不登校児への対応 ~不登校は「治る」病態である~ 稲垣貴彦 滋賀県立精神医療センター 精神科医長 滋賀医科大学精神医学講座 客員助教 2016.8.29 大阪電気通信大学高等学校夏期教職員研修会
利益相反の開示 演者は以下の団体からの資金提供を受けている。 滋賀県(寄附講座所属) 本発表と直接関係はないが、 演者は以下の団体からの資金提供を受けている。 塩野義製薬(受託研究) JA共済(研究助成) 大塚製薬(奨学寄附) 滋賀医学国際協力会(研究助成)
自己紹介 2004年3月に滋賀医科大学医学部医学科を卒業 2004年5月千鳥橋病院(福岡) 2006年6月滋賀医科大学精神科後期研修医 元来「診断」に強い興味があり、当初は総合内科医になろうと考えていた。 2005年4月から3ヶ月の精神科研修(菊陽病院 熊本) で精神医療のおもしろさに目覚める。 「精神科診断学」に特に強い興味を持ち、滋賀医大と熊本大学で悩み、 2006年6月滋賀医科大学精神科後期研修医 その後、精神保健指定医、精神科専門医、精神科指導医と取得。 2010年10月滋賀医科大学地域精神医療学講座設立 講座運営を任される。⇒このころから思春期をターゲットにした臨床を展開 トレーニングはイギリスのモーズレー病院で定期的に受ける。 現在日本児童青年精神医学会認定医の交付待ち
自己紹介 専門:精神科診断学を中核に 治療技法として:心理教育 正しい治療が精神科医の中で普及しない実態に フラストレートされています 思春期の領域は、症候学的に「軽症」であるためにわかりづらく、一方で正しいアセス メントに成功すれば、びっくりするぐらい良くなるので、かなり腕の鳴る領域 治療技法として:心理教育 自分の治療技法の中核です。 この流れから認知行動療法にも手を出しています。 ちなみに薬物療法は精神科医を名乗るならできて当たり前なので、 敢えて「得意」とは申し上げません。 正しい治療が精神科医の中で普及しない実態に フラストレートされています その流れで社会医学的な発表をする機会が増えています。 国内の学会だけだと滅入るので、 最近は海外の学会で発表することが増えています。 WPA、IACAPAPを中心に国際比較のシンポジウムを企画しています。 一般市民が正しい精神医学的知識を持てるように、ネットテキストの翻訳に取り組ん でいます。 IACAPAP TEXT BOOK
(何かがおかしい) はじめに
文部科学省(2015)によると 平成26年度「児童生徒の問題行動など生徒指導上の諸問題に関する調査」 平成27年9月16日 文部科学省 文部科学省(2015)によると 平成26年度「児童生徒の問題行動など生徒指導上の諸問題に関する調査」 平成27年9月16日 文部科学省 平成26年度間に不登校であった小学生 約26,000人 全小学生の0.39% 平成26年度間に不登校であった中学生 約97,000人 全中学生の2.76% 平成26年度間に不登校であった高校生 約53,000人 全高校生の1.59%
文部科学省(2014)によると 「不登校に関する実態調査」~平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書~平成26年7月9日文部科学省 文部科学省(2014)によると 「不登校に関する実態調査」~平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書~平成26年7月9日文部科学省 平成18年に中学校3年生で不登校であった児童 約41,000人 そのうち既に不登校が1年を超える児童 68.4% 約28,000人 一度、欠席状態が長期化すれば、回復が困難と言うのが 文部科学省の見解
