2015/10/14 基礎商法2 第3回.

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2015/10/14 基礎商法2 第3回

本日の内容 商業帳簿 商業使用人

基礎商法2 第3回 商業帳簿

商業帳簿の意義 定義 意義 商業帳簿の作成義務 商人が営業のために使用する財産の状況を記録するために作成することを義務づけられている帳簿 会計帳簿 貸借対照表 意義 商人の合理的な企業経営のためには、営業に関する財産状況と損益状況の把握が必要 経営上の紛争における証拠となりうるもの 商業帳簿の作成義務 商人(小商人を除く。商7)は、商業帳簿を作成し、閉鎖から10年間保存

会計帳簿 複式簿記による記帳 単式簿記 複式簿記 複式簿記=取引を、その二面性に着眼して記録していき、貸借平均の原理に基づいて組織的に記録・計算・整理する記帳法 ⇔ 単式簿記(小遣い帳方式) 単式簿記 複式簿記 日付 収入 支出 摘要 6/1 150,000 繰越 6/10 3,000 文房具 6/15 10,000 売上げ 6/16 8,000 仕入れ 6/20 交際費 6/25 日付 借方 貸方 摘要 6/1 現金 150,000 繰越 6/10 消耗品 3,000 文房具 6/15 10,000 売上げ 6/16 仕入れ 8,000 6/20 交際費 飲み会 6/25 売掛金 4,000

会計帳簿 主要簿 日記帳 仕訳帳 総勘定元帳 補助簿 現金出納帳 預金帳 売上帳 仕入帳 必ず備える 必要なら備える

日記帳+仕訳帳=仕訳日記帳 日記帳=日々の取引や財貨の移動を時系列順に記帳 仕訳帳=取引を「仕分け」に従って分類して記帳 日付 借方 貸方 摘要 6/1 現金 150,000 繰越 6/10 消耗品 3,000 文房具 6/15 10,000 売上げ 6/16 仕入れ 8,000 6/20 交際費 飲み会 6/25 売掛金 4,000 日記帳=日々の取引や財貨の移動を時系列順に記帳 仕訳帳=取引を「仕分け」に従って分類して記帳

総勘定元帳 現金 現金の移動しか載らない 売上げ 仕入れ 日付 借方 貸方 残高 摘要 6/1 現金 150,000 繰越 6/10 3,000 147,000 文房具 6/15 10,000 157,000 売上げ 6/16 8,000 149,000 仕入れ 6/20 146,000 飲み会 売上げ 日付 借方 貸方 摘要 6/15 売上げ 10,000 6/25 4,000 仕入れ 日付 借方 貸方 摘要 6/16 仕入れ 8,000

出典:http://www.ipo-navi.com/pickup/final_accounts/bs/

会計帳簿作成の原則 基本的な考え方 「企業会計」 財務会計 ・・・会計情報の提供(開示)目的 管理会計 ・・・企業内部での活用目的 会計帳簿は企業の財政状況の記録(“素点”) ⇒統一した基準で記録する必要がある =「会計」の概念 「企業会計」 財務会計 ・・・会計情報の提供(開示)目的 会社法会計 金商法会計(証取法会計) 税務会計 管理会計 ・・・企業内部での活用目的 ※「企業会計」のほかに「公会計」「家計」等の会計がある

企業会計の基準 日本の会計基準 企業会計は「公正な会計慣行」を規範とする(商19Ⅰ参照) ※厳密なルール化がされないのは、国・地域による差異、業種等による差異、各企業の特性、時的な変遷などがあるから ⇒日本では「企業会計原則」(1949制定)が公正な会計慣行を要約したものとして定着 ※当初は大蔵省(現金融庁)所管の企業会計審議会が策定していたが、その後、民間ベースの企業会計基準設定主体が必要になり、2001年に企業会計基準委員会が設立され、企業会計原則の設定を行うこととなった ※現在の企業会計基準は1つの文書ではなく、様々な場面で適用される複数のルールブックからなる

国際会計基準 従来、各国は異なる会計基準を用いてきたが、企業の国際化に伴い、各国企業の財務状況の比較可能性が問題に →国際的に統一された会計基準の必要性 1973 国際会計基準委員会(International Accounting Standards Committee =先進国公認会計士団体の合意による会計基準の設定主体)設立。国際会計基準(IAS)策定 2001 国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board、IASB)設立。国際財務報告基準(IFRS)策定 ※国際会計基準の設定については、各国が自国に有利な(自国企業の業績がよく見える)基準の導入を図りせめぎ合い。IFRSは日本には比較的不利な会計基準であり、日本への導入が延び延びになっている

