経営学Ⅰ ファイナンス 財務
資本の流れ 会社は株主や銀行などから資金を調達し原材料、生産設備を購入し、労働者を雇う。次に、これらの原材料を使い製品を製造する。製造された製品に利益を付加して販売される。現金販売であれば現金が会社に入るが、掛売りであれば、この売掛金が回収されるまで現金は会社に入らない。現金から、製品、売掛金、現金に戻る流れを運転資本の流れという。
投資資本 生産設備などの固定資産は長期間にわたる製造過程において、少しずつ消費される。製品の1つ1つが製造過程を通過するごとに、生産設備のような固定資産の一部が失われていくようなものである。実際、設備投資は投資した段階で現金支出が行われるが、会計上は投資支出額をある一定期間に割り振る。これを減価償却とよび、製品原価の一部を構成する。こうして現金が固定資産に投資されていくのを投資資本の流れと呼ぶ。
利益留保 会社は運転資本の流れと、投資資本の流れを通じて生まれだされた現金を支払利息、税金の支払い、借入金の返済、株主への配当の分配に当てた後、その残りの現金は会社内に留保される。企業が長期にわたり成長すると、現金が蓄積され、企業価値あるいは株価が上昇することが期待される。
財務管理 現金(キャッシュ) 売掛金 在庫(棚卸資産) 固定資産 増資・減資 負債による資金調達・返済 税金の支払い 利子の支払い 配当金の支払い 現金(キャッシュ) 売掛金の回収 売掛金 現金販売 信用販売 生産 在庫(棚卸資産) 減価償却 投資 固定資産
資金調達 借入による資金調達 間接金融 金利、借入金額、借入期間 証書借入 手形割引 当座借越 企業間の信用を利用して資金の貸し借りを行う 個人=>銀行=>企業 金利、借入金額、借入期間 通常企業が金融機関から借入する場合、金利、借入金額、借入期間が決められる。会計上借入期間が1年以上のものを長期借入金、1年以内を短期借入金とよぶ。 証書借入 通常企業が金融機関から長期借入するとき証書を作成する。 手形割引 企業が顧客から受け取った手形(将来の特定日に支払うことを約束して振り出される)を金融機関に買い取ってもらう。このとき、満了日までの利息分は差し引かれる。 当座借越 当座預金口座にある金額以上の小切手を発行したとき銀行が当座繰越限度額内であれば貸し出す。 企業間の信用を利用して資金の貸し借りを行う 買掛金 支払手形
資金調達 株式・社債による資金調達 社債は企業が長期的な資金を調達する手段で、金融市場の発行市場で資金調達される。社債の購入者は満期まで利息を受け取ることができる。利率は固定金利と流動金利がある。 企業は株式を発行することで資金調達できる。資金の提供者は企業の株式を購入することで株主になる。株主の権利として、1)利益配当請求権(配当を受ける権利)、2)議決権(株主総会で会社経営に関する重要な案件を決議する権利)、3)残余財産分配請求権(会社が解散するときに残った資産を受け取る権利)を得る。 株式には普通株と優先株がある。普通株は先の3つの権利を保有する。優先株は普通株よりも高い残余財産分配権を有するが、議決権を持たない。 社債・株式には発行市場と流通市場がある。発行市場では資金を必要とする企業が新規に社債・株式を発行し資金を調達する。流通市場では社債・株式を保有する投資家が他の投資家と債権を売買する市場である。 株式と社債の違いは、株式は満期が無く、利益があれば配当を株主に分配する。社債には満期があり、利益があるなしに関わらず利息を払わなくてはいけない。
資金調達 企業内部からの資金調達 企業は毎年利益を蓄積している。これを利益の内部保留とよぶ。これは、売上から費用を差引いた利益から、さらに法人税、配当などを差引いたものである。企業が新規投資を行うときこの資金が用いられる。この内部保留は株主のものであるから、通常この新規投資が負担するリスクに応じた期待収益率が要求される。
