多様な仕事の在り方研究会 (2017年10月27日) 国立大学法人浜松医科大学
日常生活から社会へ~社会学理論とジェンダー 1
アマルティヤ・センの「財とその利用」 財、その特性と機能 p21~p22 特性 =財がもつ望ましい性質・利用。
(4) 事例検討(認知症、せん妄) 1. 基本知識 編(180分) 2. 対応力向上 編(480分) 3. マネジメント 編(420分)
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」
高齢慢性血液透析患者の 主観的幸福感について
課題別の支援イメージ(例).
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
トピック6 臨床におけるリスクの理解と マネジメント 1 1.
学習目標 1.栄養代謝機能に影響を及ぼす要因について説明することができる. 2.栄養代謝機能の障害による影響を,身体,精神機能,社会活動の三側面から説明することができる. 3.栄養状態をアセスメントする視点を挙げることができる. 4.栄養状態の管理方法について説明することができる. SAMPLE 板書.
2011 行動分析学特論 (1)行動分析学と 対人援助(学)
緩和ケアチームの立ち上げ (精神科医として)
南魚沼市民病院 リハビリテーション科 大西康史
異文化能力の概念化と応用  ― 批判的再考 ― The Conceptualization and Application of Intercultural Competence: A critical review ケンパー・マティアス.
図15-1 教師になる人が学ぶべき知識 子どもについての知識 教授方法についての知識 教材内容についての知識.
浜松医科大学附属病院・磐田市立総合病院 チャイルド・ライフ・スペシャリスト 山田 絵莉子
Presentation transcript:

作業療法の効果を目指す アセスメントと治療操作の考え方 ~入院後の統合失調症を例に~ 宮崎県精神科OT研究会  2008.7.5      加世田病院 堀木 周作

はじめに アセスメントの情報は2種類 Subjective :クライアント個人に属するデータ Objective :セラピストによる所見 はじめに     アセスメントの情報は2種類 Subjective :クライアント個人に属するデータ  各種検査などの数量値や、視診・触診、作業遂行程度。   個人的背景(病歴、家族歴、環境因子など)   主観的苦痛、不安、恐怖の訴えや言動など→検査や定量的観察測定などで裏付けを取るべき。 Objective :セラピストによる所見   セラピストが客観的(事実)に基づき観察・判断した意見。 subjectiveデータからの判断。 表情や言動からの印象。他者からの同情報など。

OTガイドラインから合致するOT目的を想定する プレ・アセスメントの進め方 健康状態(医学的)情報の収集 診断名、合併症、現病歴、既往症など ICD-10 DSM-Ⅳ 主となる疾患の特性をイメージする 特徴的症状(中核症状と周辺症状) 予想される生活機能の障害 ICF OTガイドラインから合致するOT目的を想定する

作業療法の主な目的 (OTガイドライン2006) (下線部は入院後Scの例示)

アセスメントの開始 ICF 実施する順位を決める 疾患による生活機能障害の特徴・特性 関連他職からの情報、関連因子の情報 現行治療の方針とリスク:身体、薬物、検査 評価項目と指標の選定 作業療法 ガイドライン 一般的情報(個人因子) 環境因子、医学的情報 ICF 実施する順位を決める ※順位は個人的   善意でも良い 面接、検査・測定、観察の実施

評価・治療・指導・援助項目 作業療法ガイドラインより抜粋 1.基本的能力(ICF:心身機能・身体構造)   運動。感覚・知覚。心肺機能。摂食・嚥下機能。  精神・認知・心理:意識水準、見当識、知的機能、気質・人格、意欲、睡眠、注意・集中、記名・記憶、感情・情緒、思考、自己同一性。

評価・治療・指導・援助項目(続) 作業療法ガイドラインより抜粋 2.応用的能力(ICF:活動と参加)   起居・移動。上肢動作。身辺処理。コミュニケーション:理解、表出、会話。生活リズム:生活時間の構造化、活動と休息のバランス。知的・精神面:論理的思考、問題解決能力、意志決定、行為・企画能力、理解力・判断力、防衛機制、自己統制、現実検討、課題の遂行、ストレスへの対処。代償手段の適用。

評価・治療・指導・援助項目(続) 作業療法ガイドラインより抜粋 3.社会的適応能力(ICF:活動と参加)   個人的生活適応:安全管理、健康管理、時間管理。社会生活適応:言語的コミュニケーション、非言語的コミュニケーション、対人関係、集団内での人間関係、場面適応、役割行動、社会参加。教育的・職業的適応:作業耐久性、指示理解、作業習慣、集団内での協調性、心理的耐久性。余暇活動面:自由時間の内容、活動意欲、興味対象の有無、活動量の変化。

評価・治療・指導・援助項目(続) 作業療法ガイドラインより抜粋 4.環境資源(ICF:環境因子)   人的環境:家族や友人、ボランティア、支援員等。   物理的環境:住宅内外の環境、地域特性、           制度やサービスの充足度など。

作業療法の流れ 作業療法ガイドライン2006より 援助の根拠や よりどころは…?

