再分配政策 (2) 公共政策論 II No.5 麻生良文. 所得再分配政策 所得格差の原因 所得再分配政策の評価 – 補助金と一括移転 – 累進課税 – 最低賃金制度 – 生活保護給付 – 負の所得税 – 新しい考え方 給付付き税額控除 世代間再分配.

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第5章第5章第5章第5章 競争的な市場が望ましくない場合. ①公益事業のかかえる問題 市場の失敗 ・問題が競争では解決しない ・競争状態の到達点が望ましい状態と 言えない 費用逓減産業問題 ( 自然独占問題 ) 圧倒的コスト優位のため市場が競 争的にならず、自然と独占状態になる 産業.
第 13 章 制度設定の変更が必要な 社会保障制度. 社会保障制度の重要性と それに対する根強い不安感 不景気の一因 不景気の一因 1997 年以降 かつてない不況 原因 ① 消費税率の引き上げ 原因 ① 消費税率の引き上げ ② タイや韓国を中心とした アジアの通 貨危機 アジアの通 貨危機 ③ 山一證券の経営破綻に代表さ.
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公的年金 (3) 公共政策論 II No.9 麻生良文. 公的年金制度改革 公的年金バランスシートと通時的予算制 約 年金純債務と暗黙の租税 年金制度改革をめぐる誤解 – 積立方式の優位性 – 「二重の負担」 – 財源調達:税と社会保険料の最適な配分? – 賦課方式も積立方式も output をどう分配する.
消費者行動の理論 (3) 貯蓄・労働供給の決定 貯蓄の決定理論 – 2 期間モデル – 割引価値,生涯の予算制約 – 貯蓄の決定 – 利子率の変化 労働供給の決定理論 – 基本モデル – 後方屈曲的労働供給曲線 – コーナー解 – 所得再分配政策.
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所得に対する課税 財政学B(財政学) 第 3 回 畑農鋭矢 1. 所得とは? ヘイグ=サイモンズの所得の定義 所得=消費+資産の純増(貯蓄) 所得に含まれるべきもの 自家消費:農家の農産物消費、 専業主婦の家事 帰属家賃:持ち家のサービス(自分への家 賃) キャピタル・ゲイン:資産の値上がり分.
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved.1 所得控除 課税所得=収入-控除 – 控除の例 基礎控除 給与所得控除 配偶者控除、配偶者特別控除 その他.
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© Yukiko Abe 2015 All rights reserved
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経済学(第7週) 前回のおさらい 前回学習したこと(テキストp.16,19) ◆ マクロ経済学における短期と長期 ◆ 完全雇用とはなにか ◆ 短期のマクロ経済モデルの背後にある考え方 (不況の経済学/有効需要原理) ◆ 民間部門はどのように消費や投資を決定するか ◆ ケインズ型消費関数とはなにか ◆
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再分配政策 (2) 公共政策論 II No.5 麻生良文

所得再分配政策 所得格差の原因 所得再分配政策の評価 – 補助金と一括移転 – 累進課税 – 最低賃金制度 – 生活保護給付 – 負の所得税 – 新しい考え方 給付付き税額控除 世代間再分配

格差の原因 産業構造の変化 参入障壁 補償格差 人的資本投資 差別

補助金の分類 一般補助金と特定補助金 – 一般補助金 使途を限定しない – 特定補助金 特定の支出に対する補助金 定額補助金と定率補助金 – 定額補助金 補助金が定額  基本的には所得効果のみ – 定率補助金 その財の購入費用の一定比率を補助  その財の価格 (他の財と比較した相対価格)に影響を与える 所得効果に加え,代替効果を発生させる

特定支出に対する補助金(定 率) 補助金導入前  予算線 AB X 財に対する定率補助金 –  予算線 BC ( F 点を選択) 定率補助金と同等の効用を実 現する一般補助金(一括移 転) –  予算線 A’B’ ( E 点を選択) E 点, F 点と元の予算線 AB との 垂直距離が補助金の金額( y 財 の量で測った大きさ) 一括補助金の方が小さい – 同等の効用を実現するためには一 括補助金の方が優れている – 定率補助金は,資源配分を歪める から

