調査法B (心理カウンセリング学科・カウンセリング研究コース) 第2講 2007年10月5日 担当:岡田佳子
「4.質問紙法、投影法、作業検査法の長所と短所」と書いてあるプリントは、「4.質問紙法、投影法、作業検査法の長所と短所」が書いてある面が見えないように下にしておいてください。
いくつか確認事項 コンピュータ教室を無事確保してもらえました。 予定通り、SPSSを用いた実習を行います。 班分けは興味が似ている人を参考にして私が決めることにします。 来週、「どのような内容の調査を行いたいか?」について希望を聞きますので、なんとなく・・・でよいの考えてきて下さい。 質問紙のテーマ選びは、文献検索の都合や、人数の都合により、私の方から指定するかもしれません(もちろん、班で独自に決まられればそれでよいです)
第2講 質問紙作成の流れ・ 質問紙法の特徴
今日の授業の予定 質問紙作成の流れ 質問紙の特徴 先週、私の卒論を例に出して、質問紙作成の大まかな流れをお話しましたが、今日はもっと一般的に流れについて、もう一度整理します。 質問紙の特徴 単に質問紙の特徴だけを考えるのは難しいので、他の研究法と比較しながら、その特徴を検討してみようと思います。
■質問紙法作成の流れ■
作成の一般的な流れを確認しておきましょう。 質問紙法とは 心理学における代表的な研究法。 質問紙法(心理尺度法):人間の意識や行動を測定しようとするもの。 作成の一般的な流れを確認しておきましょう。
質問紙作成の流れ
①測定対象を明確にする 質問紙がとらえようとする内容を出来るだけ的を絞って具体的にする。 中学生の「ストレス」 について、 調べてたいなぁ・・・・
②項目の候補を収集する 自分で考える 人に尋ねる(自由記述の活用) 関連文献にあたる…
③予備調査を行う 実際に一定数の調査対象者に実施し、項目について予備的な検討を行う。
④項目を決定する 反応分布の検討:ある特定の選択肢に反応が集中したり、反応の分布が極端に偏っている項目はないか? 項目分析:質問紙を構成している各項目が、調査対象者の反応を適切に弁別し得るか否かを統計的に吟味する(G-P分析など)。
⑤本調査を行う(この授業では、省略) 作成した項目群の妥当性を検討するための測度を抱き合わせて本調査を実施。 再検査法による信頼性を吟味するために、作成した項目群をもう一度実施することもある。
⑥信頼性の検討 信頼性 作成した項目群の内容的なまとまり(内的整合性)や、時間的な安定性を示す概念 (折半法、α係数、再検査法…など)
⑦妥当性の検討 妥当性 作成した項目群が、とらえたい内容をどの程度正確にとらえているかを示す概念。 (基準関連妥当性、構成概念妥当性)
⑧調査データの分析 t検定や分散分析などを行う。
⑨報告書作成 調査を実施し、データの解析を行ったら、速やかに調査・分析結果を公表することが望ましい。 ⇒報告書、研究発表 ⇒授業では、レポートという形でまとめることになる。
■質問紙法の特徴■
質問紙法の特徴 質問紙が使用される最も代表的な領域 性格テスト 性格を理解するための他の研究法と比較しながら、質問紙法の特徴を検討してみましょう。
①質問紙法(questionnaire method) ②投影法(projective technique) 性格テスト ①質問紙法(questionnaire method) ②投影法(projective technique) ③作業検査法(work limit method) の3つに大別される。以下詳しく見てみる
①質問紙法(questionnaire method) 用意された質問文に本人が自発的に回答していく方法 例)「あなたは我慢強い方ですか」 はい・いいえ・どちらでもない 代表的なもの YG(矢田部・ギルフォード性格検査)、MMPI、MAS、CPI、MPI、EPPS、向性検査、CMI、など →各質問紙の詳細は別紙の表参照
「YG性格検査」(質問紙法) 「PFスタディ」(投影法) 「内田クレペリン検査」(作業検査法) 説明が終わったら、 の実物をまわします。 どんなものか参考程度に見てみてください。
これから各手法の代表的なものについて、簡単に紹介しますが、この授業ではそれぞれの具体的な内容や実施方法、採点方法まで覚える必要はなし。イメージがつかめればよい。 手法の種類や、特徴、長所短所などについて理解できればよい。
YG性格検査 (矢田部ギルフォード性格検査) 日本でも最もポピュラーな質問紙法の性格検査。 12の性格特性をあらわす尺度について、それぞれ10の質問項目(合計120項目) 例)色々な人と知り合いになるのが楽しみである 「はい」、「いいえ」、「どちらでもない」のいずれかにチェック 主として集団で実施。自己採点が可能 適性検査としても利用(学校や入社試験など)
結果の整理と解釈 検査結果から、図のようなプロフィールを作成(特性論的) プロフィールより5つタイプにわける(類型論的)
