20.6 温度依存性 ○ 化学反応の速度 温度の影響を受ける → 速度定数を示すときには反応温度が問題

Slides:



Advertisements
Similar presentations
物理化学 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛. 物理化学: 1 章原子の内部 (メニュー) 1-1. 光の性質と原子のスペクトル 1-2. ボーアの水素原子モデル 1-3. 電子の二重性:波動力学 1-4. 水素原子の構造 1-5. 多電子原子の構造 1-6.
Advertisements

相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
原子核物理学 第3講 原子核の存在範囲と崩壊様式
電磁気学C Electromagnetics C 7/27講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
自己重力多体系の 1次元シミュレーション 物理学科4年 宇宙物理学研究室  丸山典宏.
反応ギブズエネルギー  ΔrxnG (p. 128).
医薬品素材学 I 3 熱力学 3-1 エネルギー 3-2 熱化学 3-3 エントロピー 3-4 ギブズエネルギー 平成28年5月13日.
化学反応式 化学反応:ある物質が別の物質に変化 反応物 → 生成物 例:酸素と水素が反応して水ができる 反応物:酸素と水素 生成物:水
金箔にα線を照射して 通過するα線の軌跡を調べた ラザフォードの実験 ほとんどのα線は通過 小さい確率ながら跳ね返ったり、
基盤科学への招待 クラスターの不思議 2005年6月3日  横浜市立大学 国際総合科学部  基盤科学コース 野々瀬真司.
薬学物理化学Ⅲ 平成28年 4月15日~.
アンモニア(アミン類) 配位結合:結合を形成する2つの原子の一方からのみ結合電子が分子軌道に提供される化学結合。
○ 化学反応の速度     ・ 反応のある時点(たいていは反応開始時、ξ=0)について数値      として示すことが可能
福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
反応性流体力学特論  -燃焼流れの力学- 燃焼の流体力学 4/22,13 燃焼の熱力学 5/13.
3)たんぱく質中に存在するアミノ酸のほとんどが(L-α-アミノ酸)である。
空孔の生成 反対の電荷を持つイオンとの安定な結合を切る必要がある 欠陥の生成はエンタルピーを増大させる
(b) 定常状態の近似 ◎ 反応機構が2ステップを越える ⇒ 数学的な複雑さが相当程度 ◎ 多数のステップを含む反応機構
22・5 反応速度の温度依存性 ◎ たいていの反応 温度が上がると速度が増加 # 多くの溶液内反応
オルソポジトロニウムの 寿命測定によるQEDの実験的検証
電気回路Ⅱ 演習 特別編(数学) 三角関数 オイラーの公式 微分積分 微分方程式 付録 三角関数関連の公式
生物機能工学基礎実験 2.ナイロン66の合成・糖の性質 から 木村 悟隆
速度式と速度定数 ◎ 反応速度 しばしば反応原系の濃度のべき乗に比例 # 速度が2種の原系物質 A と B のモル濃度に比例 ⇐ 速度式
微粒子合成化学・講義 村松淳司
回帰分析の結果、直線の傾きは ×104 と求められ、 EA = -(傾き)×R = (2.71×104)×8.31
基礎無機化学 期末試験の説明と重要点リスト
物理化学III F 原道寛.
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
緩衝液-buffer solution-.
第6章 連立方程式モデル ー 計量経済学 ー.
課題 1 P. 188.
奈良女子大集中講義 バイオインフォマティクス (9) 相互作用推定
平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:炭素陽イオン 奥野 恒久.
燃焼の流体力学 4/22 燃焼の熱力学 5/13 燃焼流れの数値解析 5/22
22章以降 化学反応の速度 本章 ◎ 反応速度の定義とその測定方法の概観 ◎ 測定結果 ⇒ 反応速度は速度式という微分方程式で表現
小テスト(10月24日) 1.拡散係数について以下の問いに答えよ ①単位は? ②gas中、液中、固体中におけるオーダーは?
Taniguchi Lab. meeting 2004/10/15 Shigefumi TOKUDA
課題 1 課題提出時にはグラフを添付すること.
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
Charmonium Production in Pb-Pb Interactions at 158 GeV/c per Nucleon
FUT 原 道寛 学籍番号__ 氏名_______
FUT 原 道寛 学籍番号__ 氏名_______
課題 1 P. 188.
pp-wave上の共変的超弦の場 における低エネルギー作用
明大理工,通総研A 木下基、福田京也A、長谷川敦司A、細川瑞彦A、立川真樹
Chapter 26 Steady-State Molecular Diffusion
(d) ギブズ - デュエムの式 2成分混合物の全ギブスエネルギー: 化学ポテンシャルは組成に依存
化学1 第12回講義        玉置信之 反応速度、酸・塩基、酸化還元.
情報経済システム論:第13回 担当教員 黒田敏史 2019/5/7 情報経済システム論.
◎ 本章  化学ポテンシャルの概念の拡張           ⇒ 化学反応の平衡組成の説明に応用   ・平衡組成       ギブズエネルギーを反応進行度に対してプロットしたときの極小に対応      この極小の位置の確定         ⇒ 平衡定数と標準反応ギブズエネルギーとの関係   ・熱力学的な式による記述.
近代化学の始まり ダルトンの原子論 ゲイリュサックの気体反応の法則 アボガドロの分子論 原子の実在証明.
これらの原稿は、原子物理学の講義を受講している
今後の予定 7日目 11月12日 レポート押印 1回目口頭報告についての説明 講義(4章~5章),班で討論
課題 1 課題提出時にはグラフを添付すること.
α decay of nucleus and Gamow penetration factor ~原子核のα崩壊とGamowの透過因子~
北大MMCセミナー 第68回 附属社会創造数学センター主催 Date: 2017年6月15日(木) 16:30~18:00
課題 1 課題提出時にはグラフを添付すること.
課題 1 課題提出時にはグラフを添付すること.
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
課題 1 課題提出時にはグラフを添付すること.
弱電離気体プラズマの解析(LXXVI) スプラインとHigher Order Samplingを用いた 電子エネルギー分布のサンプリング
外部条件に対する平衡の応答 ◎ 平衡 圧力、温度、反応物と生成物の濃度に応じて変化する
北大MMCセミナー 第100回 附属社会創造数学センター主催 Date: 2019年7月11日(木) 16:30~18:00
FUT 原 道寛 学籍番号__ 氏名_______
固体→液体 液体→固体 ヒント P131  クラペイロンの式 左辺の微分式を有限値で近似すると?
ヒント (a) P. 861 表22・3 積分型速度式 のどれに当てはまるか? (b) 半減期の定義は?  
ヒント.
Presentation transcript:

