日本語複合動詞の習得研究 ―使用実態の調査を中心に

Slides:



Advertisements
Similar presentations
会 場: 九州大学 箱崎キャンパス( JR 博多駅 or 福岡空港より 3.5km ) 参加費: 3,000 円 (予稿集およびジャーナル代を含む) 2007 年 12 月 15 日(土) ● パネルディスカッション 13:00 ~ 16:45 「第二言語習得研究と教材作り」 小林典子 氏 小山 悟.
Advertisements

インドネシアの高等教育における 日本語教育の現状と問題 Wawan Danasasmita インドネシア教育大学( UPI )
日本語教授法 & 日本語教育とは  外国語としての日本語、 第二言語としての日本語 についての教育の総称である。
日本語 WWW 情報を用いた COCET3300 英単語学習支援に関する研究 情報・知能工学専攻 博士前期課程2年 渡邉 雄大 指導教員 河合 和久.
大規模コーパスから獲得した 名詞の出現パターンを用いた 事態名詞の項構造解析
日語課程設計與研究 (大学院) 2月15日(水・三)~  担当 神作晋一.
言語教育研究における ダイアリー・スタディー
最大エントロピーモデルに基づく形態素解析と辞書による影響
言語教育論演習プレゼン課題 A11LA042 鴨井みのり
バイリンガルの光と影 内モンゴルにおける言語問題
英語学習についての信念 ―現職教員研修のための基礎研究
日本の高校における英語の授業は 英語で行うのがベストか? 日本語の介在の意義
第42回日本語教育学講座講演会 認知言語学からみた言語獲得 講師:谷口一美先生(京都大学大学院准教授) 入場無料
レポートの作成 効果的な発表の仕方.
日本語教育における 発音指導の到達目標を考える
神戸大学大学院国際文化学研究科 外国語教育論講座外国語教育コンテンツ論コース 神戸 花子
フィールドスタディ後の 教育と報告書作成 東洋大学 国際地域学部 子島進 秋谷公博.
明示的知識とコミュニケーション能力: 文法指導の意義と位置づけに関する提案
日本の高校における英語の授業は英語でがベストか?
部分形態素解析を用いた コーパスの品詞体系変換
日本の高校における英語の授業を 英語で行うべきか
既存システムを連携させることによるeラーニング ― MoodleとXoopsのアカウント情報を交換するモジュール ―
卒業論文 お菓子の役割と シニア向けお菓子の提案
二者会話場面における指示詞(コソア)の選択
<研修資料>研修後の具体的な取組の事例紹介 <クラスの実態に合わせて個々の学級担任が取り組んだ例>
日本語教育は 多言語化した日本語を教えられるのか
日本語教育グローバルネットワーク J-GAP
論文名 海外で活動する日本人日本語教師に望まれる資質 -グラウンデッド・セォリーによる分析から- 著者 平畑 奈美 書誌情報
『談話研究と日本語教育の有機的統合のための
知性の一般認識と 認知心理学における定義の相違
アンケートの対象設定・実施・データの分析について
「教育工学をはじめよう」  第2章     学会発表に向けて     プロポーザルを書く 発表 菊池 陵  皂 智樹.
自動車レビューにおける検索と分析 H208032 松岡 智也 H208060 中西 潤 H208082 松井泰介.
図書館と 情報スキルアップ教育 ―情報検索講習会報告と今後の展望―.
