5章 物質の三態(気体・液体・固体)と気体の法則 2回 まず、復習 初回では、以下を紹介した ●化学熱力学 ●三態(気体、液体、固体) ●外界と系(孤立系、閉じた系、開いた系) ●熱化学反応(発熱反応、吸熱反応) 今回は 熱力学第一法則 エンタルピー
三態、相、相転移 ●気体、液体、固体(物質の三態) ●相(phase):物質の内部すべては、同一の物理的・化学的性質を持つ。気相(gas phase)、液相(liquid phase)、固相(solid phase)がある。 ●蒸発(凝縮)は気相液相、融解(凝固)は固相―液相、昇華(凝縮)は気相―固相間での変化(相転移)である。 ●固体:原子、分子、イオンは定まった位置を中心に振動、回転している。温度上昇に伴い、これらの構成粒子の熱運動は激しくなる。 ●液体:粒子の位置が定まらないが、粒子間の引力相互作用は熱運動に勝っている ●気体:熱運動が勝ると気体に変化し、容器全体に広がる 図5.1 固体 液体 気体
外界、 孤立系、 閉じた系、 開いた系 ●外界と系:化学反応では、反応が行われる空間を系(system)、系の外側の空間を外界(surrounding)と区別する。この方法は、何も化学反応に限らない。例えば、宇宙の中の地球を系としそれ以外の空間を外界として何らかのテーマを議論することも可能である。 ●孤立系:外界は、とてつもなく大きく包容力に富み、系が出す熱も、系の膨張も何ら外界の温度、圧に影響を与えないものとする。もし、物質もエネルギーも系と外界の間でやりとりがないなら、その系は孤立系(isolated system)という。 図5.2 孤立系、閉じた系、開いた系、 は物質 閉じた系 エネルギー エネル ギー 外界 開いた系 エネルギー エネル ギー 外界 外界 孤立系
●閉じた系:外界の間で物質のやりとりはないが、エネルギーのやりとるが系を閉じた系(closed system)という。この系での化学反応での発熱、吸熱などは系の温度、圧力を変化させない。 化学で勉強するのは、この系。 系に出入りするエネルギーは熱(heat)+仕事(work) 熱化学方程式: 化学量論数にしたがって、反応物、生成物、エネルギーを記す ●開いた系:エネルギーのやりとりのみならず物質のやりとりも外界と行う系を開いた系(open system)という。外界も系の中に含め、(閉じた系+外界)や(開いた系+外界)を新たな系と考えると、これらは孤立系である。
5-1-3)熱化学反応、平衡状態、状態量 ●粒子間の引力の形で蓄えられているエネルギーが、化学反応(化学結合の切断、生成)により熱(反応熱 heat of reaction)として放出(発熱反応 exothermic reaction)又は吸収(吸熱反応 endothermic reaction)される。25℃、1 atm(現在は100 kPa)での反応熱が熱化学方程式に用いられ、化合物1molが同一の温度、圧での成分から生じるときの反応熱を生成熱(heat of formation、発熱or吸熱)という。 H2 (g) + ½ O2 (g) = H2O (l) + 285.8 kJ H2 (g) + ½ O2 (g) = H2O (g) + 241.8 kJ ●熱化学方程式は、数学における方程式と同様に左辺、右辺への項の移動、等式の足し算、引き算が可能である。従って、水の蒸発は吸熱反応で、蒸発熱(heat of vaporization、吸熱)は44.0 kJである。 H2O (l) = H2O (g) – 44.0 kJ ●熱量の単位 J(ジュール) 1N(ニュートン)の力で物質を1m移動させるに必要なエネルギー 1 J = 1 N・m = 1 kg ・m2 ・s-2 1 cal = 4.184 J ●熱:燃焼熱(発熱)、中和熱(酸+塩基・・発熱)、溶解熱(発熱or吸熱)、融解熱(吸熱)、昇華熱(固→気 吸熱、気→固 発熱)
●系が常に時間的に不変な状態(平衡状態, equilibrium state)の時、一義的に定まった値を持つ物理量を状態量(quantity of state)と言い、系全体の中で一様、一定である。状態量として、物質量に比例する示量性の状態量(体積V、質量m、熱qなど)と、物質量に無関係な示強性の状態量(圧力P,温度T,密度r)がある。 ●化学反応での状態量Xの変化は DX = SniXi(生成物) SniXi(反応物) (5.1) ここで、D(デルタ)は変化量の記号、S(シグマ)は総和の記号である。