文部科学省(2015)によると 平成26年度「児童生徒の問題行動など生徒指導上の諸問題に関する調査」平成27年9月16日 文部科学省 文部科学省(2015)によると 平成26年度「児童生徒の問題行動など生徒指導上の諸問題に関する調査」平成27年9月16日 文部科学省 文部科学省は不登校の定義に「病気」による者を除く と定めている 従って これらの児童生徒は 全員医療サービスを 受けていない
滋賀県で調査をしてみました 稲垣貴彦 滋賀県における試み 精神科、28(4):332-337, 2016 滋賀県で調査をしてみました 稲垣貴彦 滋賀県における試み 精神科、28(4):332-337, 2016 滋賀県における児童思春期精神保健各機関の活動状況、および医療機関と他の相談機関の連携に関する実態調査 調査 今後の児童思春期精神保健体制の整備・発展を目的に、各方面からのニーズを把握する 目的 本調査は滋賀県からの委託事業として、 滋賀医科大学精神医学講座及び地域精神医療学講座が実施
方法:アンケートを配布し回収 稲垣貴彦 滋賀県における試み 精神科、28(4):332-337, 2016 方法:アンケートを配布し回収 稲垣貴彦 滋賀県における試み 精神科、28(4):332-337, 2016 180機関中 76機関から回答を得た 対象 学校:17 教育委員会:9 行政機関:26 公立福祉機関:20 私立福祉機関:4
結果 稲垣貴彦 滋賀県における試み 精神科、28(4):332-337, 2016 結果 稲垣貴彦 滋賀県における試み 精神科、28(4):332-337, 2016 回答機関の利用者のうち、 受診をしていない者が93% 未受診の利用者の98%に対しては受診を勧めない 78機関から回答を得た。 回答を得た相談機関の利用者数4,701人であった。 そのうち精神医療機関を受診していた者が435人 うち103人は相談機関が受診を勧めた者 既に受診しているのが7% そのうち、回答機関が受診を勧めるのはたったの2%
というわけで、もっと精神医療に紹介を といいたいところではあるが 稲垣貴彦 滋賀県における試み 精神科、28(4):332-337, 2016
なんで こんなことになってるの?
診療時間の日本と諸外国の比較 最初の診断にかける時間 稲垣貴彦ら 第34回日本精神科診断学会 診療時間の日本と諸外国の比較 最初の診断にかける時間 稲垣貴彦ら 第34回日本精神科診断学会 欧州 Mean=120, SD=42.4, Median=120 オランダ 180分 チェコ 120分 ノルウェー フランス 60分 アイルランド アジア Mean=78.8, SD=18.9 シンガポール 105分 韓国 75分 インドネシア タイ 60分 アフリカ Mean=85, SD=52.7 南アフリカ 135分 ケニヤ 30分 コンゴ・キンシャサ 90分 日本は世界と比べ、そもそも初期診断にかける時間が少ない。 世界に比べて初期診断のクオリティはおそらく低いであろう。
診療時間の日本と諸外国の比較 再診1回にかける時間 稲垣貴彦ら 第34回日本精神科診断学会 診療時間の日本と諸外国の比較 再診1回にかける時間 稲垣貴彦ら 第34回日本精神科診断学会 欧州 Mean=35, SD=9.35, Median=30 オランダ 30分 チェコ 25分 ノルウェー 45分 フランス アイルランド アジア Mean=78.8, SD=18.9 シンガポール 45分 韓国 15分 インドネシア 20分 タイ アフリカ Mean=85, SD=52.7 南アフリカ 25分 ケニヤ 10分 コンゴ・キンシャサ 120分 再診時間に関しては日本と海外で大きな差がある。 再診で診断の見直しをするのはほぼ不可能であり、 初期診断のクオリティにはこだわらないといけない。⇒あれ?
