電話でのコンサルテーション とりあえず、ちょっと強くなる方法
“コンサルト”が下手なのはなぜ? じつは「コンサルト」が上手くいかない一番の理由はわかっているのですが・・ それは教えないことにして 上手いかどうかはさておき、即実行できて相手に有無を言わせぬ?ためのコンサルト技術を考えてみましょう。
場面設定を使い分ける 場面によってコンサルトの仕方は大きく変わります。 細かくいえば、もっといろいろありますが・・・ 初期研修としてはつぎの2つの場面に分けてみることをお薦めします。 1)緊急事態(直ぐ来てくれー〜) 2)診療引き継ぎ(初診の引き継ぎ)
プレゼンに要する時間 どんなに長くても 〜 30 秒以内 緊急なら 〜 10 秒以内 どんなに長くても 〜 30 秒以内 緊急なら 〜 10 秒以内 漫然と話始めるのではなくて、どのくらいの時間でプレゼンするのかを常に意識して、まずはこのくらいを目安にしてみては?
電話コンサルトの要点 目的は往診してもらうことにある。 「型通りの症例提示」=(現病歴は〜、身体所見は〜、検査所見は〜)は、聞いてる相手を混乱させるだけなので行なわない。 診断名を最初に挙げ、必要最小限の所見と相手に何をして欲しいかを告げる。 詳細は自分で言うのでなく、相手に質問させる。
例題1:つぎの症例を適切な科に電話でコンサルトして下さい。 21歳男性 中肉中背。腹痛を主訴に夕方来院した。本日未明から痛みがつづいているとのことで、痛みはきりきりと締め付けられるように痛く。こんなにお腹が痛いのは生まれて初めてとのことであった。とくに本日の昼は冷や汗をかくくらいみぞおちが痛かったとのこでである。(今はみたところ凄く痛そうではない・・)午前中に3回ほど嘔吐し、3回目の吐物はコーヒー残渣様であったとのことである。朝ご飯をすこし食べた後は少量水を飲む以外何も口にしていないとのことであった。自宅でがまんしていたが痛み強いため病院にきた。現在吐き気はとまっているものの食欲は全くなくなにも食べる気がしないと本人はいっている。下痢はしていない。昨夜は廻転寿司にいったが、食べたネタはマグロ・イカ・ブリ・ウニ・エビ・タマゴ・アジ・ヒラメだそうだ。昨日の昼はコンビニ弁当を食べたが、仕事が忙しく朝買った弁当だが食べたのは2時すぎだった。季節は真夏で仕事は炎天下であった。 来院時バイタルサインは BP=120/75mmHg HR=90 RR=20 BT=37.8℃であった。理学所見は頸部リンパ節は腫れておらず、胸部は呼吸音は異常なかったが、心音では胸骨左縁第3〜4肋間で弱い駆出性の雑音を聴取した。腹部は腸雑音はやや低下しており、膨満は認めず、心窩部を押すとやや痛そうな顔をし、右のCVAの叩打痛は左に比べて痛そうであった。右下腹部に限局した強い圧痛点がありこの部を押さえると露骨に痛そうな顔をし、反跳痛を確かめると「イタッ!!」と声を挙げた。直腸診では明らかな圧痛はなかった。 既往は1歳半のときに腸重積(手術はしてない)、4歳のとき1週間咳がつづき開業医に受診し小児喘息かもしれないと言われたことがある。その後症状なし。 心電図:異常なし 血液検査: WBC 9000 Hb/Ht 14/45 Plt 25万 CRP 1.7 Na140 K 4.3 Cl 110 BUN/Cr 20/1.1 AST/ALT 44/50 Amy 120 尿検査:異常なし、腹部レントゲン:右腸骨窩に糞石あり 腹部超音波検査:小腸が一部軽度壁肥厚あり、少量腹水あり、虫垂見えず。超音波診断:Colitis CT:撮影はしたが自分ではよくわからず。