各企業会計の目的と手法 会社法会計の特徴 金商法会計の特徴 目的:債権者保護 特徴: ① 保守的 ② 資産は簿価評価を多用 2015/10/14 各企業会計の目的と手法 会社法会計の特徴 目的:債権者保護 特徴: ① 保守的 ② 資産は簿価評価を多用 ③ 剰余金は引き算方式で算出(貸借対照表基準) ④ 資本取引と損益取引を区別しない 金商法会計の特徴 目的:投資家への情報開示 特徴:① 現在の企業の実力と稼得する利益の割合(運用利回り)の算出資料 ② 資産は基本的に時価評価 ③ 剰余金は利益の蓄積(損益計算書基準) ④ 資本取引と損益取引を厳密に区別

例1 会社法会計 ・・・基本的に100万円の資産と評価 株式 金商法会計 ・・・基本的に1億円の資産と評価 購入価格:100万円 2015/10/14 会社法会計 ・・・基本的に100万円の資産と評価 〔理由〕 近い将来に売る予定がない限り、売却時の価格が1億円である保証はない。ここで1億円と評価すると売却時の価格がそれ以下の場合に債権者に不測の損害を与える。 例1 株式 金商法会計 ・・・基本的に1億円の資産と評価 〔理由〕 投資家に企業の収益力を開示する必要がある。仮にこの株式を100万円と評価すれば、運用利回りは50%もの高率になるが、実際には0.5%に過ぎず収益率は低い。 購入価格:100万円 現在の時価:1億円 年間配当:50万円 ※資産の内容により時価評価か簿価評価かは異なる

例2 (旧)会社法会計 ・・・基本的に甲社の貸借対照表を乙社の貸借対照表に加える(持分プーリング方式) 総資産:3億円 6億円 金商法会計 2015/10/14 例2 (旧)会社法会計 ・・・基本的に甲社の貸借対照表を乙社の貸借対照表に加える(持分プーリング方式) ※現在では会社法でも持分プーリングは原則として行えない(計規35Ⅰ) 4億円 甲社 乙社 吸収合併 総資産:3億円 6億円 金商法会計 ・・・基本的に甲社の資産と負債を時価評価し、それに見合った対価を払って買収したと考える(パーチェス法) 総負債:2億円 2億円 純資産:1億円 4億円 帳簿価格 時価評価

会社法会計と金商法会計の接近 H10 商法と企業会計の調整に関する研究会報告 H11 商法会計で市場価格のある株式、社債等に時価評価許容 2015/10/14 会社法会計と金商法会計の接近 H10 商法と企業会計の調整に関する研究会報告 ⇒商法会計と企業会計(≒証取法会計)の近接に言及 H11 商法会計で市場価格のある株式、社債等に時価評価許容 H14 企業会計基準の改定に追随しやすいように商法の計算規定を本体から規則に移行。大会社に連結計算書類制度導入 H17 会社法制定。その後は企業会計基準の改訂(国際会計基準とのコンバージェンス)に合わせて会社計算規則を改正。のれん等については規則からも詳細規程を削除

会計基準と商法・会社法 改正前商法・会社法・省令 「斟酌する」の意味 「一般に公正妥当と認められる会計慣行に従う」(商19Ⅰ,会431) 「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならない」(計規3) 「公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」(H17改正前商32Ⅱ) 「斟酌する」の意味 以前は、公正な会計慣行は企業会計原則にとどまるものではない前提で、合理的な理由がない限り、「公正な会計慣行」を採用する必要があるが、従来の慣行と同等かそれ以上に商法の目的に適合する会計処理方法の採用は許されると解されてきた(商法会計の独自性を強調) 現在では、企業会計原則や金商法会計との調和を重視

商法における評価 取得原価主義の原則 「のれん」の扱い ※基本は会社法と共通 帳簿価額(会計帳簿・貸借対照表への記載額)は原則として取得価額(商規5Ⅰ本文) 償却すべき資産については、営業年度の末日に相当の償却(同Ⅱ) 何らかの事情で価値が下がったものについては時価で評価(同Ⅲ①②,Ⅳ) ※資産価値の低下(強制評価減)、収益力の低下(減損)、債権等の取立不能(貸倒れ)のおそれがある場合 「のれん」の扱い のれんは有償で譲り受けた場合に限り資産・負債として計上(商規5⑥)

