細川 英雄 (言語文化教育研究所・代表/早稲田大学名誉教授)

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細川 英雄 (言語文化教育研究所・代表/早稲田大学名誉教授) 市民性教育のための評価とアセスメントの考え方 -言語と文化の教育におけるこれからの可能性- Evaluation and Assessment in Citizenship education‐Possibility of the education for language and culture – マレーシア・マラヤ大学言語学部 講演 2013年10月4日(金) 10:00-11:30 細川 英雄 (言語文化教育研究所・代表/早稲田大学名誉教授)

発表の構成 1 今、なぜ市民性形成か -市民性形成と評価の関係 2 市民性形成と言語教育の関係 -母語・第2言語・外国語を包括的に考える 1 今、なぜ市民性形成か -市民性形成と評価の関係 2 市民性形成と言語教育の関係 -母語・第2言語・外国語を包括的に考える 3 アセスメントとしてのことばの活動 ―私たちの社会はどうあるべきかという問い 関連文献 発表の構成

1 今、なぜ市民性形成か -市民性形成と評価の関係 なぜ言語教育は市民性形成をめざさなければならないのか 人間という存在とは、年齢とともに蓄積される知識・情報の量だけでなく、感じる力(感覚・感情)と考える力(判断・思考)の総体を持ったもの―その総体が、社会における市民の役割を果たすことではじめて人間となる。 市民とは、近代社会における人間のあり方―他者との対話の中で、自己を表現し、社会を形成する個人のこと。 1 今、なぜ市民性形成か -市民性形成と評価の関係

人間の知のあり方とその構造

1 今、なぜ市民性形成か -市民性形成と評価の関係 市民性教育とは、その社会形成の意識をつくり育てること ことばの活動(ことばを使った活動)は、ことばの活動は市民をつくる活動。 人はことばで考え、ことばによって他者と対話し、ことばによって社会を形成―ことばの活動なくして、市民にはなりえない。 1 今、なぜ市民性形成か -市民性形成と評価の関係

1 今、なぜ市民性形成か -市民性形成と評価の関係 一人の学習者の例: 両親のことばを家族の中で受け継ぎ、育つ地域のことばを享受し、国家のことばを学習する。他者とことばを共有し、地理的に離れた地域・社会のことばを学び、それらを総合して、自分のことばを形成する。 一人の個人の中での、母語・第2言語・外国語の包括的統合、複言語主義のありよう―CEFR の意味。 ことばは、言語学で区切られた境界だけではない―60億のことばがあると考えるべき。 1 今、なぜ市民性形成か -市民性形成と評価の関係

評価とアセスメント アセスメント assessment 実践 観察 評価 evaluation 分析 判断 検討 目に見えるもの   目に見えるもの (数字で表せる) 目に見えないもの (数字で表せない) 序列化する 序列化できない 知識・情報の量  《成績》 知識・情報の質 考える力 感じる力 評価とアセスメント

2 市民性形成と言語教育の関係 -母語・第2言語・外国語を包括的に考える 言語教育における教育概念の見直し―「コミュニケーション能力育成」とは何か 1970年代後半以降の流れ、コミュニケーションのためのコミュニケーションでは意味がない。 「話すことと対話は違う」、対話の中身・内容とは何か―「目的あってのことば」の意味 2 市民性形成と言語教育の関係 -母語・第2言語・外国語を包括的に考える

2 市民性形成と言語教育の関係 -母語・第2言語・外国語を包括的に考える 自己のテーマを持つこととしてのことばの活動 一個の言語活動主体としての充実へ―一人の市民として、ことばの活動をどのように充実させるのか 「語るべき」何かを持つこと―「語るべき何か」とは、自分にしかないもの、自分の過去・現在・未来を結ぶ「何か」―その何かこそ、自分のテーマ誌となる。 2 市民性形成と言語教育の関係 -母語・第2言語・外国語を包括的に考える

2 市民性形成と言語教育の関係 -母語・第2言語・外国語を包括的に考える 他者と関わり、社会をつくる活動としてのことばの活動の総体とは何か 個人レベル:充実した一個の言語活動主体となること 社会レベル:ことばの活動によって、語るべきものを持つ個人が他者との対話によってつくられる社会とは何かを志向すること 教育レベル:母語・第2言語・外国語を超えて、そのような社会形成意識の覚醒をうながすこと 2 市民性形成と言語教育の関係 -母語・第2言語・外国語を包括的に考える

3 アセスメントとしてのことばの活動 ―私たちの社会はどうあるべきかという問い 活動はまさに評価活動そのもの、常に評価し続ける活動―成績をつけるかどうかということとは別の問題 なぜ成績なのか―教師たちの弁法の欺瞞: 制度の中でそうなっているから自分も従うしかない。だから、成績をつける、それが制度というもの。 3 アセスメントとしてのことばの活動 ―私たちの社会はどうあるべきかという問い

3 アセスメントとしてのことばの活動 ―私たちの社会はどうあるべきかという問い アセスメント自体は、制度への挑戦―私たちの社会はどうあるべきかということを問う活動 どのような社会をつくるかという意識を形成する活動は、人間を単純に数字で序列化することに対する、強い批判からくるもの アセスメントとして活動全体をとらえることーともに生きる社会において、一人ひとりが充実した言語活動主体として、個人と社会を結ぶにはどうしたらいいかという課題 3 アセスメントとしてのことばの活動 ―私たちの社会はどうあるべきかという問い

3 アセスメントとしてのことばの活動 ―私たちの社会はどうあるべきかという問い 教材の存在それ自体を疑う 教材とはだれのため、何のためにあるのか? 教材から何を学ばせようとするのか? 教材がなければ活動は成立しないのか? すべては活動のデザイン、教師の教育観に根ざすか 正解のある指導から、正解のない活動へ 3 アセスメントとしてのことばの活動 ―私たちの社会はどうあるべきかという問い

3 アセスメントとしてのことばの活動 ―私たちの社会はどうあるべきかという問い ことばは60億存在する―母語話者・非母語話者という区別を超える 文化は個人の中にある―自己と他者の対話の中につくられる 個人一人一人の問題関心から問題意識へというテーマ誌の方向性―ことばによる活動を軸に、他者を受け止め、テーマのある議論を展開できるような場(共同体)の形成―「ことばの市民」(細川2012b)という概念の構築 3 アセスメントとしてのことばの活動 ―私たちの社会はどうあるべきかという問い

参考文献 色川大吉(1975)『ある昭和史―自分史の試み―』中央公論社 牲川波都季,細川英雄(2004)『わたしを語ることばを求めて-表現することへの希望』三省堂 細川英雄(2002)『日本語教育は何をめざすか‐言語文化活動の理論と実践』明石書店 細川英雄(2012 a)「きみは何を考えているの?」「学校経営」2012年2月号 細川英雄(2012 b )『研究活動デザイン―出会いと対話は何を変えるか』東京図書 細川英雄(2012c)『「ことばの市民」になる―言語文化教育学の思想と実践』ココ出版 細川英雄・三代純平(2014)『実践研究は何をめざすか』2014年5月刊行予定 参考文献