内部留保と減価償却による余裕資金 0年度 1年度 2年度 3年度 合計 新規投資 900万 減価償却 -300万 -900万 製造費用 -500万 -1500万 売上 1000万 3000万 利益 200万 600万 法人税 -60万 -180万 配当 -40万 -120万 内部留保(税引き後利益) +100万 +300万 0年度 1年度 2年度 3年度 合計 現金(支出) -900万 -600万 ー2700万 現金(収入) 1000万 3000万 残高 400万 300万 内部留保 +100万 余裕資金 +300万 900万
資本コスト 企業は必要な資金を借入金、株式・社債発行、あるいは内部留保金のいずれかにより調達することができる。企業はいずれの方法を使用したとしてもその資金の使用コストを払わなければならない。たとえば、銀行からの借り入れであれば金利が資本コストとなる。 銀行からの借入金に対して企業はその業績のいかんにかかわらずその金利を支払う義務がある。さらに、返済期限に債権者に返済できなければ会社の倒産ということもあり得る。株式発行や内部保留金による資金調達では、株主に対する配当は企業の業績がよければ多く支払えるが、業績が悪い時は支払わない。企業側からすると内部保留金や株式発行はリスクの低くい資金調達方法であるが投資家からすれば企業のリスクを負担しているので高い収益率を期待する。
コーポレイトファイナンス コーポレイトファイナンス(経営財務論、財務管理論)では、企業が中長期の意思決定を財政面からその評価をする理論である。 たとえば企業が(1)新しい機械設備の投資をする、(2)新しい工場を建てる、(3)新しい商品開発に投資する、(4)不動産を買い取る、(5)他社を買収する等の決定をするときに財務的に評価を行うのがコーポレイトファイナンスである。
現在価値 例題 現在、5000万円の価格が付いている土地を購入すると、翌年に確実に5500万円で売却できるという。利子率が6%の場合、この土地への投資を行うべきであろうか。 現在価値 = (N年後の将来価値)÷(1+利子率)N乗 上記の式から5500万円の現在の価値を計算すると 5500万円÷(1+0.06)1乗=5189万円 そこで、5000万円の購入価格は5189万円よりも189万円も安いことからこの土地の投資には現在の価値で189万円高い収益があるといえる。 ここで使用した6%の利子率は割引率とも呼ばれ、この例題では、銀行に預金した場合に得られると考えられる利率と考えてよい。 他のケースで割引率のことをインターナル・ハードル・レートと呼び、企業が投資をした時に最低限得ることを期待する利率を使用することもある。
投資ケース 最適な投資とは、投資金額と資本コストの合計金額を上回る資金を生み出す可能性があるものに投資をすることである。たとえば、会社が銀行から1億円を資金調達し、その資金をインターネット投資に使うとしよう。この投資は3年後に確実に1億1500万円の現金収入を生み出すとする。その場合銀行の金利は複利で5%とする。3年後、インターネット投資は投資金額と銀行の利息の合計を上回る現金収入を得ることができるのであればこの投資は報われる。 複利計算表 年度 現在 1年後 2年後 3年後 銀行借入 1億円 金利 500万円 525万円 551万円 負債合計 1億500万円 1億1025万円 1億1576万円 収入 1億1500万円 差額 -76万円 複利計算式 1億X(1+0.05)3=1億1576万