細川 英雄 (言語文化教育研究所・代表/早稲田大学名誉教授)
日本語教育グローバルネットワーク(GN) J-GAPシンポジウム 2014 (香港-日本プロジェクト)
日本語教育グローバルネットワーク J-GAPシンポジウム2014 (香港ー日本プロジェクト) 『日本語教育の連関に関する 実態調査』結果報告
专题论坛2:如何提升教学科研立项与学术写作的能力 日本語習得研究のための プロジェクト設計と実践
神戸大学大学院法学研究科 博士課程後期課程
複言語・複文化状況における日本語教育 -ことばの教室で私たちがめざすもの
第二言語獲得過程に見られる動詞島構文をめぐる一考察
動詞の共起パターンを用いた 動作性名詞の述語項構造解析
2016年上海師範大学・名古屋大学言語文化学術交流会 日本語の格助詞「を」と「から」の選択
第34回応用言語学講座公開講演会 講師:金水 敏先生(大阪大学大学院教授) 直示とは何か:日本語を例に、その体系と歴史について
この項は 『日本語構造伝達文法(05版)』 の第30章,第31章の内容に基づいています。より詳しくはその章をお読みください。
卒論の書き方: 参考文献について 2017年9月27日 小尻智子.
『談話研究と日本語教育の有機的統合のための
特別企画:「水谷修先生等を偲ぶ」 「水谷修先生・土岐哲先生・平井勝利先生と日本言語文化専攻」
基礎科学としての海外日本語教育学確立に向けて
形態素解析ドライバモデルの実装と コーパスの品詞体系変換への応用
韓国の日本語学習者と 日本の韓国語学習者間における 協働型学習モデルの構築
「日本語教育 プログラム論」の提案 札野 寛子 (金沢工業大学) 2017年度日本語教育学会春季大会パネルセッション6(早稲田大学)
「多重文法」:話し言葉と書き言葉の文法を超えて 交通案内:地下鉄名城線「名古屋大学駅」①番出口徒歩5分
日本の高校における英語の授業は英語でがベストか?
日本語の関係節の処理に有生性が及ぼす影響―セルフペーストリーディング実験による日本語母語話者と中国語母語話者との比較を通して―
NetMeeting ~ドイツ語授業形態としての提案
研究の軌跡と今後の展望 外国語学習の科学:SLA研究の過去・現在・未来 ―30年を振り返り、これからの研究を考える― 第20回
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
2015 The 10th International Symposium on Oral Proficiency Interview
構造的類似性を持つ半構造化文書における頻度分析
教育情報共有化促進モデル事業報告 中学校数学 平成16年1月31日 岐阜県 学習システム研究会「楽しく学ぶ数学部会」
明示的文法知識が 正確な言語使用に結びつかないケース 浦野 研(北海学園大学)
大規模コーパスに基づく同義語・多義語処理
呂 雷寧 RO, Rainei (上海財経大学 外語学院・ 常勤講師)
韓国人日本語学習者による多義動詞の習得における母語の影響 ―典型性と転移可能性の観点から―
話し言葉における「け(れ)ど(も)」の使用 ―「が」との比較を通じて― 1.研究目的及び研究方法 ◆研究目的
Elements of Style 第3回 2019年6月11日(火).
Presentation transcript:

日本語複合動詞の習得研究 ―使用実態の調査を中心に D3中間報告会(2007年9月29日) コミュニケーション専攻 後期課程三年 陳 曦

本発表の流れ 本研究の対象と目的 先行研究とその課題 本研究の課題と方法 論文全体の構成 各章の概要と進捗状況 現在完成している部分の概要 これからの執筆計画

1.本研究の対象と目的 対象 1)「動詞連用形+動詞」 2)日本語を第二言語として学ぶ学習者 目的 1)学習者の使用実態の解明 2)教師側の教授意識の調査 3)教科書の扱いの考察 4)教育に即した意味提示法の探索 5)習得支援、指導法の提案

2.先行研究とその課題 複合動詞習得の先行研究 1)寺田(2001) 2)松田(2002a,2002b,2004) 1)使用実態の調査 2)教育現場での扱われ方の調査 3)教育に即した意味研究 4)習得支援、指導法に関する研究

3.本研究の課題と方法 使用実態の解明 教授意識の調査 教科書での扱い 課題1 コーパス 課題5 習得支援 意味研究 指導法の 課題4 探索 課題2 認知意味論 コーパス アンケート 教授意識の調査 課題3 教材分析 教科書での扱い

4.論文の構成と進捗状況 <第一章> 先行研究と本研究の課題 <第四章> 教科書の扱われ方 の調査 <第二章> 学習者の複合動詞 使用実態 <第一章> 先行研究と本研究の課題 <第四章>  教科書の扱われ方 の調査 <第二章>  学習者の複合動詞 使用実態 <第三章>  教師側の教授 意識調査 <第五章>  意味提示法の事例研究 <第六章>  意味提示法の教育への応用 <第七章> 習得支援、指導法の提案

5.現在完成している部分 話し言葉における使用状況の量的分析 書き言葉における使用状況の量的分析 教科書における取り扱い 意味提示の事例研究及び教育への応用

5.1(第二章 2.1)話し言葉における使用状況の量的分析―その1 5.1(第二章 2.1)話し言葉における使用状況の量的分析―その1 目的: 1)話し言葉における学習者の使用状況の解明 2)習得研究におけるコーパス利用の実証と考察 方法: 学習者コーパスと母語話者コーパスの量的比較 分析視点: 全体使用、後項動詞別、前項動詞別、レベル別、母語別

5.1 (第二章 2.1)話し言葉における使用状況の量的分析―その2 5.1 (第二章 2.1)話し言葉における使用状況の量的分析―その2 データの概要  学習者コーパス⇒KYコーパス  母語話者コーパス⇒上村コーパス 処理手順  データの整形  『茶筌』で品詞情報を付与  複合動詞の抽出

5.1 (第二章 2.1)話し言葉における使用状況の量的分析―その3 5.1 (第二章 2.1)話し言葉における使用状況の量的分析―その3 結果 1)学習者全体で使用頻度も種類も少なく,特に「差し上げる」,「申し上げる」など敬語を表す用法が少ないこと。 2)使用頻度上位の複合動詞は多くが共通する一方,学習者は「~あう」,「~だす」の使用は多いが,「~はじめる」,「~つづける」などのアスペクトを表すものの使用は少ない。 3)学習者の熟達度や学習者の母語の違いによっても使用頻度と種類について有意な差がある。 4)現状のコーパスには表記のゆれ,属性情報の精緻化,誤用情報の付加などに課題が残っている。

5.2 (第二章 2.2)書き言葉における使用状況の量的分析―その1 5.2 (第二章 2.2)書き言葉における使用状況の量的分析―その1 目的:  書き言葉における学習者の使用状況の解明 方法:  学習者と母語話者による日本語作文の量的比較 分析視点:  全体使用、後項動詞別、前項動詞別、母語別

5.2 (第二章 2.2)書き言葉における使用状況の量的分析―その2 5.2 (第二章 2.2)書き言葉における使用状況の量的分析―その2 データの概要  国研の『日本語学習者による作文と、その母語訳との対訳データベース』 処理手順  データの整形  『茶筌』で品詞情報を付与  複合動詞の抽出

5.2 (第二章 2.2)書き言葉における使用状況の量的分析―その3 5.2 (第二章 2.2)書き言葉における使用状況の量的分析―その3 結果 1)学習者全体で使用頻度も種類も少ない。 2)共通する後項動詞を使用する。学習者の自他動詞の使い分けについての誤用が多い。 3)前項動詞は母語話者と大きな相違がない。 4)学習者の母語の違いによる使用頻度と種類について有意な差がない。

5.3(第四章)教科書における複合動詞の扱い―その1 目的 1)教科書での扱いの実態と問題点の解明 2)実態調査の結果と比較し、指導する際の留意点を考察 課題 1)教科書で扱うべき複合動詞項目は何か 2)教科書の扱いの現状と問題点は何か 3)教科書でどう指導すべきか

5.3 (第四章)教科書における複合動詞の扱い―その2 調査対象  総合中級教科書4種に現れた複合動詞と関連する記述 調査方法 1)複合動詞を抽出し、全体使用頻度、後項動詞別、前項動詞別に集計。 2)話し言葉使用実態調査の結果と比較

5.3 (第四章)教科書における複合動詞の扱い―その3 視点 「学習者」を「母語話者」 へ移行させることは教科書 のあるべき姿 方法 使用実態の調査結果と比較 A~Gのグループごとに分析 B 母語話者 E D 教科書 G 学習者 A C F