解答例(他科へ診療依頼のケース) 外科医に対して:「救急室の寺沢です。コンサルテーションを一件お願いします。21歳男性、虫垂炎が疑われる患者さんです。本日朝からの腹痛で来院しました。右下腹部に限局して強いTendernessとあきらかな Rebound tenderness があります。手術が必要と思われますので外科で担当をお願いします。」 以上で普通に話して約15秒 Rebound が今回の殺し文句であり、この虫垂炎という診断名と手術という治療方針をつなぐ鍵となっている。初級者にそれとわかる Rebound ならばおそらく誰にも自明の状態と思われるのであえて「あきらか」と殺し文句を強調する語をつけることにする。 ・こうすることで、外科医を「往診せざるを得ない状況」に追い込む?ことができる。
Point! 経過や所見や検査結果は微に際を入りプレゼンしてるくせに「虫垂炎」という診断名を自分から言い出さない場合がよくあるが、これは Bad! 殆どの場合は電話の相手は自分より年配であり、記憶力は衰えている。細かいことを並べてもあとから同じ内容を聞き返されるのがオチである。 ならば、要点だけさっさと伝えてプレゼンを終わらせてしまい、あとは質問されたら答えるという形をとった方が聞く方も答える方もはるかにスムーズである。この際、診断がついていれば診断名を先に挙げた方がよい。 コンサルテーションの際の要点は 「〜の診断だからあんたの科でとってくれ!!」という意向をしっかり伝えることである。 この際最初のプレゼンには自分の診断に不利な所見をあえて説明するのはおろかである。(このケースではほぼ間違いなく虫垂炎と診断できるので、心窩部をいたがってるのですが〜とか、CVA叩打痛があるのですが〜とか、超音波では虫垂ははっきりしないのですが〜とか、虫垂炎じゃ無いかのような説明はあえてしない方が賢明である。) 電話でのコンサルテーションの最大の目的は詳細な情報を伝えることでなく、「さっさと相手を引きずりだすことである」来させてしませばこっちのものだ!!
例題2:つぎの症例を適切な科に電話でコンサルトして下さい。 88歳男性、救急車で搬送された。発熱とのことで40℃あったと付き添いが言っている。状況を聞こうにも本人は認知症でほぼ寝たきり状態とのことであった。付き添って来たのは妻(84歳)のみで、こちらもそれなりに惚けており、「あ〜大変だ。こんなの始めてだよ。あんなにふるえて」と繰り返すばかりで状況がよくわからない。具合が悪いので本日救急車を呼んだようであるが、いつ頃からどのような症状があったのかはっきりしない。 来院時バイタルサイン:BP 100/70mmHg HR 60bpm RR35 BT 38.8℃ 胸部聴診にて両肺野に Wheezing を聴取した。心雑音ははっきりしなかった。腹部は硬く所見がとりにくかった。CVA叩打痛もはっきりしなかった。 心電図:左脚ブロック 血液検査: WBC 4000 Hb/Ht 11/34 Plt 7万 CRP 2.4 Na130 K 5 Cl 98 BUN/Cr 13/0.5 AST/ALT 31/25 Amy 120 尿検査:、WBC +++/HPF GNR++ 胸部X線:左胸郭形成あり、明らかな肺炎像指摘できず。 カルテが出てきたので既往を見てみると以下の記載があった。脳梗塞・狭心症・肺結核・肺炎・肺気腫・胃潰瘍・前立腺肥大 呼吸状態が悪そうなのでガスをとっていると、呼吸がかなり荒くなり、酸素マスク10㍑で SpO2=88%であった。体幹から下肢にかけて Mottling が出現していた。
解答例(緊急ヘルプのケース) 内科医に対して:「救急室の寺沢です。89歳男性、敗血症の患者さんですが、呼吸不全で挿管が必要と思われます。すぐに来て下さい。」 以上で普通に話して約7秒 「挿管」が殺し文句になっている。年齢は間違っているがかまわない。緊急時にはよくあること*でここに正確性を期する必要は全くない。単に” 高齢男性”でもいいが、多くの人は年齢は数字で言われた方がピンと来るようである。(*電話で話を聞いたら 70 歳台だったのに病棟にいったら 80 歳台になっており、ベッドにたどり着いたときは 92 歳になっていたこともあった。「この分だと手術場に降りるころには 100 歳超えるかもね!」などと不謹慎な感想を述べてしまった記憶がある)