20.6 温度依存性 ○ 化学反応の速度 温度の影響を受ける → 速度定数を示すときには反応温度が問題 20.6  温度依存性 ○ 化学反応の速度  温度の影響を受ける     → 速度定数を示すときには反応温度が問題          ・ 多くの場合 25℃ (一般的な標準温度)               または 37℃ (平常時の人間の体温) ○ 温度  熱力学変数         これをもとに熱力学と速度論の関係を考察 ○ 温度と速度定数の関係     1889年にArrhenius (アレニウス)が提案した式

アレニウス式 ファントホッフの式から,平衡定数の温度依存性は ΔrxnH: 反応のエンタルピー変化,R: 気体定数 Arrheniusは反応物の分子と,それより高いエネルギーをもつより不安定な 中間体の間の平衡を想定し,ファントホッフの式と類似した関係を提案 エネルギー変化 → 反応の活性化エネルギー(activation energy) EA 平衡定数 → 反応の速度定数 k 変形すると 両辺を積分 (5章 P154 式(5.19))

両辺の指数をとって対数をはずす 右辺第二項は定数 → A とおく           アレニウス式 (Arrhenius equation) 定数A: 前指数項(pre-exponential factor)(頻度因子)  ○ 異なる温度での速度定数の実験値 → EA ○ EAが既知 → 別の温度での速度定数を予測可能 ○ 式(20.50)の自然対数 → アレニウス式を直線の方程式の形                    → EA, A

において、温度T1, T2における速度定数が それぞれk1, k2であるとき、 → EA

課題 1 P. 788

課題 2 P. 788

課題 3 P. 789

20.7 反応機構と素反応 ○ 分子レベルでみたとき,実際の反応はこの式の通りに進んでいない ・全反応の化学量論を表しているのみ 20.7 反応機構と素反応 ○ 分子レベルでみたとき,実際の反応はこの式の通りに進んでいない   ・全反応の化学量論を表しているのみ   ・分子レベルでは,水素と酸素の分子はまったく別のふるまい ○ 化学反応の各段階      → 素反応(elementary process) ○ 素反応を組み合わせて,最終生成物ができる様子     → 反応機構(reaction mechanism) ○ 反応の化学量論の決定 → 比較的簡単    反応機構を明らかにすること → 容易ではない                 ↑         速い素反応、不安定な中間体を含むことがあるため

○ 反応物分子が最終生成物に変化する様子を逐一追跡 → 不可能    したがって反応機構が正しいことを証明するのは,きわめて困難 ○ 推定した反応機構    ・ 支持する実験結果を示す    ・ 別の反応機構が正しくないことを示す  (例) ・溶液中の反応に対するストップトフロー法      ・気相反応に対する超高速レーザー分光法    ここではこのような手法で解析される素反応について考察し,    手法そのものについては触れない

(例1) ○ 最初の素反応    気相中で二つの分子が衝突し,結合の組替えが起こって    ・OHができる反応(水酸化物イオンでないことに注意) ○ 素反応の生成物 (・OH)について    ・OHは水素原子と酸素原子が一つずつ結合したもの    中性の二原子分子    合計の電子数は奇数 (典型元素の化合物のなかではめずらしい)    このような奇数電子の化合物は反応性が高くて寿命が短い    ラジカル(radical)またはフリ-ラジカル(free radical)と呼ばれる    ・OH  価電子の数についての規則に違反          安定化合物ではないので問題ない