特定補助金と定額補助金 特定補助金の例 – 公営住宅や家賃の補助 – 食料切符 – 交通費の補助 – 医療費の補助 消費者の選択を重視するなら一般補助金の方 が望ましい 不正受給の可能性がある場合には,特定支出 に対する補助金や現物給付の方が望ましい可 能性がある  観察が容易だから

累進課税 累進税 – 所得の増加とともに平均 税率が上昇するような税 比例税 – 平均税率が一定 逆進税 – 所得の増加とともに平均 税率が下落するような税 超過累進税 – 所得の増加とともに限界 税率が上昇するような税 – 定額の所得移転と比例税 の組み合わせと同等 超過累進税

累進税:資源配分上の損失 課税前の予算線 –  予算線 AB 累進税 – 予算線 AG AG の所得移転と比例税の組み合わせに等しい – F 点を選択 F 点と予算線 AB の垂直距離が税収 比例税 (累進税と等しい効用を実現するような) –  予算線 AD – E 点を選択 E 点と予算線 AB の垂直距離が税収 等しい効用を実現する累進税と比例税の 比較 – 比例税の方の税収が多い – 累進税の資源配分上の損失の方が大きい 一般に,限界税率の大きさが所得税の死 重損失 (dead weight loss: 資源配分上の損 失)を決める 高い限界税率  所得再分配に貢献する が,資源配分上の損失も大きい 効率と公平のトレード・オフを考慮して 再分配政策を設計する必要性

最低賃金制度 最低賃金制度の効果 – 未熟練労働者の労働市場 – 競争的な市場を仮定 一般的には雇用を減らし, FG の失業をもたらす L’ の労働者は幸運だが,その他 の労働者はそうではない w* が実現していた場合に働い ていない労働者(労働の緊急 度が相対的に劣るかもしれな い労働者)が雇われるかもし れない 未熟練労働者は実際に働くこ とによって技能を向上させる かもしれない( OJT )  その機 会を奪ってしまう

買手独占市場での最低賃金制度 理論的には重要だが,労働市場 が買手独占であるケースは現実 的ではない(労働者は移住でき る)

生活保護制度 – 最低保証水準の所得を設定(図の AB に相当) – AB と労働者の現実の所得の ギャップ分だけの給付を支給 – 予算線は ABDF に – BD の区間では限界税率 100% で課 税されているのと同等 – 労働供給に対する強い抑制 – 図では労働者は点 B を選択 貧困の罠 – 低賃金労働者は実際の労働を通じ て技能を向上させる( OJT ) – 働かない  人的資本は低いまま 区間 BD の高い限界税率が問題

負の所得税 負の所得税導入以前の予算線が 点分 AB 負の所得税 – AH の最低保証所得 – 一定の所得に到達するまで給付の 削減を緩やかに行う –  予算線は折れ線 AHI – 点 G を超える労働に対しては所得 税がかかる – HG 間の労働に対しての限界税率は 低くなる 労働のインセンティヴをなるべ く残しつつ,再分配を実現 OJT を阻害しない 問題点 – 財源が巨額? – 不正受給をどう防止するか

新しい考え方 低賃金労働者の労働を促進させることが重要 – 長期的に自立させることが重要 – 就労するかしないかという選択は賃金弾力的 就労可能かどうかは外部からの観察で判別できる – 健康な成人 – 高齢者,シングルマザー 就労を条件に給付を支給した方が良い 低賃金労働者には賃金に補助をつけて積極的に就労 させた方が良い 給付付き税額控除, Earned Income Tax Credit, Working Income Tax Credit – 負の所得税の変形 – 不正受給の防止,低賃金労働者の就労支援

公的年金制度 公的年金制度の財政方式 賦課方式 (Pay as You Go system ) – 若年者の拠出が直ちに高齢者の給付にまわる – 世代間の所得移転 積立方式 (Funded system) – 若年時の拠出を積立て,高齢時の給付はそれを取 り崩して充てる – 強制貯蓄と同じ

公的年金制度による世代間再分配 賦課方式の年金制度  上図のような世代間の所得移 転 – 所得移転は 1 時点で完結しない – 若年時の拠出>高齢時の給付という関係が成立 拠出が超過する原因は制度発足時の高齢者への移転にある (詳細は後で)