②投影法(projective technique) あいまいな図形や文章を呈示して口頭あるいは文章で回答を求め,性格を測定・診断する方法 代表的なもの ロールシャッハ、PFスタディ、TAT、CAT、箱庭技法、SCT、描画法、バウムテスト、など →各質問紙の詳細は別紙の表参照
ロールシャッハ・テスト
実施と結果の整理 左右対称のインクのしみ図版10枚を一定の順序で提示し、何に見えるかを自由に述べさせる どのへんをみるか? ①反応領域(どの領域に反応したか。全体か?部分か?など) ②反応決定因(形か?色か?など) ③反応内容(何に見えたか。動物?人間?など) ④反応の質と反応数(平凡?独創的?など) 結果は総合的に解釈される。 実施には高度な知識とかなりの熟練を要する
その他の投影法性格検査 この授業では、紹介のみ。 1つ1つ細かく覚える必要なし。 イメージがつかめればよい。
文章完成法テスト (SCT,Sentence Completion Test) 文章の始まりをあらかじめ提示し、被検者が自由に文章を完成させる方法。 家族関係、交友関係、自己像、欲求、意欲、情緒など、幅広い領域の傾向が投影される。
PFスタディ (絵画-欲求不満検査/Picture-Frustration Study) 欲求不満場面に対してどのような反応を示すか。被検者は右の人にとってふさわしいと考える答えをふき出しに記入する 欲求不満や葛藤場面に対する反応の個人差は性格傾向の差と考え、分析。
TAT (主題統覚検査/Thematic Apperception Test) 「これから1枚1枚絵を見せますから、それについて物語を作ってください。今どうなっており、そこにいる人はなにを考えたり感じたりしているのか、これからどうなっていくのか、心に浮かんだままを、自由に話して下さい」 物語の中に被検者の願望や葛藤、対人関係のとらえかたや対人行動などが反映される。
バウムテスト(樹木画テスト) バウム=樹木(ドイツ語) 1枚のA4の画用紙と4Bの鉛筆を渡し、「実のなる木を描いてください」と依頼。 木を描くという表現を通して心の内面が描画に投影されると考える。
③作業検査法(work limit method) きわめて単純な作業を一定時間課し,作業量の推移に着目して気質,性格を測定・診断する方法 代表的なもの 内田クレペリン精神検査、視覚記名検査、BGTなど →各質問紙の詳細は別紙の表参照
内田クレペリン検査
実施と結果の整理 隣り合う数を加算してその答えの1の位の数字のみを両数字の中間に書かせる。 1分ごとに「はい、つぎ」と号令をかけ、行をかえさせる。 前期15分作業→5分休憩→後期15分作業 各行の最後の数字を赤鉛筆で結び作業経過曲線を作る(図8-2参照)
結果の解釈 作業曲線を定型と非定型に分ける どのへんをみるか? 定型曲線は前期が「U字型」後期が「右下がり」になる -ある程度作業量があるか -初頭努力があるか -作業の経過につれて、極度の興奮がなく疲労があらわれるか -休憩後の効果があるか -終末努力があるか 定型曲線は前期が「U字型」後期が「右下がり」になる 性格の中でも作業場面に反映しやすいような、速さ、テンポ、注意力、持続力などの特性の把握に有効 ⇒工場作業員や運転手の事故に関して予測的妥当性が高い ⇒採用試験など、スクリーニング用によく利用される
質問紙法、投影法、作業検査法の 長所と短所
考えてみよう 演習:質問紙法、投影法、作業検査法にはそれぞれどのような長所や短所があるでしょうか。周りの人と相談して考えてみましょう。 考えるポイント 1.誰に対しても実施可能か? 2.実施者に必要なスキルは? 3.被検査者に目的がわかるか? 4.得られた結果を客観的に分析可能か? 5.性格のどのような側面をとらえられるか? 6.要する時間は? ・・・など
例)虚構尺度:「今までに一度も嘘をついたことがない」など 質問紙法 長所 実施者の力量に左右されないで簡単にでき、短時間に多くの資料を得ることができる。 検査結果の数量的処理が容易にでき、各個人間の比較が客観的にできる。 行動観察や第三者の評定ではとらえられない内面を知る質問項目を作成できる。 短所 自己を歪曲して報告しようとする場合がある (社会的望ましさ:social desirability→虚構尺度などの工夫が必要) 例)虚構尺度:「今までに一度も嘘をついたことがない」など 質問の意図を誤解してしまう可能性。 年少者などには実施が難しい。
投影法 長所 意識の表面に現れない人格の深層まで分析することができる。 自分の反応のもつ意味がわからないので、質問紙法のように社会的望ましさによる反応、事実を曲げて反応する歪みがさけられる。 短所 結果の解釈に、検査者の判断や洞察力(主観)に依存することが多い。 検査者にかなりの経験と知識が求められる。 検査者によって解釈が異なることも多く、結果にばらつきが生じやすい。
作業検査法 長所 作業条件が明確に規定され、検査が実験的な性格をもつ。 検査の目的が被検査者にわからないので、作業が意図的に歪められることが少ない。 言葉に障害のある人に対しても使用可能 短所 測定しているものが特定の場面の意志的な性格特性に限られ、幅広い性格の側面を見ることができない