キャッシュフローの現在価値 多期間にわたる投資の評価 例題 基本的に複数のキャッシュフローがあるときは、それぞれのキャッシュフローの現在価値の合計になる。 例題 ある事業の初期投資が100億円で、来年度から3年間にわたり30億円、40億円、50億円のキャッシュフローが確実に生まれるものとする。年利子率が8%である場合、この投資を実行すべきか。 この計算から、このキャッシュフローの現在の価値は101.76憶円で投資額の100億円よりも1.76憶円多いことから、この投資は実行すべきであると判断できる。
キャッシュフロー投資ケース 自己資金を使用した投資では、銀行借入のように金利を使用して資本コストを計算できない。 さらに、投資で生み出される未来の価値(FV)は現在の価値(PV)と単純比較はできない。 例えば、現在、1億円を投資して新たなプロジェクトを始めると、これから3年間、毎年4000万円の収入があるとする。このプロジェクトの価値は投資額より多いか少ないか計算してみよう。 未来の現金収入は現在の価値に直す必要がある。現在の価値に変換するには以下の数式を使用する ※年利率はインターナルハードルレートの5%とする。 現在 未来 1年後 4000万円÷(1+0.05)1=3809万円 2年後 4000万円÷(1+0.05)2=3628万円 3年後 4000万円÷(1+0.05)3=3455万円 現在の価値合計 1億892万円
定額キャッシュフロー現在価値 一定のキャッシュフローが永久に続く場合(定額年金)、現在の価値は次の式で計算できる。 例題 利子率が10%の場合、毎年60万円の利子が永久に支払われる年金の現在価値はいくらになるか。
定額キャッシュフロー現在価値ケース 一定のキャッシュフローが一定期間続く場合(有期定額年金)の現在価値は、永久定額年金の式を使えば計算できる。 例題 利子率が8%のとき、今後10年間、毎年100万円受け取ることができる投資の現在価値はいくらになるか。 まず永久定額年金で毎年100万円受け取ることができる投資の現在価値は次のように計算できる。 11年目以降のキャッシュフローの10年後時点での現在価値は同じように計算できるので1250万円になる。しかし、これは10年後の価値なので、この価値を現在の価値に直すと以下のようになる。 したがって、今後10年間、毎年100万円受け取る有期定額年金の現在価値は永久定額年金の現在価値1250万円から、11年目以降の永久定額年金の現在価値を引けば求めることができる。 1250万円 ー 578.99万円 = 671.01万円
会社の現在価値 株式とは,株式会社に対しての持分を表す有価証券である.そして,株主は,法人としての会社をその持分に応じて経済的に支配しているともいえる.会社は,株主総会においてさまざまな決議を承認されなければならない.1株1議決権の原則(その原則に従わない種類株式というものも会社法で認められている)に従い,株主は株主総会での持分に応じた議決権を持つ.株式会社は,会社の営業が続き,かつ利益が出ているかぎり,株主に配当を払い続けることができる。 ただし,アメリカの成長企業などでは,創業の当初に配当を払わず,これをより大きな成長のために再投資し続ける場合がある。創始期のIBMやヒューレットパッカードなどはその有名な例である. 一般的に、将来の配当を受け取る権利が,株主に最低限はあるので、株主にとっての株を所有する値打ちは、予想できる将来の配当を現在価値に変換したものであると言える。 株主には,株主総会での投票権や提案権など株主としての本質的な権利もあるが,会社の株を買い占めて乗っ取ろうとでもしないかぎり,株主にとっての株式を持つことからの経済価値としては結局,配当の現在価値である.なお,配当の中には,株式分割のように,現金の代わりに経済価値のある株式の追加持分で払ってくれるような場合も含まれる.さらに,自己株式取得と呼ばれるのだが,発行会社が市価よりも高い値段でその株式を買い戻してくれる場合もあり,これも市価を超える分の買戻し価格は,株主にとっての配当の一種として考えることができる.