耐用年数の間、毎年、価値の減少分を支出すると考える 減価償却の考え方 30 30 30 30 80 20 20 20 20 耐用年数の間、毎年、価値の減少分を支出すると考える 購入 耐用年数

「のれん」 のれん 資産総額 評価額 =購入金額

会計基準の変遷と「公正な会計慣行」 事案(最判H20.7.18会百-77) 判旨 H9年3月以降、大蔵省は各金融機関に不良債権の自己査定をするよう求めていた(新経理基準)が、X銀行取締役Y1~Y3は、自行が有する不良債権について、H10年3月期決算において、従来の基準(決算経理基準)に従って処理(債権の時価を高く評価)し、それに基づき利益配当。X銀行が取締役に対して粉飾・違法配当の責任追及 判旨 本件当時、・・・(新)経理基準は、・・・新たな基準として直ちに適用するには、明確性に乏しかった」から、「・・・これまで『公正ナル会計慣行』として行われていた・・・考え方によって・・・資産査定を行うことをもって、・・・直ちに違法であったということはできない」

会計基準の国際化とIFRS 会計基準の国際化 企業・投資のグローバル化に伴い、決算の国際的な比較可能性の要請 2015/10/14 会計基準の国際化とIFRS 会計基準の国際化 企業・投資のグローバル化に伴い、決算の国際的な比較可能性の要請 ⇒国際会計基準(会計基準の統一)の要請 ※EU、アメリカ、日本はそれぞれ会社の財務構造が異なるので、それぞれが自国に有利な会計基準を利用しようとしている。たとえば、わが国の会社は国内株式市場の価格で業績が左右される度合いが大きい(株式の持ち合いが多い、退職年金の運用が国内株式)ことから、長期保有株式の時価評価は避けたいが、EUでは株式は時価評価すべきだとする

IFRS(International Financial Reporting Standards) 2015/10/14 IFRS(International Financial Reporting Standards) 意義 国際会計基準審議会(IASB)が制定した会計基準で、EU域内は2005年から強制適用。アメリカと日本は様子見(強制適用が検討されていたが見送られ、任意適用を広く認める) 特徴 プリンシプルベース 損益計算書中心主義→貸借対照表中心主義(「どれだけ儲けたか」→「どれだけの儲けを出せる実力があるか」) 「公正価格」を多用し、収益の源泉は何でも(例:試験研究費、のれん、経営者の手腕)資産計上される。一方で、時価評価、減損も多用

基礎商法2 第3回 商業使用人

企業の補助者の分類 代理 媒介 取次 支配人 特定事項委任使用人 従属 商業使用人 (雇用等) 物品販売店舗使用人 その他の商業使用人 企業補助者 従属 (雇用等) 商業使用人 支配人 特定事項委任使用人 物品販売店舗使用人 その他の商業使用人 独立 (委任等) 代理商 締約代理商 媒介代理商 仲立人 問屋等 企業の補助者の分類 代理 特定の商人の使用人 媒介 取次

商業使用人の意義 「『商業』使用人」の意義 商業使用人の分類 特定の商人に従属しその商業上の業務を対外的に補助する者 支配人 ※商法総則では、対外的な代理権に着目。代理権のない従業員は総則での商業使用人ではない。会社法においては従業員一般を指して「使用人」という(例:会2⑮) 商業使用人の分類 支配人 特定の種類・事項について委任を受けた使用人 物品販売店舗の使用人 その他の商業使用人 ※①~③は代理権について特別の規定。④は特別な規定は置かず、民法の代理の規定に従う

支配人 支配人の意義 営業主に代わり、その営業に関する一切の裁判上、裁判外の行為をなす権限を与えられた者(商21Ⅰ参照)〔通説〕 ⇒包括代理権の有無で区別 営業所(本店・支店)の主任者として任命された者(商24Ⅰ参照)〔有力説〕 ⇒営業所のトップとしての地位の有無で区別 上段=通説 下段=有力説 営業所の実態 実態あり 実態なし 代理権の範囲 制限なし 支配人 支配人ではない 制限有り 表見支配人

支配人の代理権 包括代理権 裁判上の代理権 商人に代わって、その営業に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限 「訴訟担当支配人」の権限 範囲は商号あるいは営業所によって画される(たとえば新宿支店長の権限は新宿支店の営業に関するものに限定) 裁判上の代理権 「訴訟担当支配人」の権限 債権回収に際して包括代理権を与えられていない従業員、取立業者を支配人に登記して訴訟行為を追行 絶対無効(多くの下級審裁判例) 本人の追認可(一部下級審裁判例・学説) 有効(一部学説〔弥永〕)