イギリスの児童・青年期精神科医療制度 ・イギリスの精神科医療は4段階体制 Tier 4:高度 専門チーム Tier 3:外来専門医療チーム Tier 2:一般精神科医 Tier 1:総合家庭医 6.3人/10万人 64人/10万人 家庭医を受診する患者の40%が精神的不調を主訴に来院する (日本では、頻度の高い睡眠障害でも自ら訴えるのは28%(2)) (2)厚生労働省HPより http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/report/higuchi16t/higuchi16t-4.pdf
ヨーロッパの各国に聞いてみました。 アイルランドも ノルウェーも フランスも オランダも チェコも 他には、ドイツも、ポルトガルも、スペインも 同じように層構造を持っていました。
日本の精神科医療制度 精神科 9.5人/10万人
先日アジアADHD学会で アジア各国の精神医療体制を比較する シンポジウムを行いました シンガポールはほとんどイギリスと同じ体制 インドネシアもほとんどイギリスと同じ体制 マレーシアもほとんどイギリスと同じ体制 精神科医が日本の1/5しかいないのに、 層構造によって精神医療全体は保たれている。
日本の現状認識として 日本の精神医療は ガラパゴス的 にひどいありさまであることを知っておいてください。
「不登校」の実態
文部科学省(2010)によると 「平成22年度 児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」 平成23年8月4日文部科学省 文部科学省(2010)によると 「平成22年度 児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」 平成23年8月4日文部科学省
文部科学省(2010)によると 「平成22年度 児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」 平成23年8月4日文部科学省 文部科学省(2010)によると 「平成22年度 児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」 平成23年8月4日文部科学省 つまり。 多くの場合 不登校は 「ある時」 始まるものである
文部科学省(2014)によると 「不登校になったきっかけと考えられる状況」 ~平成25年度児童生徒の問題行動など生徒指導上の諸問題に関する調査~ 平成26年10 月16日文部科学省 高校生最多は 無気力 実はいじめは ほとんどいない
先行研究 非常に長い観察期間の中で、 改善している患者は非常に少ない 著者(発表年) 対象 経過 診断 亀谷(2008) 非常に長い観察期間の中で、 改善している患者は非常に少ない 著者(発表年) 対象 経過 診断 亀谷(2008) 入院歴のある患者のある時点における断面調査 平均900日の経過観察後、64.8%が再登校 PDD 35.1% 神経症性障害22.7% 斎藤(2000) 病院内学級卒業生の卒業10年後の調査 社会適応しているのは73% 不安障害35% 適応障害22% 星野(2003) 通院歴のある不登校児の ある時点における断面調査 平均7年(3年ー13年8ヶ月)の経過観察の後社会適応しているのは28.6% 神経症圏の者のみを不登校と判定 土岐(2012) 通院歴のある不登校時の ある時点における断面調査 平均治療期間13.7ヶ月の後、再登校+卒業+転校37.8% 恐怖症性不安障害35.1% PDD16.2%
先行研究 「治療に難渋される病態」 と認識されている不登校であるが、 先行研究で呈示された疾患割合は、文部科学省の呈示した不登校の 原因を説明できない。 先行研究の示した診断では、 不登校の原因で最多の 「無気力」を説明できない 例:ICD-10によると 恐怖症性不安はしばしば抑うつと合併し、うつ病エピソードの併発中に更に増悪する。つまり、不登校に至るほど重篤な恐怖症性不安を有する場合、うつ病エピソードを鑑別しなくてはならない。先行研究ではされた形跡がない。