会社の現在価値の源泉 ここでそのような例を考えてみよう.いま,W社の株を持っているDさんがいるとする.この会社の利益は,今期未で100億円であり,発行済み株数は1億株である.1株当たり利益は,100円ということになる. W社は,利益の4割を常に配当しているという.いま,法人税や個人の受取配当と株式売却に通用される税金などは無視しておく.W社は,5年後まで4年間20%ずつ利益が伸び,5年後からはこの産業の成熟により成長はまったく望めないという.この会社の現在価値,すなわち理論株価を求めてみよう. 株価がいま1200円であるという.すると,株式市場においてこのW社の株価収益率(株価を1株当たり利益で割ったもの.P/Eレシオともいう)は,12倍=1200(円)÷100(円))となる.この倍率を5年後にもそのまま通用することにする.また,5年間の利子率(割引率)は,常に5%だという。 すると,このW社の利益は,来年は100億円で,2年後以降5年後まで20%の成長率で,120億円,144億円,172.8億円,207.4億円である.したがって,将来の配当は40億円,48億円,57.6億円,69.1億円,83.0億円である. 次に,5年目の1株価格を計算しよう.5年目の1株当たりの利益は,上の計算より207.4円である.株価収益率を以降PER(Price Earnings Ratio)と表すことにする.現在12倍であり,このPERの倍数が5年後にも成り立っていると仮定するので,以下の計算 PER = 12 = 5年後のPrice ÷ 207.4円 この式から、5年後の株価格は2490円と予測できる。
会社の現在価値の源泉 この計算から現在の株の価値(理論株価)は2204円と計算できる。 年度 1 2 3 4 5 利益(20%で成長) 100億円 120億円 144億円 172.8憶円 207.4憶円 配当(40%の利益) 40億円 48億円 57.6億円 69.1憶円 82.9憶円 発行株数 1億株 1株当たりの配当 40円 48円 57.6円 69.1円 82.9円 1株当たりの利益 100円 120円 144円 172・8円 207.4円 株価 1200円 2490円(仮定) PER(株価÷1株当たりの利益) 12 この計算から現在の株の価値(理論株価)は2204円と計算できる。
会社の現在価値の源泉 前記の理論株価の計算では5年後の株価の仮説をたてて計算し、それをもとに理論株価を計算しました。しかし、将来の株価を予測するのは限界があるといえる。 そこで、この将来の株価もその先の配当により決定するとも予測できることから、現在の株価は、将来配当が永久に続くキャッシュフローにより理論値が決まるといえます。 もしも、配当額が一定であれば以下の計算式で割り出せます。 もしも、配当額がある一定の率で成長する場合は上記の式は以下のように変形できる。
会社の現在価値の源泉 証券投資を行う投資家にとって,投資の価値とは,このように将来に受け取ることのできる配当および売却により得られるキャッシュフローの正味現在価値である.そして,株式投資における株式の運用効率とは,投資収益率(Rate of Return)という尺度によって測られる.じつは,預金などの利子率の場合も受け取る利子(キャッシュフロー)の投資効率を測っているのである.投資額にかかわらず,この投資効率は同じである.これを,投資のパフォーマンスと呼ぼう.ただし,預金の場合は,預金した額(元本)と同じ額が,預けた銀行が健全であるかぎり確実に戻ってくる.それは,いわば1年後に株式を同じ価格で売ったことと同じである.ところが,株式の投資の場合は,1年後の株価は上がっていることもあれば下がっていることもあるだろう.つまり,元本は保証されていない.ただし,株式会社は有限責任制であり,最小価値はゼロ,つまり原株式を購入した投資家は購入価格が貴大の損失である.さて,今日から来年までの(年次)投資収益率は,以下のように表される.