●熱力学の第一法則は「内部エネルギーの増加DUは、変化前と変化後の平衡状態に依存し、途中の経路は関係しない」である。 5-1-4)熱力学第一法則、内部エネルギー、エンタルピー ●系が外界から吸収する熱をq, 系の体積変化によって外界から系にされる仕事をwとすると、(q + w)が系の内部エネルギー(internal energy)Uの増加である。 DU = q + w (5.2) ●熱力学の第一法則は「内部エネルギーの増加DUは、変化前と変化後の平衡状態に依存し、途中の経路は関係しない」である。 ●すると、一つの平衡状態から様々な変化を経て元の状態に戻った過程(サイクル)ではDU = 0であり、q = wとなり、系が外界になした仕事w は、系が外界から吸収した熱q に等しい。
●化学反応が一定温度、一定圧力(1982年以前の基準は1 atm、現在は100 KPa)で起こると、 w= PDVであり、 定圧での吸収熱をqpとすれば DU = qpPDVとなる。 エンタルピー(enthalpy)を H = U + PV (5.3) と定義すると、 定圧(DP=0)でのエンタルピー変化DHは DH = DU + PDV = qp (5.4)
●一定温度における反応熱は、一定体積(例:密閉反応容器内での化学反応、DV=0でありw = 0)で測定するとDU、一定圧力(熱化学方程式の反応熱は25℃、1 atmである)で測定すればエンタルピー変化DHである。 ●ただし、熱化学方程式とは異なり熱力学では等号の代わりに→を用い、エンタルピーの符号が反対である。 2H2O2 (l) = 2H2O (l) + O2 (g) + 196.0 kJ (発熱反応) 2H2O2 (l) → 2H2O (l) + O2 (g);DH0 = 196.0 kJ ●一般に、固体、液体ではDV=0でありDH ≈ DU、 また反応で気体の量がDnモル増加すると DH ≈ DU+DnRT (5.5)
5-1-4)標準エンタルピー ●1モルの物質が持つエンタルピーとして、標準状態(100 kPa = 0.987 atm)にある単体から、同じく標準状態にある1モルの化合物が生成するときのエンタルピー変化を標準生成エンタルピー(standard enthalpy of formation)という。 ●標準温度25℃における値をDfH0と記す。標準状態の反応熱DH0を求めるには、生成系および反応系に現れる物質iの標準生成エンタルピーDfHi0を化学熱力学の表から得、ついで、化学方程式中の化学量論係数niを用いて次式で計算する。 DH0 = Sni DfHi0(生成物) Sni DfHi0(反応物) ●標準状態にある単体(Ag(s), Br2(l), C(s), Ca(s), Cl2(g), Cu(s), F2(g), H2(g), Hg(l), I2(s), N2(g), Na(s), Ni(s), O2(g), S(s)など)のDfH0をゼロとする。C(s)は黒鉛であり、ダイヤモンド、フラーレンのDfH0は1.895 kJ/mol, 38.78 kJ/molである。
●次の熱化学方程式を用いて、実験によって直接測定できない一酸化炭素CO(g)の生成熱を求めよ。 C(s) + O2(g) = CO2(g) + 393.5 kJ (1) 2CO(g) + O2(g) = 2CO2(g) + 566.0 kJ (2) 答え 2x(1) – (2) より 2C(s) + O2(g) = 2CO(g) + 221.0 kJ 2で割り(生成物 1molでは) C(s) + ½ O2(g) = CO(g) + 110.5 kJ C(s) + O2(g) CO(g) + ½ O2(g) CO2(g) 393.5kJ 283.0kJ 110.5kJ