Point! この症例は、初期研修医の手には余ってしまうと思われる緊急症例である。電話でゆっくり相談している場合ではない。 従ってコンサルテーションの目的は、「うだうだ言っね〜でさっさと来いや!!」というこちら意向をしっかり伝えねばならない。 そのためには・・内容は極めて簡略にし、 「〜なのですぐ来て下さい」とだけいって電話を切る。・・とか・・ 「〜はどうなの?」とか相手が電話での質問をし始めたら、話を打ち切って「先生!この患者さんは重症なので私一人では診れません。こちらに来て一緒に診ていただけますか?」のようにして・・ 自分が要求しているのは、電話での相談でなく「あんたが今ここにっくることだ」ということをしっかり告げねばならない。 そのために、相手がすぐにやって来ざるを得ない「殺し文句」を有効に使わねばならない。先の解答例では「挿管!!」という言葉をあえて告げることにより緊急性を強調している。
もうみなさまはこのようなことは無いとおもいますが・・・ ひとつ悪い例を見てみましょう
解答例その2 内科医に対して:「救急室の寺沢です。88歳男性、発熱の患者さんです。本人痴呆があって、付き添いの奥さんもお年寄りで病歴がよくわかりません。いつからの熱かもよくわかりません。白血球4000でCRP2.4です。胸部X線で左肺が白いです。心電図で左脚ブロックがあります。」 内科Dr:「発熱の患者さん?熱は何度?」 寺沢「いま計ったら38.8℃でしたが、自宅では40℃あったそうです。」 内科Dr.:「何か所見はあるの?」 寺沢「白血球4000で CRP2.4で左脚ブロックがあります。」 内科Dr.:「いやそうじゃなくて、フォーカスはあるの?」 寺沢「聴診で胸部にWheezing が聞こえます。腹部は硬いです。CVA 叩打痛はありません。」 内科Dr.:「う〜んよくわからないねえ。バイタルはどうなの?」 寺沢「バイタルは OK です」 (全然 OK ではないが血圧は低下してないの意。うしろで Ns. の声が聞こえる「先生挿管挿管!、呼吸おかしいよ!!」) 内科 Dr.「え!どーなってるの??」
まとめ 診断名、あるいは状態、よくわかっていないならいないでそのことを先に告げる。 内容は短く、細かい所見は自分で言うのであく相手に質問させる。 自分の診断に不安な要素はあえて言わない。 「殺し文句」を最低1個含ませる。 目的は相手を引きずり出すことであり、病状を詳細に伝えることではない。
電話でのコンサルトの自己評価 短時間のうちに「分かった診にいく」と相手に言わせることができたら良いプレゼン。 いつまでも質問ばかりうけていて電話の時間が長くなるのは悪いプレゼン。 「私は何をすればいいの?」などといわれてしまったら・・失格!
こうして考えてみると・・現場で「押しが強くなる」にはいくつかのテクニックがあるが、コンサルトの上手い下手は、プレゼンテーション能力の上下ではないことが分かるであろう。 要するに、 症例が如何に把握できていて(把握=診断ではない) それに対する自分の意見がまとまっているか? ということにつきるのだ。 これらを抜きに「プレゼンテーション」の細かなテクニックを学んでも意味がない。
指導医側の資質(参考) 仮に相手に不備があっても診療能力の差異を加味する必要がある。どんなに文句を言ってもいいが、必ず診に行かなくてはいけない。 電話1回につき1回の往診が原則である。そうでなくては対等の関係にならず、医者と医者が対等の関係でなければ仕事が成立しない。 立場や能力に上下があることと、医者として対等であることは別である。 「検査終わったら、また呼んで」と言ってしまったその瞬間に指導医としての資格を捨てている。