5.3 (第四章)教科書における複合動詞の扱い―その4 調査結果 1)学習項目としての扱いは足りない。 2)教科書の扱いは母語話者の使用実態とずれがある。 3)結合条件、意味構造、本動詞との関連、類義語との使い分けなどが説明不足

5.3 (第四章)教科書における複合動詞の扱い―その5 日本語教育への提言(複合動詞指導) 1)母語話者の使用実態に合わせた複合動詞項 目を指導すること。 2)結合ルールの説明、本動詞との関連性、 類 義語との使い分け、自他動詞、名詞化に触れる。 3)「形式」、「意味」、「用法」の三つの面から 指導すること。

5.4(第五章)「~出す」を事例とした意味研究―その1 目的  認知意味論に基づいた多義複合動詞の意味提示と指導法について考察 方法  『中日新聞』(1999~2003)により抽出した実例をもとに、「出す」と「~出す」の例文、名詞との共起を分析し、ネットワーク構造、プロトタイプ的語義、イメージ・スキーマを提示。

5.4 (第五章) 「~出す」を事例とした意味研究―その2 ネットワーク構造(詳細省略)  「内から外への移動」⇒「移動・命令」⇒「発生」⇒「開始」 プロトタイプ 1)「内から外への移動」 2)「発生・開始」 イメージ・スキーマ(詳細省略)

5.4 (第五章) 「~出す」を事例とした意味研究―その3 日本語教育への提言(多義語指導) 1)多義語のプロトタイプ的意味から導入 2)多義語の持つイメージを絵や図式で提示 3)多義語の複数の異なる意味をネットワーク図で提示

6.これからの執筆計画 これからの課題 1)使用実態の質的分析 2)教師側の教授意識調査の分析 3)意味構造とその提示法の再考 4)習得支援と指導法の提案 執筆計画 1)11月上旬第一稿完成 2)12月20日までに論文提出

7.研究業績―公刊された論文と学会発表 1)陳曦(2004)「中国人学習者における複合動詞の習得に関する一考察―「~あう」と「~こむ」の理解に基づいて―」『ことばの科学』第17号 pp59-80 2)陳曦(2006)「中国人学習者における複合動詞の習得に関する一考察――学習者の作文産出に基づいて」『ククロス:国際コミュニケーション論集』第3号 pp1~15 3)陳曦(2007a)「日本語複合動詞の習得状況と指導への問題提起―中国西安外国語大学における「~あう」「~こむ」の調査を中心に」『国際開発研究フォーラム』第35号 pp93~102 4)陳曦(2007b)「学習者と母語話者における日本語複合動詞の使用状況の比較――コーパスによるアプローチ」『日本語科学』第22号(印刷中) 5)陳曦(2007)「話し言葉コーパスにおける複合動詞使用状況の調査」日本語教育学会研究集会第三回予稿集

7.研究業績―投稿中論文 1)陳曦(2007)「認知意味論に基づいた多義語の意味構造と日本語教育への応用」『世界の日本語教育』第18号 2)陳曦(2007)「日本語複合動詞指導に関する一考察――日本語中級教科書と日本語の使用実態の調査をもとに」『日本語教育論集』第24号 3)陳曦(2007)「作文データベースを用いた学習者と母語話者における日本語複合動詞使用状況の比較」『小出記念日本語教育研究会論文集』第16号

参考文献 寺田裕子(2001)「日本語の二類の複合動詞の習得」『日本語教育』109,20-29 松田文子(2002a)「複合動詞研究の概観とその展望―日本語教育の視点からの考察―」『言語文化と日本語教育5月特集号 第二言語習得・教育の最前線―あすの日本語教育への道しるべ』,170-184 松田文子(2002b)「日本語学習者による『~こむ』の習得」『世界の日本語教育』12,43-59 松田文子(2004)『日本語複合動詞の習得研究―認知意味論による意味分析を通じて』 ひつじ書房