裁判外の代理権 代理権の制限 「営業に関する」 営業の廃止・変更 支配人の代理権の制限は善意の第三者に対抗できない(商21Ⅲ) 「営業に関する」行為か否かは、行為の性質等を勘案して、客観的・抽象的に判断(最判S54.5.1判時931-112) 営業の廃止・変更 営業自体の廃止や変更(営業の譲渡等を含む)は、「営業に関する」ことではないから支配人の権限外 代理権の制限 支配人の代理権の制限は善意の第三者に対抗できない(商21Ⅲ) 機能としては民110と同じだが、表見代理ではなく代理権の制限の対抗を認めないとの構成 相手方の主観として、「善意・無重過失」が必要。立証責任は商人側(商人が相手方の悪意・重過失を証明) ※包括代理権を支配人の要件とする立場に立つとほとんど使い道がない

支配人の競業避止義務 趣旨 支配人の権限に基づくものと、支配人の従属性に基づくものがある 禁止事項 支配人 営業 譲渡人 代理商 取締役等 業務執行 社員 競業避止義務 同一部類の営業 商23Ⅱ 商16Ⅰ 商28Ⅰ① 会356Ⅰ① 会594Ⅰ① 同一部類の事業を行う会社の取締役 等への就任 (商24Ⅳ) 商28Ⅰ② 会594Ⅰ② 禁止義務 商23Ⅰ 使用人への就任 商23Ⅲ 取締役等への就任 商24Ⅳ

(狭義の)競業避止義務 意義 要件 効果 広範な代理権、商人からの信頼等に鑑みて、商人に対して忠実に職務を行う義務があり、これを具体化 商人の営業の部類に属する取引をすること ※ここでいう「営業」は基本的商行為のみを指し、附属的商行為を含まない ※営業の部類に属する他の商人・会社の使用人、取締役等への就任についても規制 効果 本人たる商人の許可が必要 許可なく行為を行った場合には損害賠償。推定規定あり

営業禁止義務 意義 要件 効果 いわゆる精力分散防止義務。雇用契約から、あるいは支配人の地位から導かれる 自ら営業をすること 他の商人・会社の使用人となること 他の会社の取締役等になること ※①~③のいずれも、本人たる商人の営業との同一性は不要 効果 本人たる商人の許可が必要 許可なく行為を行った場合には損害賠償。推定規定あり

表見支配人 意義 要件 効果 支配人の外観を有する商業使用人の行為について、一定の場合に本人に責任を負わせる規定 外観法理の具体的な現れの一つ 民法109条、112条の特則として機能 要件 商人の営業所の営業の主任者たる名称の使用 ①の名称を商人が付した(=使用を許諾した)こと 相手方が善意・無重過失であること 名称の使用者が②の商人の使用人であること 効果 使用人は当該営業所の営業に関する一切の裁判外の権限を有する者とみなされる

論点 「営業所」の意義 営業の主任者であることを示す名称 名称の付与 相手方の信頼 表見支配人の権限の対象となる営業所は、営業所の実態を備えていなければならない(最判S37.5.1百-27) ※営業所の実態がない場所には支配人が存在し得ないから ※「営業所の実態」は、人的要素、物的要素、計算等の独立性を総合判断 営業の主任者であることを示す名称 ○ 支配人、支店長、営業部長等  × 支店長代理、庶務係長 名称の付与 明示の許諾のほか、黙示の許諾や黙認(商人が名称の使用を止めさせるべきであるのにこれを知りつつ放置)も含む 相手方の信頼 通説は相手方の善意・無重過失を要求

その他の商業使用人 特定事項委任使用人 意義 代理権 部課長クラスを想定(H17改正前は「番頭・手代」) 営業、仕入れ等の特定の事項についての業務を商人から委任された者 代理権 当該事項についての一切の裁判外の権限を有する 代理権の制限は善意の第三者に対抗不可 ※表見支配人のような規定はないため民法の表見代理、不法行為で処理

物品販売店舗の使用人 意義 店舗の従業員が店舗の商品の販売に関する代理権を有していないと顧客に不測の損害が生じる可能性があるため、代理権を擬制 代理権 当該店舗にある物品の販売等を行う権限(代理権)があるものとみなす ※物品が店舗にあることのほか、契約も店舗内で行われる必要がある ※使用人ではない店舗の店員(たとえば家電量販店におけるメーカー派遣店員)いついても類推適用 ただし、相手方が悪意の場合はこの限りではない