素反応を考えるうえでの指針 ① 化学種は三次元空間内で相互作用するので,素反応としては一つ ① 化学種は三次元空間内で相互作用するので,素反応としては一つ    または二つの分子が出会う,すなわち衝突すると考え,三つの分子    が出会うことはほとんどない   ・時には反応性のない物質や容器の壁との衝突が素反応とされる     (衝突した分子の過剰なエネルギーを吸収するため)   ・ほとんどの素反応は一つまたは二つ(非常にまれに三つ)の    原料物質を含んだものである. ② すべての素反応を足し合わせると全体の反応式になる   ・当然のことだが,全反応機構を考えるときに忘れがち

③ 推定された反応機構が実験的に求められた全反応の速度式と   矛盾しない   ・重要であると同時に有用な指針   ・速度式の濃度項の指数,すなわちそれぞれの反応物についての    次数は,化学反応式の化学量論係数に一致する必要がない   ・素反応における速度式は,その過程の化学量論で決められる   ・素反応では,次数の代わりに反応分子数(molecularity)を使用

素反応として他に可能性のある反応 などなど ・どの化学種も電荷をもたない中性の分子 ・中間体の多くはラジカル   ・どの化学種も電荷をもたない中性の分子   ・中間体の多くはラジカル                            すべての分子について,これらすべての素反応を足し合わせると

(例2) ○ 考えられる素反応 ○ 素反応に含まれる化学種   ・生成物の一部はラジカル,残りは最終生成物

素反応の速度 ・ それぞれの素反応が速度をもつ ・ それが集まって全体の反応速度になる 超高速レーザー測定     超高速レーザー測定          → それぞれの素反応の速度が測定可能 ・ 素反応の速度を知ること          → 全体の速度を理解するうえできわめて有用 ○ 素反応の速度と全体の反応速度   ・ 全体の反応速度 ≦ 最も遅い素反応の速度      (最も遅い素反応が全体の反応を支配する)   ・ 全体の反応を支配する素反応      律速段階 (rate-determining step)

律速段階と全体の反応速度 の律速段階がはじめの素反応 である場合、この素反応の反応速度 が、全体の反応速度となる ○ 反応速度 ○ 反応速度      どの段階の速度を指すのか(素反応か全体か)を明確にする必要    ・ 素反応  化学量論式のみによって決定    ・ 全体 化学量論式だけをみてもわからない            律速段階さえわかれば決定可能

課題 4 P. 789

20.8 定常状態近似 ○ 素反応の速度式からただちに全体の反応速度式が得られるわけで はない ○ 通常の速度式 測定可能な量を使う (例) 20.8 定常状態近似 ○ 素反応の速度式からただちに全体の反応速度式が得られるわけで    はない ○ 通常の速度式   測定可能な量を使う   (例)       ・ 速度式を立てるのにはH2とO2の量を使う       ・ [・OH] のような物質の量を使うのは好ましくない (中間体で寿命がたいへんに短い          各反応時刻での濃度を測定することはきわめて困難)                  ↓       速度式は,簡単に測定できる反応物(ときには生成物)の量を       使って示さざるをえない ○ 律速段階が中間体の反応のばあいどうなるか?

○ 次のような二段階の反応を仮定     B: 定量困難な中間体、 A, C: 通常の化学種 (定量可能)    二番目の素反応が遅い(律速段階)       → 最初の素反応がどんなに速く進んでも,反応はそこで詰まる ○ 通常の反応  平衡反応     最初の素反応の平衡 → AとBの量比は一定、変化がない この反応のモデル    反応機構の定常状態近似 (steady-state approximation)

定常状態近似を用いた速度解析 ○ 定常状態近似 ・ 律速段階から得られる速度式を,実験的に求められる速度式に 関係づけることが可能 ○ 定常状態近似    ・ 律速段階から得られる速度式を,実験的に求められる速度式に      関係づけることが可能    ・ 推定する速度式 → 律速段階の化学量論式のみ使用    ・ 律速段階の前の段階が平衡にあれば,測定可能な出発原料 (反応物)の量を使って速度式を導出可能 ○ 速度式の二つの導出方法    ① 平衡定数を用いる方法    ② 中間体濃度を仮定する方法

平衡定数を用いる方法 ○ 最初の段階が平衡 → 平衡定数 ○ 二段階目が律速段階 → ○ 上の式より k, Kはいずれも定数 ○ 最初の段階が平衡      →  平衡定数 ○ 二段階目が律速段階   →  ○ 上の式より    k, Kはいずれも定数       → k K = k’ とおくと、

中間体の濃度を仮定する方法 ○ 正反応の速度式    逆反応の速度式 ○ 中間体Bの濃度 → 一定    (定常状態の仮定) ○ 中間体Bの生成速度

○ 中間体Bの濃度 ○ 二段階目が律速段階    定数部分をまとめて k とおくと、