私の臨床経験 において 稲垣貴彦 滋賀県における試み 精神科、28(4):332-337, 2016 私の臨床経験 において 稲垣貴彦 滋賀県における試み 精神科、28(4):332-337, 2016
基礎解析 対象:平成24年1月から平成26年9月にかけて滋賀医科大学精神科思春期青年期外来を受診した不登校の学童生徒(18歳以下) 不登校の 患者数 120名 (男子58名 女子62名) 年齢 平均14.8歳(SD=2.16、中央値15.0) 対象年齢が10歳~24歳のため10歳未満の児童はほとんどいない 初診時GAF 平均31.3(SD=6.33、中央値32.0) 治療途中の 転医 あるいは中断 30例
診断の内訳 注:診断の定義 DSM-IV-TRの各章毎に分類(例:1章 発達障害、5章 精神病性障害) ただし6章気分障害に関してはうつ病性障害と双極性障害に細分化
不登校の原因と考えられる診断の内訳 注:診断の定義 DSM-IV-TRの各章毎に分類(例:1章 発達障害、5章 精神病性障害) ただし6章気分障害に関してはうつ病性障害と双極性障害に細分化
滋賀医科大学の現状を振り返る 不登校の患者120名のうち 発達障害の診断がされた者:15名 発達障害自体が不登校の原因と考えられた者:3名 発達障害の診断が前医でされていた患者:22名(うち当院小児科発達支援外来から7名) 当科でも発達障害の診断がされた者:10名 当科で発達障害が否定された者:12名 当科と院外で発達障害の診断が一致したのはたったの3/15 全員生育歴の聴取が不十分で、WAIS、WISCの結果だけで発達障害と言われている。 発達障害の有病率から考えると、もっと紹介されてこないとおかしい 発達障害の診断が、患者を適切な医療につなげる妨げになっている可能性
余談ですが WISCやWAISは発達障害の診断には 役に立ちません
余談ですが WISCやWAISは発達障害の診断には 役に立ちません ― 治療前 ― 治療後(30ヶ月後) 増田・稲垣ら、第54回日本児童青年精神医学会総会、2013 増田・稲垣ら、第32回日本精神科診断学会、2013
不登校離脱率 不登校離脱率 観察期間 69.5% Kaplan-Meier 法による不登校離脱率の計算
不登校離脱に影響を与える 因子の探索 Cox比例ハッザード回帰分析(ステップワイズ法) 結果 対象:120例全例 不登校離脱に影響を与える 因子の探索 Cox比例ハッザード回帰分析(ステップワイズ法) 対象:120例全例 目的変数:不登校離脱と最終診断からそれまでにかかった時間 説明変数:年齢・性別・初診時GAF・診断変更の有無・診断変更までの期間・ 最終診断 結果 有意な説明変数 β SE(β) p 相対リスク(95% 信頼区間) 初診時GAF 0.033 0.020 N.S. 1.034(0.994~1.075) 年齢、性別、診断内容は不登校の経過に有意な連関を認めなかった 単回帰分析:N.S. AIC=551.0 不登校離脱率 発達障害なし:71.3% どのような重症度であったとしても、どのような診断であったとしても、その診断に基づく適切な治療が行われれば、約70%の患者は8ヶ月以内に不登校から離脱する。 発達障害あり:64.0% 観察期間
考察1 本邦の不登校の児童に対して、 うつ病の診断が適切にされていないのではないか 当科の診断は先行研究で呈示された疾患割合と大きく異なる。 当科での疾患割合は文部科学省の呈示した不登校の原 因を説明するのに矛盾がない。 うつ病の主要症状に「興味・喜びの著しい減退」や「思考力・集中力 の減退」がある。これは文部科学省の呈示した不登校の原因のうち 「無気力」「学業不振」そして「対人関係の問題」を説明するのに十 分である。 我々は危惧する 本邦の不登校の児童に対して、 うつ病の診断が適切にされていないのではないか 児童のうつ病は、96%に寛解が期待できる(ただし46%は再発する)疾患で あり(IACAPAP 2015)、これを適切に診断し治療を適正化することは不登 校の治療において必須である。
