地方税と補助金 公共経済論I no.3.

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地方税と補助金 公共経済論I no.3

問題 地方独自の課税は望ましいか 国税と地方税の原則の違いは 補助金の役割 財政力の格差は是正すべきか 地方債による資金調達 東京都のホテル税 分権化に寄与すれば望ましいのか 国税と地方税の原則の違いは 望ましい地方税制度とは その他 ふるさと納税をどう評価するか 補助金の役割 ヒモ付きという批判 一般財源が望ましいのか 財政力の格差は是正すべきか 地方債による資金調達

国税と地方税 租税原則 国税と地方税の違いは? 公平性 (応能原則,応益原則) 効率性 その他(簡素,…) 公平性 (応能原則,応益原則) 効率性 その他(簡素,…) 国税と地方税の違いは? 地方政府サービスの受益者は基本的にはその地域の住民である 受益者の特定が容易 住民や生産要素の地域間移動は容易である 国境を超えた移動  習慣,文化,法制度の違い ある地方政府の行動は他の地方政府に影響を与え,行動の変化をもたらすか もしれない 外部性 租税輸出,租税競争,重複課税

地方税 地方政府サービスの費用は,受益者である地域住民が負担すべき 地方税は応益原則に基づくべき 地域間移動が容易 他地域への外部性 受益者の特定が容易だから 国税は応能原則が重要 地域間移動が容易 地方独自の課税企業の立地や住民の居住地選択を歪める(効率性) 地域間移動の容易な主体 課税しても,移動の相対的に困難な主体に負担を 転嫁できる(公平性) 他地域への外部性 租税輸出 租税競争 重複課税

地方税の原則 国税の原則 地方税の原則 公平性(応能原則,応益原則), 効率性, 簡素 公平性 効率性 応益課税(居住者が負担すべき) 効率性 移動の容易な主体への課税は資源配分の効率性を大いに阻害 する 地方財政の教科書でよくあげられる地方税の原則(あ まり論理的ではない) 安定性 伸張性 応益性 負担分任性 税源普遍性 自主性

地方税の帰着 租税の帰着 地方独自の課税の効果 部分均衡分析での租税の帰着分析 納税義務者と実際に税を負担する者は異なる 法人税:企業が負担するのではなく,最終的には個人 株主,経営者・従業員,消費者,その企業の取引先 地方独自の課税の効果 税負担をきらって他地域へ移転するかもしれない 地方税の実際の負担は他地域の住民かもしれない 地方政府サービス未満(あるいは以上の)負担に地域住民は直面 地方政治の意思決定を歪めるという問題 部分均衡分析での租税の帰着分析 需要・供給の価格弾力性 代替財の存在,生産要素を他の財の生産に転用できるか 地方課税の場合には,他地域への流出が容易かどうか

価格弾力性と物品税の帰着 生産者が100%負担 消費者が100%負担 p p S D S’ F p1 S E p0=p1 t p0 t E q1 D Q Q Q0 Q0 p p 消費者が100%負担 生産者が100%負担 S’ F S p1 S’ F E t E p0=p1 S D p0 t D q1 Q Q Q1 Q0 Q1 Q0

価格弾力性と物品税の帰着(2) 供給曲線が相対的に非弾力的 需要曲線が相対的に非弾力的 S’ p p S’ S F p1 S F p1 E t E p0 p0 q1 t G q1 D D G Q Q 生産者側が多く負担 消費者側が多く負担

地方税の帰着 法人税・資本所得税 個人所得税 物品税 固定資産税 他地域へ容易に移動 供給の弾力性が大きい 需要側に租税を転嫁 個人所得税 他地域への移動は可能だが,企業・資本に比べると移動費 用がかかる 物品税 クロスボーダーショッピング,インターネットでのショッ ピング 固定資産税 建物部分(資本)は移動は容易 新規の建築が抑制される,維持・補修を怠る 土地部分:移動は困難

望ましくない地方税 租税輸出 租税競争 他地域住民へ負担を転嫁 法人税,観光地でのホテルや温泉の利用に対する課税,天然資源に対 する課税 応益原則に反する 地方政府の財政規律を緩ませる原因となる 租税競争 企業の誘致合戦  最終的には法人税率ゼロに 課税ベースの重複 国と地方で税収の取り合い 本来はゼロサムゲーム囚人のジレンマ(共有地の悲劇)

望ましくない地方税(2) 重複課税 例)課税ベースが国と地方で重複しているケース 所得税 地方政府が地方税率を引き上げる  地方税収の増加(ただし,労働供給は減 少)労働供給の減少は国税収入を低下させる 地方政府の税率の引き上げは中央政府に負の外部性を与える 同様に,国が国税の税率を引き上げる  地方税の減少 中央政府と地方政府で協調行動が取れない場合,所得税の税率(国税と地方税の 合計)は過大に 共有地の悲劇

