日語誤用分析 (大学院) 3月14日(月・一)~ 担当 神作晋一
第3章 学習者の母語は第二言語習得にどう影響するか 第3章 学習者の母語は第二言語習得にどう影響するか 1.母語は悪者か 2.母語の転移 3.転移は母語からのものだけではない 4.母語の転移はいつ起きるか 5.母語転移が起きやすい領域 6.典型性の影響 7.習熟レベルによる違い 8.学習者要因の影響
第3章 学習者の母語は第二言語習得にどう影響するか 第3章 学習者の母語は第二言語習得にどう影響するか 「日本人英語」「日本人によくある間違い」 母語の発想による不都合 英語で、英語の発想で 学習者の母語の影響と第二言語習得
1.母語は悪者か 学習者独自のルール(思い込み)
1.母語は悪者か 対照分析やALの時代 母語に関する考え方の変化 母語と目標言語の違いを分析し、習得困難点を予測。 「母語は習慣を邪魔する悪者」 しかし、母語によるものだけではないことがわかる。 母語に関する考え方の変化
1.母語は悪者か 母語知識による外国語学習の効率化 言語を使うこと自体を母語で学ぶ 文法や語彙の要素の使い方 日本語「大きいリンゴ」「このリンゴは大きい」 英語「a big apple」「This apple is big」 中文「大的蘋果」「這蘋果是大的」 フランス語は応用(形容詞の位置が違うだけ) 形容詞の仲間の判別もできる
1.母語は悪者か 母語知識による外国語学習の効率化 ①これおいしい、このリンゴはおいしい。(叙述用法) ②大きいリンゴ、青いリンゴ(限定用法) 子供は①⇒②の順で習得
2.母語の転移
2.母語の転移 転移:何かで身につけた能力が、他のことに利用されたり、影響したりすること。 正の転移:学習者の母語によって習得が促進される場合⇒母語での表し方の相似 韓国語:助詞の使い分けが似ている 中国語:漢字の語彙が似ている 言語間の距離が近い場合、正の転移が起こりやすい。 英語の場合、スペイン語やドイツ語など
2.母語の転移 負の転移:学習者の母語知識を使うことがマイナス(ー)に作用する場合。⇒母語での表し方の相違 母語の干渉、 英語:~marry him、get married to him、×marry with、 日本語:○「彼と結婚する」:×「彼に/を結婚する」 中国語: 母語の干渉、
3.転移は母語からのものだけではない
3.転移は母語からのものだけではない 母語からだけではない。 例:英語を学んだあとのフランス語 例:条件法と仮定法 広東語:日本語と同じ語順もあるが、英語のように並べてしまう。 いろいろな言語からの転移がある
英語系 フランス語系 訳(日) end finish 終了 wish desire 願い・意志 town city 市街地 luck fortune 幸運 buy purchase 買う・購買 work labour 労働 folk people 人々・人民 begin commence 開始・ woman female 女・女性 house mansion 家 pig pork 豚
4.母語の転移はいつ起きるか
4.母語の転移はいつ起きるか 言語間の距離: 必ずしも近さ(距離)とは限らない 近い⇒正の転移 遠い⇒負の転移 近い⇒正の転移 遠い⇒負の転移 必ずしも近さ(距離)とは限らない 母語と同じような使い方にしてしまうと負の転移になる。 例:二字熟語等の例 心理的なもの:自身が近いと思うと転移が起こりやすい。⇒同じだと思えば、積極的に母語知識を使用。
4.母語の転移はいつ起きるか 母語と目標言語を見るだけでは不十分。 それでも、やはり母語と目標言語を見ることも必要。 ⇒第1章を参照 母語にかかわらない部分 母語や環境や個人差によるもの ⇒両方必要。
4.母語の転移はいつ起きるか ある現象が母語の影響であるかどうかは、他の言語を母語に持つ学習者を見ないとわからない。 ⇒他の母語(国)の学習者と比べないと、本当のところは分からない。 例:アスペクト(結果状態)
2.「対照分析]から「誤用分析]へ ■誤用の分類←第1章 2.「対照分析]から「誤用分析]へ ■誤用の分類←第1章 分類の難しさ 例:「赤いの本」「昨日買ったの本」 「言語内の誤り」の側面 幼児の習得過程やどの学習者にも見られる。 「言語間の誤り」の側面 中国語母語話者の特徴「例:我的書、我看的書」 上級の話者になっても残る。 原因が一つに決められない。
4.母語の転移はいつ起きるか ある現象が母語の影響であるかどうかは、他の言語を母語に持つ学習者を見ないとわからない。 ⇒他の母語(国)の学習者と比べないと、本当のところは分からない。 例:アスペクト(結果状態)
5.母語転移が起きやすい領域
5.母語転移が起きやすい領域 言語転移:多くの要因の一つ どんなとき、どんな条件で 外国語学習の諸相 文法、語彙、発音、会話の進め方 影響少ない:文法 影響強い:発音、語の意味、談話面 Cf.方言 発音・アクセント>語彙>文法・談話