発達障害が治療抵抗因子として 過剰評価されているのではないか 考察2 当科では20名の患者に対して発達障害と診断している。 しかし、そのうち発達障害が直接不登校の原因になっていたのはたったの 3名であった。 当科での治療経過において、発達障害を有していた患者は、 有さない患者と比較して有意差がなかった。 したがって、 発達障害は治療抵抗因子ではないと考える。 我々は危惧する。 発達障害が治療抵抗因子として 過剰評価されているのではないか
じゃぁ何が治療の失敗と関連するのか 早期介入を図り、未治療期間(DUI)を短縮することは 児童青年精神医療において、最大の課題の一つである 未治療期間(Duration of Untreated Illness; DUI)はどうか? 児童青年期では、あらゆる疾患・障害を早期に発見し、 速やかに治療導入する必要がある 疾患・障害が適切な学習の機会を奪うなど発達に大きな影響を与えるため 早期介入を図り、未治療期間(DUI)を短縮することは 児童青年精神医療において、最大の課題の一つである 多くの精神疾患で早期介入が予後を著しく改善することが示されている。 (Altamura, 2008. 2009. Bukh, 2012. など)
現時点でのDUI: 平均20.2ヶ月 (SD=19.5, 中央値12.0)
考察3 精神医療が不登校の患者を救っていない ⇒受診しても無駄だと思われている? 市民に対して精神障害に関する 適切な情報が開示されていない 1年以上も不登校の状態にありながら受診しない児童が1学年に 28,000人もいる現状について 精神医療が不登校の患者を救っていない ⇒受診しても無駄だと思われている? 精神医療が不登校患者を救っていないのは既に示した 適切な診断がなされていない可能性も指摘したとおり しかし精神医療の質だけが問題なのか? 市民に対して精神障害に関する 適切な情報が開示されていない 適切な医療介入がなされれば、8ヶ月で 約70%の児童生徒が不登校を離脱する。 治療が遅れれば治療成績が低下するのは 他の種々の疾患同様である。 Stigma to MH Hostility to MHS 治療の遅れ →治癒率の低下 間違った知識
不登校児への 具体的対応 (見立て・診断編) 不登校児への 具体的対応 (見立て・診断編)
DSM-5によると DSMは 信頼性の大幅な進歩を図る基礎となるものであったが、 従来の科学が十分に成熟していないため、 完全に証明された診断を与えるだけの すなわち個々のDSM疾患に、 一貫性があり、強固で、客観的で科学的な 妥当性を付与することができないことは、 米国精神医学会も精神疾患に取り組んでいる 多彩な科学者集団もよく認識していたことである。 DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル、2014
一般的な身体科の診断 診断仮説 所見 経過 診断 検査 治療
治療は一定の割合で失敗に終わることをあらかじめ念頭に置かねばならない 精神疾患では 診断仮説 所見 経過 暫定診断 精度の高い 検査が 存在しない 治療 治療は一定の割合で失敗に終わることをあらかじめ念頭に置かねばならない
DSM-5によると うつ病(DSM-5) 症状の発展と経過 多くの双極性障害が一つまたはそれ以上の抑うつエピソードから始まるため、当 初はうつ病と見えた人の一定数が、後に双極性障害であるとわかる。 つまりうつ病という診断は 一定の割合で双極性障害の誤診であると言うことは、DSM-5におい ており込み済みの情報である。
精神科診断の曖昧さ それが暫定診断つまり 正しいのかどうかわからない診断であるにもかかわらずである そもそも精神科診断は暫定診断にならざるを得ない 想像してみてください 若年者の受診患者全てに発達障害と診断しておけば これらは「治る」ことは今のところ期待できない疾患なので 「治らなくても」誰も文句を言わない それが暫定診断つまり 正しいのかどうかわからない診断であるにもかかわらずである
