日本語を考える Introduction to Japanese Linguistics 授業の概要; 日本語を考えるとはどういうことか (2008年10月7日)
授業の概要 「音声、語彙、文法、歴史など、様々な側面から日本語という言語の特徴について考察する」 教材・教科書: 授業で使用するスライド <http://charon.isc.ibaraki.ac.jp/> 教科書: 庵功雄 『新しい日本語学入門』
成績の評価方法 期末テスト 40% 試験の 一ヶ月程度前に詳細を告知する 小テスト 30% 不定期 (1 週間前に告知) 宿題 30%
日本語を考えるとは、どういうことか 日本語とは何か? 言語とは? 言語学とは?
習得対象としての言語 なぜことばを覚える必要があるのか? 第一言語習得 (L1 acquisition), 第二言語習得 (L2 acquisition) コミュニケーションのため 思考をまとめ、発展させるため 異文化理解のため ビジネスのため 楽しみのため … 習得対象としての言語 = 道具としての言語
研究対象としての言語 (1) 言語そのものの特徴 - 言語音の産出 (音声学・音韻論) - 語の構成 (形態論) - 文の構成 (統語論) - 談話や文章 (テクスト) の構成 (語用論, 文体論, 談話研究)
研究対象としての言語 (1) - 意味の記述・意味の計算 (意味論) - 通時的変化 (歴史言語学) 一般言語学 vs. 個別言語学 対照言語学・類型論
研究対象としての言語 (1) なぜ言語の特徴を研究するのか? 実用的な理由: 言語 (外国語) 教育, 機械翻訳, 情報機器のインターフェース開発, … 言語の仕組み (普遍的性質) を理解することは、人間の認知システムの仕組みを理解することにつながる
一般言語学の主要な概念 形式と内容 (form and content) 表現 (sign, expression) には形式 (指すもの, signifiant) と内容 (指されるもの, siginifié) がある。 形式: 聴覚的特徴 (など) 内容:意味 (指示対象?, 概念?) 「イチロー」の意味は? 「犬」? 「赤い」? 「すべての」? 「せっかく」? 「イチローがヒットを打った」? 「イチローはヒットを打った」?
一般言語学の主要な概念 恣意性・社会性 有契性 犬を「イヌ」と呼ぶことに理由はない。 (恣意性) かといって犬を「ネコ」と呼ぶことはできない。 (社会性) ミズとユ、イヌとタヌキを (言葉の上で) 区別することに必然性はない。 (恣意性) かといって、「熱イミズ」といったらおかしい。 (社会性) 有契性 オノマトペ (擬音語・擬態語) 「ワンワン」, “bow-wow” 共感覚的音象徴 “chip” vs. “chop”, 「ながーい話」, 「何度も何度も何度も繰り返す」
一般言語学の主要な概念 共時言語学と通時言語学 ラングとパロール 共時言語学: ある特定の時代の特定の言語の研究 通時言語学: 言語、または言語のグループの歴史的研究 19世紀後半には、通時言語学 (の一種である比較言語学) が主流だった ラングとパロール ラング (langue): 抽象的な知識としての言語 パロール (parole): ラングが具体的に発現したもの 音声学と音韻論の違いは、パロールとラングの違いにほぼ対応する。 「三」: /saɴ/ [saɴ] 「三男」: /saɴnaɴ/ [sannaɴ] 「三枚」: /saɴmai/ [sammai] 「三回」: /saɴkai/ [saŋkai]
一般言語学の主要な概念 二重分節 (double articulation) きれいな赤い屋根の家 [[きれいな赤い屋根の] 家] 形式は、より細かい単位に分けることができる 文 (sentence)、句 (phrase)、語 (word) … 私はきのうコメディ映画を見た。 [wataʃiwa] [kino:] [komedi:e:gao] [mita] [wataʃi] [wa] [kino:] [komedi:] [e:ga] [o] [mi] [ta] 意味を持つ最小単位を形態素 (morpheme) という 意味を持つ単位を総称して表現 (expression) といういう きれいな赤い屋根の家 [[きれいな赤い屋根の] 家] [きれいな [赤い屋根の] 家]
一般言語学の主要な概念 二重分節 (続き) 音節 (syllable)、モーラ (mora)、音 (phone) kino: 形態素 (意味を持つ最小単位) は、さらに細かい単位に分けることができる。 音節 (syllable)、モーラ (mora)、音 (phone) kino: ki | no: ki | no | : ただし、厳密には「内容に基づく分節」と、「形式に基づく分節」は、 連続ではなく、平行の関係にある。 音節より大きい形式の単位がある イントネーション句、アクセント句、音節、モーラ、音 {わたしは} {きのう} {コメディ映画を} {見た}
言語 (文法) の生得性 “nature or nurture”; 生得的なものか、学習 (模倣) によって習得されたものか 現代言語学における、重要な争点
研究対象としての言語 (2) 言語と、社会・文化との関わり 社会言語学 地理言語学/方言学 言語人類学
研究対象としての言語 (2) なぜ、言語と、社会・文化との関わりを研究するのか? 言語政策 (公用語制定など) 危機言語 (危機文化) の保護、教育、記録 異文化コミュニケーション etc.
研究対象としての言語 (3) 言語と、その他の認知活動との関わり 心理言語学 神経言語学 言語習得研究 応用言語学
研究対象としての言語 (3) なぜ、言語とその他の認知活動との関わりを研究するのか? 言語障害の治療, 効果的な言語 (外国語) 教育, 効果的な言語使用の技術 (広告、交渉、説得) etc.
研究対象としての言語 (まとめ) 他にも … 言語哲学 (意味論と関連) 数理言語学 (統語論・意味論と関連) 計算言語学 …
研究対象としての言語 (まとめ) 個別言語の特徴、言語一般の特徴 言語と、社会・文化との関わり 言語と、その他の認知活動との関わり → 特定の言語 (日本語やその方言) は、様々な方向から研究することができる。