●次の熱化学方程式を組み合わせて、エタノールC2H5OH (l) の生成熱を求めよ。 (1)C2H5OH (l) + 3O2 (g) = 2CO2 (g) + 3H2O (l) + 1366.7 kJ (2) C (s) + O2 (g) = CO2 (g) + 393.5 kJ (3) H2 (g) + ½ O2 (g) = H2O (l) + 285.8 kJ 2C (s) + 3H2 (g) + ½ O2 (g) = C2H5OH (l) + ???? kJ ●次の熱化学方程式と上式を組み合わせて、酸化銅(II) CuO (s)の生成熱を求めよ。 CuO (s) + H2 (g) = Cu (s) + H2O (l) + 129 kJ ●次の熱化学方程式と上式を組み合わせて、ヨウ化水素HI (g)の生成熱を求めよ。 Cl2 (g) + 2HI (g) = 2HCl (g) + I2 (s) + 131.6kJ H2 (g) + Cl2 (g) = 2HCl (g) + 184.6 kJ ●上式を組み合わせ、酢酸CH3COOH(l)の生成熱を求めよ。CH3COOH(l) + 2O2 (g) = 2CO2 (g) + 2H2O (l) + 874.1 kJ
●次の反応における気体の量の変化Dnは?? 1) H2 (g) + Cl2 (g) →2HCl (g) 2) H2 (g) + ½ O2 (g) →H2O (g) 3) 2SO2 (g) +O2 (g) →2SO3 (s) 4) N2 (g) + 2O2 (g) → N2O4 (l) 5) N2 (g) + 3H2 (g) → 2NH3 (g) 6) 4NH3 (g) + 3O2 (g) → 2N2 (g) + 6H2O (l) 2HI (g) → H2 (g) + I2 (g) SO2 (g) + Cl2 (g) + 2H2O (l)→ 2HCl (g) + H2SO4 (l)
●Dn =1のとき、298Kにおける1molあたりのDHとDUの差反応における気体の量の変化Dnは?? DH = DU + Dn RTより RT/kJ mol-1 = 8.314 x 298 x 10-3 = 2.48 ●エタノールの生成反応 2C (s) + 3H2 (g) + ½ O2 (g) →C2H5OH (l) の298K におけるDHとDUの差は??? ●900 K, 1 atmにおいて、反応 MgCO3 (s) →MgO (s) +CO2 (g) のDHは108.8 kJである。炭酸マグネシウムMgCO3 (s) と酸化マグネシウムMgO (s) のモル体積をそれぞれ 28 cm3, 11 cm3として、DUの値を求めよ
5-2)気体の法則 ●定比例の法則(プルースト、law of definite proportions)とは、物質が化学反応する時、反応に関与する物質の質量の割合は、常に一定であるという法則。化合物を構成する成分元素の質量の比は常に一定であることも意味する。例えば水を構成する水素と酸素の質量の比は常に1:8である(1Hと16Oのみを考えた場合)。 ●倍数比例の法則(ドルトン、law of multiple proportion)とは、同じ成分元素からなる化合物の間に成り立つ法則である。同じ成分元素A,Bからなる2つの化合物X,Yを考える。 この時同じ質量のAを含むX,Yについて、X,Yそれぞれに含まれるBの質量は簡単な整数比をなす。 これが倍数比例の法則である。 H2O, H2O2 ●気体反応の法則(ゲーリュサック)は、2種以上の気体物質が関与する化学反応について成り立つ法則である。ある反応に2種以上の気体が関与する場合、反応で消費あるいは生成した各気体の体積には同じ圧力、同じ温度のもとで簡単な整数比が成り立つという法則である。 3H2 + N2 → 3NH3
●アヴォガドロの法則(Avogadro's law)とは、同一圧力、 同一温度、同一体積のすべての種類の気体には同じ数の分子が含まれるという法則である。NA = 6.022 x 1023 mol-1 ●ボイルの法則:一定温度において、一定量の気体の体積Vは圧力Pに逆比例する: PV = 一定、 P1V1 = P2V2 (5.6式), P vs. V, V vs. Pは双曲線(等温線)。 ●シャルルの法則:一定圧力において、一定量の気体の体積は絶対温度T に比例する:V/T = 一定、 絶対温度T1 Kの体積V1、T2 Kでの体積V2とすると V1/T1 = V2/T2 (5.7式)。 ●ボイル-シャルルの法則:一定量の気体の体積は圧力に反比例し、絶対温度に比例する: PV = nRT, P1V1/T1 = P2V2/T2 (n: mol) (5.8) R:気体定数 8.314 kPa dm3 K-1 mol-1 = 8.314 J K-1 mol-1 = 0.08206 atm dm3 K-1 mol-1
●ドルトンの分圧の法則:混合気体の全圧は成分気体の分圧(成分気体が混合気体と同じ体積を占めた時の圧力)の和に等しい P = Spi (5