考えてみましょう 「多分あなたはどーにもならない」と言うことに 意味はあるのでしょうか? 繰り返しますが あなたは自閉スペクトラム症だから 「多分あなたはどーにもならない」と言うことに 意味はあるのでしょうか? あなたは自閉スペクトラム症だから 「多分」あなたは自閉スペクトラム症だから あなたは親に問題があるから 「多分」あなたの問題は親に問題があるせいだから あなたのは個性であって異常ではない 「多分」あなたの個性であって異常ではない 繰り返しますが 精神疾患は早く治さないとどんどんこじれます!! 「多分」が頭につく以上、治る病気を仮定しないと意味がない。
心の成長曲線を考えてみる
子どもだと成長曲線はこんな感じ
発達障害の子どもだって 精神病になる
Interruption Of Development 子どもは早く治さないとこじれる
どこで躓いているのか 朝起きる 朝食をとる 身支度する 家を出る 駅・バス停に向かう 電車・バスに乗る おりて学校に向かう 校門を くぐる 校門を くぐる 校舎に入る 教室に入る 友達と しゃべる 先生と しゃべる 授業を 受ける クラブに 出る 帰る 宿題をする
朝が起きられない 寝付きが悪い 夜に何かしている 睡眠の問題(睡眠不足) ほとんどの精神疾患で寝付きが悪くなります 寝付きが悪いから何かをしている場合があります。 布団に入ったら眠れるのかそうでないのかを確認することが大事です
朝が起きられない 厳密には起きられないのではなく、起き上がれない 全身倦怠感の問題 抑うつエピソードに特徴的な症状です 普通はそれでも我慢して起きようとするので、 それすらできないぐらいだるい結構重症な状態です。
家を出ることができない 意欲がない 出るのが怖い 家を出たくない 「無気力」に相当する症状です 「不安」に相当する症状です 抑うつエピソード、統合失調症でよく見られる症状です 出るのが怖い 「不安」に相当する症状です 抑うつエピソード、統合失調症でよく見られる症状です。 不安障害の可能性も考えます。いずれにしても、治る病気です。
学校や教室に入ることができない いじめられる・友達とうまくいかない 入ろうとすると何が起こるのかを確認する いつからいじめられ始めたのか、いつから友達とうまくいかないのか 精神疾患のほとんどが対人能力を低下させるので、 発症すると友達とうまくいかなくなりますし、いじめられやすくなります。 精神疾患であれば、治療すれば治ります。 いじめられなくなりますし、友達との関係も回復します。 恐怖感が襲ってくる。冷や汗が出て、動悸が止まらず、過呼吸になる 「不安」に該当する症状です 抑うつエピソード、統合失調症でよく見られる症状です 不安障害と可能性も考えます いずれにしても、治る病気です。
友達としゃべることができない 先生としゃべることができない の説明をする前に。
頭が回らない状態です 授業が頭に入ってこない 宿題ができない 思考制止 抑うつエピソードに特徴的な症状です 無理に動かそうとすると、 どんどん悪化します。 治療で治るので、 治るまでは休息をとるのが基本です。 多くの場合「無気力」に該当する症状です。
友達としゃべることができない 先生としゃべることができない 思考制止で実は説明がつきます。 頭が回らないので 何を話したら良いのかわからなくなる 相手の言っていることが頭に入ってこない 話をすること自体がおっくうになる 「無気力」に該当する状態になります
子どもだと成長曲線はこんな感じ
DSM-5では抑うつ障害群として 重篤気分調節症 という病名が新たに加わりました 言語的(例:激しい暴言)および/または行動的に(例:人物 や器物に対する物理的攻撃)表出される、激しい繰り返しのかん しゃく発作があり、状況やきっかけに比べて、強さまたは持続時間が 著しく逸脱している かんしゃく発作は発達の水準にそぐわない かんしゃく発作は、平均して、週に3回以上起こる かんしゃく発作の間欠期の気分は、ほとんど一日中、ほとんど毎日 にわたる、持続的な易怒性、または怒りであり、それは他者から観 察可能である。(例:両親、教師、友人) Etc.