会社の現在価値の源泉 例題 今日1000円で1000株購入した株式には、1株当たり8円の配当が払われ、また来年の株価が1150円であったとすると、このときの投資収益率は この計算から15.8%である。 これが,求める年次投資収益率である.たとえば,同じ期間で預金をしたときの利子率が5%であったならば,株式投資からの投資収益率は預金よりもパフォーマンスが高かったことになる.ただし,もし逆に株価が下がっていたり,収益率が5%以下であったならば,預金よりパフォーマンスが悪かったことになる. 預金の利子率が,決まった投資収益率(=利子率)を提供できるという意味で,このような資産を以降は安全資産(Risk Free Assets)(無リスク資産とも呼ぶ)と呼ぶ.一方,株式は,株価もさらに将来の配当額すらも不確実である点から,危険資産(Risky Assets)と呼ぶ.さらに,国債や社債のような債券については,払ってくれる利子率(表面利率)は決まっているが,満期まで持たないで売却するときには,将来の債券の市場での売却価格はわからないという意味で,株価ほどは価格は変動しないことが多いが,やはり危険資産として分類される
リスクをどう測るか 投資のリスクについては様々なとらえ方があるが,ここでは,まず,投資が生むキャッシュフローや収益率の変動性をリスクとして考えることにする。 例えば,図7-1では証券1と証券2の収益率がとる平均的な値(期待収益率)はともに10%であるが,証券2のほうが収益率の振れが大きいのでリスクがより大きいと考える。では,リスクの尺度として,どういう指標を用いればよいか,次の数値例を用いて考えてみよう。 経済の状態 起こる確率 証券Aの収益率 証券Bの収益率 好 景 気 1/3 20% 10% 並の景気 15% 0% 不 景 気 -5% 5%
リスクをどう測るか さきほど,収益率の中心的な値からの変動性を証券のリスクとして考えることにしたので,まず,収益率の中心的な値を計算することが必要になる。これは,各経済状態の下での証券の収益率にその状態が起こる確率をかけて,それらを合計することによって求められる。これを収益率の期待値ないし期待収益率という。 確率 証券Aの収益率 収益率X確率 1/3 20% 6.67% 15% 5% -5% -1.67% 証券Aの期待収益率=10% 確率 証券Bの収益率 収益率X確率 1/3 10% 3.33% 0% 5% 1.67% 証券Bの期待収益率=5%
リスクをどう測るか 次に,期待収益率を中心に証券の収益率がどの程度変動するかを見るために,各経済状態の下で生まれる収益率と期待収益率の差をとってみよう。これは偏差と呼ばれる。ここで,収益率の変動性を数量化するための1つの方法として,偏差の期待値を計算することが考えられる。証券Aと証券Bについて偏差の期待値を計算すると次のようにゼロになる。 証券A (20-10)×1/3+(15-10)×1/3+(-5-10)×1/3=0 証券B (10-5)×1/3+(0-5)×1/3+(5-5)×1/3=0 このように偏差の期待値を計算すると必ずゼロになる。 偏差の符号が打ち消し合わないように何らかの形で偏差の平均的な数字を計算するためには,次のような方法が考えられる。まず,偏差を二乗して,その期待値をとることである。この偏差の二乗の期待値のことを分散と呼ぶ。 ところで,分散を計算した際には,収益率の偏差を二乗し,その期待値をとったため,分散の単位はパーセントの二乗になっており,また,分散の値は期待収益率に比べて大きな値になっている。このため,単位や大きさを期待収益率にそろえるために,分散の平方根をとり,リスクの尺度とすることがある。これが標準偏差である
リスクをどう測るか 確率 証券Aの収益率 収益率の偏差 (収益率―期待収益率) 偏差の二乗 偏差の二乗X確率 1/3 20% 10% 100 33.33 15% 5% 25 8.33 -5% -15% 225 75 証券Aの期待収益率=10% 合計(分散)=116.67 分散の平方根=10.8% 確率 証券Bの収益率 収益率の偏差 (収益率―期待収益率) 偏差の二乗 偏差の二乗X確率 1/3 10% 5% 25 8.33 0% -5% 0 証券Bの期待収益率=5% 合計(分散)=16.67 分散の平方根=4.08%