国税と地方税 どこまでを地方政府の裁量に任せるべきか 望ましい地方税 課税ベースの選択 税率の選択 租税輸出,租税競争を引き起こさない 何でも分権化すればよいというわけではない 望ましい地方税 応益課税の原則を徹底 土地に対する課税 地方政府支出の便益が資本化 住民税 居住者負担となるような調整(地方消費税) その上で地域間の財政力格差が問題としてのこれば, 適切な財政調整制度で対処  交付税の改革

補助金の効果・役割 補助金の分類 一般補助金と特定補助金の同等性 定額補助金,定率補助金の効果 補助金の役割 一般補助金と特定補助金 定額補助金と定率補助金 一般補助金と特定補助金の同等性 定額補助金,定率補助金の効果 補助金の役割 外部性に対する対処

問題の考え方 地方政府(またはその地域の代表的個人)の直面する予算制約 は? その予算制約のもとで,地方政府(または代表的個人)は,ど のような支出を選択するか 効用関数 地方政府の行動 補助金や財政調整制度は地方政府の直面する予算制約をどう変 えるか 代表的個人(有権者) 中位投票者定理  中位の有権者が代表的個人

地方政府の行動 私的財と政府支出の選択 異なる政府支出の選択 x G1 x* U(x,G)=u0 G1* U(G1,G2)=u0 G2 G* 予算線 予算線

定率補助金と定額補助金 定額補助金 定率補助金 x x F G E F E G G 定率補助金は,所得効果(EG)に加え,代替効果(GF)がある

特定補助金(定額)と一般補助金 特定補助金(定額) 一般補助金(定額) G1 G1 G2への特定補助金(定額) F F E E G2 G2

特定補助金 定額と定率 特定補助金(定額) 特定補助金(定率) G1 G1 G2への特定補助金(定額) G F E F E G2 G2 特定補助金 定額と定率 G1 G1 特定補助金(定額) 特定補助金(定率) G2への特定補助金(定額) G F E F E G2 G2 G2への定率補助金はG2の支出を増加させるのに効果的

まとめ 定額の補助金は,特定補助金であっても所得効果 のみ持ち,一般補助金と同等 特定の支出を増加させるためには,定率補助金の 方が効果的 他の支出も増やす アメリカの実証研究では,この理論の予測に反する 結果が報告されている フライ・ペーパー効果 特定補助金(定額)の効果特定支出を増加 特定の支出を増加させるためには,定率補助金の 方が効果的 外部性のため,地方政府に任せると過少になる支出 については,中央政府が補助金でこれを是正する必 要

財政調整制度(地方交付税)の役割 地方交付税の機能 地方交付税の仕組み 交付税の問題点とされる点 垂直的財政調整 水平的財政調整 標準的な財政需要と標準的な税収の差額を補填 交付税の問題点とされる点 財政規律の緩み 地方の過度の優遇

水平的財政調整の役割 問題を考えるポイント 財政力格差の原因 地域間の移転政策も最終的に個人に帰着 なぜ個人をターゲットにしないのか 支出面の格差 公共財 規模の経済性 人口規模の違い 費用条件が異なる(賃金や地代が高い,自然環境の違い) 高齢化等の進展度合い 税収格差 住民一人当たり所得の違い 租税輸出(特に法人税) 地価

交付税改革の一般的な議論 ナショナル・ミニマムを超えた再分配 基準財政需要の算定方式が複雑 小規模自治体が優遇されすぎている 税収格差 交付税の縮小 基準財政需要の算定方式が複雑 交付税の簡素化 小規模自治体が優遇されすぎている 段階補正,密度補正の見直し 税収格差 東京都とそれ以外(法人税) ふるさと納税?

水平的財政調整の根拠 格差の原因を特定化し,原因ごとに対処方法を考えるこ とが必要 高齢化 人口規模 税収格差 財政需要と税収のタイミングのずれ 一地方政府では対処できない(住民の移動があるから) 人口規模 公共財供給の規模の経済性 長期的には住民の移動が問題を解決,短期的には問題は残る 税収格差 一人当たり所得 個人をターゲット 法人税 租税輸出をなくすことが重要 地価 是正する必要なし 単純な簡素化では,問題は解決しないことが重要

地方債 地方債の発行に制限を設けるべきだ(通常の議 論) 地方債発行の完全な自由化に問題が無いという議 論 債務の増加 しかし,将来は増税 現在は,負担に見合わない便益を享受 しかし,将来は増税 増税の前に他地域に逃げ出せば,フリーライドできる 債務の増加住民の流出財政破綻  地方債発行に何らかの制限を設けるべき 地方債発行の完全な自由化に問題が無いという議 論 将来の増税は,地価に資本化される 将来の増税将来の住民の流出現在の地価の低下 現在の債務の増加(将来の増税を意味する)は,地価の 低下という形で現在の地主に負担されるので,問題は無 い