不登校児への 具体的対応 (治療編)
日常の日本精神科医療 精神科病院・診療所
皆さんに期待する 精神科医療全体に対する役割 皆さんに期待する 精神科医療全体に対する役割 精神科病院・診療所 皆さん より広いニーズを拾いあげ、病院や診療所につなぐ →イギリスにおけるTiar 1の役割
このシステムがうまく機能しているのが 災害時精神科医療 精神科病院・診療所 DPAT より広いニーズを拾いあげ、病院や診療所につなぐ →イギリスにおけるTiar 1の役割
Interruption Of Development 子どもは早く治さないとこじれる
滋賀医大の実情に戻りますが 滋賀医科大学を受診した不登校の子どもの、発症から受診までの期間は 平均 21ヶ月 中央値 12ヶ月 半年間で病気が治ったとしても2年近くは発症から経過することになる 白血病の子どもが、1年入院して最終的に骨髄移植して、ようやく寛解 さぁなおった!と学校に行ったとして。 まともに適応できるでしょうか? リハビリテーションが絶対に必要なんです これには薬は効かない
皆さんに期待する 精神科医療全体に対する役割 皆さんに期待する 精神科医療全体に対する役割 精神科病院・診療所 皆さん より広いニーズを拾いあげ、病院や診療所につなぐ →イギリスにおけるTiar 1の役割
子どものうつ病に対する薬物療法 有効性と安全性が最も確認されているのは、フルオキセチン エスシタロプラム(レクサプロ) しかし日本では使えない エスシタロプラム(レクサプロ) 6歳から17歳対象のRCTでは無効(Wagner, 2006) 12歳から17歳対象のメタアナリシスでは有効(Bridge, 2007) 他に有効性を示す文献(Emslie, 2009 Hetrick, 2012) セルトラリン(ジェイゾロフト) 有効ではあるが、有害作用も多い(Wagner, 2003) ω3脂肪酸 (エパデール) あまり知られていないが、RCTで有効性が既に示されている(Nemets, 2006) 増強療法で、リチウムや少量の抗精神病薬の追加などは検討できる しかし、これらに関しては十分なエビデンスはまだ存在しない。
子どものうつ病に 使ってはいけない薬 三環系抗うつ薬(アナフラニール・トフラニールなど) フルボキサミン(ルボックス・デプロメール) 無効であるばかりか副作用が多く、使い物にならない(Hazell, 2013) フルボキサミン(ルボックス・デプロメール) そもそも効果に関する研究がされていない。 パロキセチン(パキシル) 無効(Hetrick, 2012) ミルタザピン(リフレックス・レメロン) 単剤では無効(Hetrick, 2012) 増強療法としての使用に関してはまだ可能性を残す。
と、薬物療法の解説をしたところでなんですが 結局そんなに薬は効きません しかも と、薬物療法の解説をしたところでなんですが 結局そんなに薬は効きません しかも Hammad et. al., Arch Gen Psychiatry. 2006;63(3):332-339
改善がなければ中等症以上と同じプロトコルへ NICE(英国)のガイドライン 軽症 4週間の 経過観察 改善がなければ中等症以上と同じプロトコルへ DSM-5における 「軽度」の定義 診断基準を満たすために必要な数以上の症状はほとんどなく 症状の強さは苦痛をもたらすが何とか対応できる程度であり 症状は社会的または職業的機能における軽度の障害をもたらす 不登校である時点で 軽症であることは ありえない
実は薬はフルオキセチン以外 ほとんど使わない NICE(英国)のガイドライン 中等症 以上 診断と 精神療法 抗うつ薬併用検討 フルオキセチン 診断の みなおし 自殺の リスクが髙ければ 入院 ECT 精神病 症状が あれば 少量の抗精神病薬併用 日本で可能なのは 認知行動療法 対人関係 療法 家族療法 どんな精神療法なのかも 指定されています 治療の主軸を担っているのは 精神療法 実は薬はフルオキセチン以外 ほとんど使わない
不登校に対する認知行動療法+α 本人を対象にする 認知行動療法 家族を対象にする 応用行動分析に基づくペアレント トレーニング 本人を対象にする 認知行動療法 家族を対象にする 応用行動分析に基づくペアレント トレーニング 学校に行きたくない子どもを 行く気にさせる 動機づけ面接