リスクをどう測るか 前記の例では,今後,3つの経済状態が起こるという特殊な例を用いて,証券の分散,標準偏差を計算したが,実際の証券の収益率の分布は,特殊な証券を除いて,図のような形になると考えられる。この図で横軸は証券の収益率,縦軸はその収益率が生まれる確率を示しており,収益率の分布は期待収益率を中心に左右対称になっている。これは正規分布と呼ばれる分布で,期待値と標準偏差がどのような値をとった場合でも,期待値を中心に標準偏差何単位分か離れた領域に収益率がおさまる確率が,次のように決まってくるという特質を持っている。 期待値±1標準偏差 68.26% 期待値±2標準偏差 95.44% 期待値±3標準偏差 99.74% このため,証券の収益率の分布として正規分布を仮定すると,証券の収益率がある範囲に入る確率を推計することができる。
リスクをどう測るか ここで日本の主要な金融資産の過去の収益率と標準偏差がどのような値であったか見てみよう。図は日本の株式,長期債,現先の過去の月次収益率の実績を示したものである。ただし,株式,債券の収益率はキャピタルゲイン(値上がり益)とインカムゲイン(配当)の合計(トータルリターン)をとってあり,現先(注1)については,3カ月現先の利回り(月率)をとり,その時々の短期金利水準の指標としている。この図から収益率の変動性は株式,債券,現先の順に高いことがわかる。また,3証券の年率の平均収益率と標準偏差を計算すると表のようになる。表が示すように,平均収益率と標準偏差はともに株式,債券,現先の順に高い。
財務報告 企業会計とは組織の活動を係数で(通常は貨幣額で)補足し、様々な人が投資した資金が現在どのような状態にあるのか示すことである。 企業会計は、企業活動を二面的に把握する複式簿記機構を前提にしている。 通常企業は株主の拠出により現金を調達することから始まり、それを製造活動に投下し、製品を販売することで現金を得る。回収した現金を次の製造または商業活動に投下して企業活動を展開していく。企業活動の拡大に伴い信用取引を取り入れたり、新たな資金調達も行う。このような企業資本の循環を、複式簿記機構に基づいて、企業活動を把握し集計及び要約した表は財務諸表とよび、その主要な表は損益計算書と貸借対照表である。 損益計算書は企業の経済活動により利益が出ているのか、それとも損失が出ているのかを計算している。一方、貸借対照表の左側では資産、つまり企業が保有する経営資源を表している。右側では負債及び資本をあらわしている。
財務報告 貸借対照表(期末の残高表)12/31 負債+資本 資産 損益計算書(期間損益計算)1/1~12/31 収益 資産 企業資本の待機状態 現金 XX 企業資本の行使状態 原材料の未費消分 XX 機械設備の未費消分 XX 企業資本の調達源泉 借入金(銀行等から) XX 資本金(株主から) XX 損益計算書(期間損益計算)1/1~12/31 収益 資産 企業資本の調達源泉 売上(顧客から) XX 企業資本の行使状態 原材料の費消分 XX 機械設備の費消分 XX
損益計算書 損益計算書では、営業すなわち企業の本業活動によってどれだけの利益をあげたのかの計算を行う。 本業での製造活動または商業活動による収益と、財務活動による収益とを区別するために、営業と営業外に区別し、さらに、経常性ととくべつなものに分けている。 名称 内容 記号 算式 売上高 売った商品等の金額 ① 売上原価 売り上げた商品等の仕入額 ② 売上総利益 粗利ともいわれる直接的な利益 ③ ①-② 販売費及び一般管理費 営業活動のコスト ④ 営業利益 本業の利益 ⑤ ③-④ 営業外収益・費用 金融関係の収支 ⑥ 経常利益 通常の経営活動での利益 ⑦ ⑤-⑥ 特別利益・損失 臨時的な取引の収支 ⑧ 税引前当期純利益 最終的な利益 ⑨ ⑦-⑧ 法人税等 利益に対する課税 ⑩ 当期純利益 税引後のもうけの手取り額である可処分利益 ⑪ ⑨-⑩