発音 母語の影響が大きい 生まれた瞬間は特定の母語話者ではない 日本人の英語:lとr、thが苦手 韓国人の日本語:「ゼ」が「ジェ」 election(選挙)とerection(⇒辞書を参照) 韓国人の日本語:「ゼ」が「ジェ」 中国語母語話者:「か」と「が」※語末の「か」 生まれた瞬間は特定の母語話者ではない 赤ちゃんの時点ではrとlを聞き分ける 聞き取れなくなる×⇒効率よく聞くようになる 口や舌の筋肉もそれに慣れている
語彙の意味 母語と目標言語の対応物が見つけやすい所 語彙:1対1の対応関係が作られやすい 「昨日は病気でした」 病気(日本語) Sick(英語:気分が悪い、風邪気味)も含む 「不舒服」と「感冒」 ※日本語「感冒薬」 「漢方薬」 生病
語彙の意味 母語と目標言語の対応物が見つけやすい所 語彙:1対1の対応関係が作られやすい 「昨日研究室で働きました。」 働く(日本語)※仕事 work(英語:勉強、練習も含む) 「練習」と「學習」と「読書」
語彙の意味 日 日 B A 中 中 漢字圏の学習者の語彙学習 「漢字の言葉だから難しくない?」 A:「愛人」「熟女」 B:「AV女優」 ※意味範囲 日 中 B 日 中 A
語彙の意味 漢字圏の学習者の語彙学習 母語知識を活用しながら、違う部分を意識し(させ)ながら学習・習得させる。 「漢字の言葉だから難しくない?」 ※意味の相違や範囲がちがうものは負の転移 母語知識を活用しながら、違う部分を意識し(させ)ながら学習・習得させる。
語彙の意味 ポリフェノール polyphenol 語彙の修正の機会⇒フィードバック 限られた時間で教えるのは難しい。 辞書は万能ではない。 学習者がそれぞれ結びつけている意味を修正 フィードバックfeedback 第7章で よく起こる、慣れた転移でも、リアクションを大事に 「えっ?どうしたんですか?」
■談話領域 「談話」:複数の文が集まった意味のまとまり・結束性 日本語:背景理由や説明⇒結論 英語:結論⇒理由 ⇒転移しやすい
■談話領域 依頼、謝罪、誘い、褒めなど⇒文化圏での相違 語用論的転移 例:謝罪で理由だけを述べる 例:文末まで言わない 例:理由をはっきり言う 語用論的転移 社会的なコンテキストの中で、その時の状況や聞き手などを考慮。※文法が正しくても不適切なことあり ⇒母語での適切さをもとに外国語を使うために起こる転移 ※例:言い訳が先に立つ
■談話領域 「先生、私に例文を作ってほしいですか」? Do you want me to~ 勧誘表現「私たちは今日飲みに行きます。先生も行きたいですか」? 「~てほしい/~たい」want someone to、want to~ 中文:
6.典型性の影響
6.典型性の影響 言語転移の「ある」ときと「ない」とき 「使える」と「使えない」の判断 例:「あげる」と影響 give influence(英) 影響をあげる(×)
6.典型性の影響 典型性:基本的な使い方 基本的な時は使え、基本的ではないときは使えないと判断 例:オランダ人の判断: オランダ語「breken」-英語「break」 ○:He broke his leg.(足を折った) ×:The man broke his oath.(誓いを破った) ×:She broke the world record.(世界記録を破った) ×⇒オランダ語「breken」はすべて言えるのに、英語では言えないと判断。
6.典型性の影響 個人差もある 目標言語での言いかたが分からないと母語の表現や形式に頼る。
7.習熟レベルによる違い
7.習熟レベルによる違い 母語転移⇒初級ほどが起こりやすい 心理的距離の関係 言語知識の不足、母語しか頼れない だんだんとこれまで得た目標言語の知識を使用するようになる。 心理的距離の関係 学習レベルが上がるにつれて、かえって距離が広がっていくことも。
8.学習者要因の影響
8.学習者要因の影響 母語転移⇒スタイルや性格など、個人差要因の影響もある 個人差による転移のかかわり(研究は少ない) 個人の主観的な判断 年齢や学習動機、リテラシー(読み書き)のレベルによる差がある。 個人差による転移のかかわり(研究は少ない) 母語と対応させようとする(直訳に頼る)、言語間の距離が遠い⇒負の転移になりやすい 「距離が遠いものは直訳に頼りすぎない」⇒転移を減らして、習得を成功させる。
8.学習者要因の影響 転移により学習者がすることは正でも負でも同じ。 母語を利用しない、ではない。 どこまでが利用できて、どれができないかを知る 活用できるところは母語知識を利用する 教師もそれを知ることが必要
まとめ 1.学習者は母語知識を利用して外国語を学ぶ。 2.転移には「正の」と「負の」がある。 3.母語の転移は、発音、語の意味、談話面で特に強く現れる。