睡眠の改善に対する認知行動療法 布団に入っている時間と、実際に寝ている時間を記録につけてもらう。 睡眠日誌の作成 ①眠れないのに布団に入らないこと 布団の中では寝るだけ。ゲーム・スマホ・漫画などは布団の外で ③日中は寝ても良いから布団の外で(リビングのソファーなど) ③朝日をできるだけ長く拝むこと 睡眠衛生指導
本人を対象にする認知行動療法 行動実験 課題: 例…ひとまず学校に行ってみる 予想される困難 対策 自己評価: 点/100 実際にやってもらって、結果どうであったか、を振り返ってもらいます。 行動実験 課題: 例…ひとまず学校に行ってみる 予想される困難 対策 自己評価: 点/100 自己評価: 点/100
家族に対する応用行動分析 本人の望ましい行動の「前に」家族が何をしているかのモニタリング 本人の望まれざる行動の「後に」家族が何をしているのかモニタリング 日付 良かったこと どうしてそれが起こったのか 自己評価 点/100 日付 本人の望まれざる行動 その直後の家族の対応
認知行動療法を体系的に勉強するために CBTを学ぶ会 定期的にCBTの学習会を開催しています。 http://studygroup.cbtcenter.jp/ 定期的にCBTの学習会を開催しています。 CBTを学ぶ会主催の分だけではなく、各地の学習会を紹介していますので、是非ご覧 下さい。 CBT CASE CAMPという合宿も間もなくあります。 7月16日 認知行動療法基礎研修会 7月17日18日 CBT Case Camp(合宿) ちょっと料金が高いですが、CBTのセラピストと仲間になるにはうってつけの会です。 http://studygroup.cbtcenter.jp/camp/2016stop.php
学校に行きたくない子どもを 学校に行く気にさせる 学校に行きたくない子どもを 学校に行く気にさせる 動機づけ面接(原井宏明 方法としての動機づけ面接 岩崎学術出版社 2012) 本人を中心において変化動機を引き出し強化する方法 例えば、「学校に行きたくない」という子どもは沢山いる。 「学校に行くことが望ましい行動である」事を知らない子どもは、ほぼいない。 「学校に行きたくない」気持ちと「学校に行きたい」気持ちの 両価性(アンビバレンス)の中で複雑に揺れ動いている。 どんなに「学校に行きたくない」と強く主張する子どもでも同じである。 この「アンビバレンス」を探って明らかにし、矛盾を解消する方向に 子どもが向かうようにしていく手法。 日本動機づけ面接協会 http://www.motivationalinterview.jp/
私の今後の活動
精神医学の知識が市民の常識になるように 例えば、肺炎になって病院にかかると、抗生剤と解熱剤が処方されて、 大体1週間ぐらいで治る事は誰でも知っている。 同じように、精神的な病気になれば、どのような治療がされて、どれくらい 治るのか、市民の皆さんに知っておいて欲しい。 イギリスでは、NICEガイドラインは12歳以上の人だったら誰でも読めるように 平易な文章で記載されており、Webで公開されていて、それから逸脱する医 療は国が許容しない。もし医者がNICEのガイドラインを知らないと言ったら、そ れはすさまじい軽蔑の対象になる。 https://pathways.nice.org.uk/ IACAPAPはIACAPAP TEXT BOOKをウェブ上で公開している。英語が読 めれば誰でも無料で閲覧することができ、発展途上国の臨床教育や市民へ の啓発活動に活用されている。 http://iacapap.org/iacapap-textbook-of-child-and-adolescent- mental-health 現在私達が日本語訳に取り組んでいる。(ご協力をお願いいたします) http://com-psy.jp/iacapap/index.php
ご静聴 ありがとうございました 稲垣貴彦 kerosuke3@gmail.com http://com-psy.jp/iacapap/index.php ご静聴 ありがとうございました