貸借対照表 一般の事業会社の貸借対照表では、通常、資産を流動資産と固定資産とに大別し、負債も流動負債と固定負債とに大別する。流動性とは換金可能性を示し、流動性が高い場合には現金への変形の近さを示している。このように大別する理由は、買掛金や借入金の返済能力や資金上の安全性を確認するためである。これは、投資家や銀行にとって重要な情報となる。 貸借対照表 12/31 流動資産 現金預金 XX 受取手形 XX 売掛金 XX 売買目的有価証券 XX 固定資産 機械設備 XX 建物 XX 土地 XX 投資有価証券 XX 流動負債 支払手形 XX 買掛金 XX 固定負債 長期借入金 XX 社債 XX 資本金 XX 資本剰余金 XX 利益剰余金 XX 当期末処分利益 XX
損益計算書:ウォルト・ディズニー・カンパニー チェック項目 収益性の程度 収益性の動向 利益の構成
貸借対照表:ウォルト・ディズニー・カンパニー チェック項目 会社には支払い能力があるか 会社の資産には十分な流動性があるか 資産の構成はどうなっているか 資金調達の構成はどうか
経営指標 投資家が投資する際、当該企業がいかなる収益力を持ち、企業価値がいくらであるかを知ることは重要である。その際、絶対的な金額だけでなく、比率指標にして、期間比較、同業種間比較することでその情報が得られる。例えば、ある経済新聞では規模、収益性、安全性、成長力といった財務指標を使用している。
財務指標 収益性の財務指標:ROI、ROE、ROA ROI(Return on Investment)投下資本利益率 調達した資金をどれだけもうけにつなげたか見る ROI(%)=経常利益÷投下資本×100 投下資本とは、借入金、社債、自己資本の合計 率が高いほど良い ROE(Return on Equity)自己資本当期純利益率 株主の出資金である自己資本をどれだけもうけにつなげたかを見る ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100 ROA(Return on Asset)総資本経常利益率 全ての資本に対して、どれだけもうけにつなげたかをみる ROA(%)=経常利益÷総資本×100
財務指標 安全性の財務諸表 流動比率 インタレスト・カバレッジ・レシオ 短期の支払能力を見るもの。比較的すぐに返さなくてはならない債務に対し、比較的すぐ現金化できる資産をくらべたもの。100をきるようであれば、支払が滞る可能性があり危険な状態である。 流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100 インタレスト・カバレッジ・レシオ 支払利息の支払能力をみる指標。 インタレスト・カバレッジ・レシオ(率)=(営業利益+受取利息配当金)÷支払利息 この指標は率が高いほど良い
損益分岐分析 損益分岐点(break-even point)とは、売上高と費用が等しい点、すなわち利益ゼロのことである。この損益分岐点を利用して企業の損益構造について分析することを損益分岐分析(break-even analysis)という。 費用は売上高(あるいは販売量)と比例して変化する変動費と、売上高が変化しても変わらない固定費に分類される。 商品(あるいはサービス)の販売金額から変動費を差し引いたものを貢献利益(contribution margin)という。 次にすべての貢献利益を足し合わせた額から固定費を差し引くと営業利益が算定できる。 したがって、損益分岐点とは貢献利益が固定費と等しい(営業利益がゼロの)点であるといえる。
損益分岐分析 損益分岐点を計算するには、以下の式を使用する。
損益分岐分析 次の資料に基づいて損益分岐点の売上高と販売量を求めなさい。 売上高 100円 変動費 60円 固定費 32円 営業利益 8円 販売価格(1単位当たり) 10円 1個当たりの変動費 6円
損益分岐分析 費用 費用 費用 総費用 固定費 変動費 販売量 販売量 販売量 売上高線 売上 売上・費用 総費用 売上高線 販売量 販売量 利益 総費用 売上高線 BEP 変動費 損失 固定費 販売量 販売量
売上高線 売上高線 売上・費用 売上・費用 総費用 総費用 販売量 販売量 固定費が大きく、変動費が小さい 固定費が小さく、変動費が大きい 利益 売上・費用 利益 総費用 BEP 総費用 BEP 変動費 変動費 損失 損失 固定費 固定費 販売量 販売量 固定費が大きく、変動費が小さい 固定費が小さく、変動費が大きい