比較するための基準点を設定する 患者のOT目標を設定する(短期・長期目標) チームの治療(到達)目標との整合性をとる 疾患特性による機能障害の特定(DSMやICDの利用) 患者個人の生活機能障害項目を探る(ICF小項目) 評価指標を設定。関連因子を押さえておく              (精神医学文献、OTガイドラインから) OT検査・測定、観察(関与観察ふくむ)の実施 benchmark ※ベンチマークの設定 患者のOT目標を設定する(短期・長期目標) チームの治療(到達)目標との整合性をとる 具体的援助の実施と再評価

評価指標と関連因子を設定する 「評価指標」の例 行動、思考、認知、見当識、感情などに 関連した問題の質的量的変化  行動、思考、認知、見当識、感情などに 関連した問題の質的量的変化 「関連因子」として留意すべき側面の例  幻覚、妄想、精神運動、情動などの変調 病状変化、薬物変更、環境変化、 身体状態などの情報:ex.病棟申し送りから得る

OT診断から目標設定までの流れ 入院後の統合失調症患者を例に

ターゲットとする生活機能障害を想定する 1.自己同一性(アイデンティティ)の障害:自己と非自己を峻別出来ない。 2.生活リズムと構造の乱れ;セルフケアの不足:生活関連活動を自立して遂行する能力が障害されている状態。身辺処理、ADLなど。 3.社会生活適応;社会的孤立:孤立を体験しており、それが他者によってもたらされ、かつ拒否あるいは迫害されていると受け止めている状態。

1-a 自己同一性 アセスメント項目を抽出する 評価指標:奇妙な行動、退行行動、自我境界の喪失、失見当識、まとまりのない非論理的な思考、平板化したあるいは不適切な感情、不安・恐れ・興奮、他者あるいは器物に対する攻撃行動 関連因子:幻覚、妄想、精神運動遅延、性的な葛藤

1-b 自己同一性 患者の目標を設定する(入院初期:急性期) 身体的損傷の危険性が無くなる。 他人を傷つけたり、器物を壊さなくなる。 現実接触を保つ。或いは現実へ向ける。 周囲に容認される方法で感情を表現する。 精神症状、不安、興奮などが軽減したことを示す、あるいはそれを言語化する。

1-c 自己同一性 患者の目標設定(退院考慮期:安定期) 能力に適った役割遂行レベルに到達し、それを維持する。 病気に対して効果的に対処する。 薬物療法など、指示された治療法に従う。

1-d 自己同一性 OTの治療目標 患者および他患にとって安全な環境を整える。 現実に目を向けさせる。 日課として定められた目標指向性の活動をさせる。 奇妙な行動、退行行動を減らす。 不安と興奮を減らす。

2-a 生活リズムと構造の乱れ (セルフケアの不足) アセスメント項目を抽出する 評価指標:自発的で目標指向性の行動の障害。不十分な個人的衛生。日常の課題を最後まで遂行することの困難。 関連因子:幻覚、妄想、無感情、無気力

2-b 生活リズムと構造の乱れ (セルフケアの不足) 患者の目標を設定する(入院初期:急性期) 休息、睡眠、活動のバランスを適切に保つ。 栄養学的に良好な食事パターンを確立する。 セルフケア関連活動に加わる。

2-c 生活リズムと構造の乱れ (セルフケアの不足) 患者の目標設定(退院考慮期:安定期) 生理学的な健康を維持するために必要な日課を継続する。 セルフケア活動が自立する。

2-d 生活リズムと構造の乱れ (セルフケアの不足) OTの治療目標 適切にバランスのとれた休息、睡眠、活動を促す。 適切な栄養と水分の摂取、および排泄を促す。 適切な身だしなみ、衛生、その他の日常生活活動を促す。

3-a 社会生活適応(社会的孤立) アセスメント項目を抽出する 評価指標:不適切、あるいは不十分な情緒的反応。乏しい対人関係。社会的状況で脅威を感じること。言語的コミュニケーション能力の障害。刺激への過剰反応。 関連因子:精神状態の変調。容認されない、社会における行動。現実接触の欠如。まとまりのない、非論理的な思考。支持的な重要他者の欠如。低い自尊感情。

3-b 社会生活適応(社会的孤立) 患者の目標設定(入院初期:急性期) 自己の価値感情の高まりを言語化する。 自分の能力と長所を認める。 社会的相互作用に加わる。

3-c 社会生活適応(社会的孤立) 患者の目標設定(退院考慮期:安定期) 他者と効果的にコミュニケーションを行う。 自分の能力と長所を活用する。

3-d 社会生活適応(社会的孤立) OTの治療目標 自尊感情と自己の価値感情を高める。 適切な社会的相互作用を促進する。 社会からの引きこもりを減らす。