持続可能性と財政再建 財政学(財政学B) 第9回 畑農鋭矢
出所:OECD Economic Outlook 2010. 政府債務/GDP 出所:OECD Economic Outlook 2010.
債務・赤字指標の見方 ストック(債務)とフロー(財政赤字) 今期のストック =1期前のストック+今期のフロー 粗債務vs純債務 資産⇒借金と相殺できる? 純債務=粗債務-資産 隠れ借金:国鉄の債務問題 公的年金給付の将来負担
出所:OECD Economic Outlook 2010. 政府純債務/GDP 出所:OECD Economic Outlook 2010.
資料:内閣府『経済財政白書』平成13年度版. 暗黙の債務(1999年度、兆円) 公的部門 一般政府 公的企業 中央 政府 地方 社会 保険 基金 公的 金融 機関 非金融 法人企業 資産総額 2,274.2 891.3 220.9 434.5 235.9 1,382.9 1,214.7 168.2 金融資産 1,646.9 406.1 113.2 58.9 233.9 1,240.8 1,213.8 27.1 非金融資産 627.2 485.2 107.7 375.5 2.0 142.0 0.9 141.1 有形固定資産 425.8 326.7 82.2 243.1 1.4 99.1 0.7 98.4 負債総額 2,421.9 1,101.2 651.4 195.6 254.2 1,320.7 1,184.8 135.9 公債残 498.3 420.6 369.9 50.7 0.0 77.7 27.7 50.1 退職金債務 52.6 46.6 12.6 33.9 0.1 6.0 0.2 5.7 年金債務 424.4 155.8 36.8 231.8 - 正味資産 -147.7 -209.9 -430.5 238.9 -18.3 62.2 29.9 32.3 資料:内閣府『経済財政白書』平成13年度版.
政府債務の発散と収束 債務/GDP 発散 収束 時間
ドーマー定理(命題) 前提 財政赤字の対GDP比 a(一定) GDPの成長率 r(一定) t年の政府債務残高 Bt t年のGDP Yt 財政赤字(=債務の増加分) aYt 政府債務残高の対GDP比 bt(=Bt/Yt) btの動きは? 分母Yt 増加率 r(一定) 分子Bt 増加率 aYt/Bt=a/bt a/bt > r ⇒発散 a/bt ≦ r ⇒収束(or縮小)
政府債務残高 の増加率 a/bt = r ⇒収束 H a/bt r L O 政府債務残高の対GDP比 bt
ドーマー条件 (拡張されたドーマー命題) プライマリー財政赤字の対GDP比 b (一定) 国債の利子率 i ⇒利払い iBt 財政赤字(=債務の増加分) b Yt+iBt 政府債務残高の対GDP比 bt(=Bt/Yt) bt(=Bt/Yt)の動きは? 分母Yt 増加率 r(一定) 分子Bt 増加率 (bYt+iBt)/Bt=b/bt+i b/bt+i > r ⇒発散 b/bt+i ≦ r ⇒収束(or縮小)
経済成長率r >利子率iのケース H b/bt+i =r ⇒収束 L 政府債務残高 の増加率 b/bt+i r i プライマリー収支が黒字⇒縮小 O 政府債務残高の対GDP比 bt
経済成長率r <利子率iのケース H b/bt+i >r ⇒発散 政府債務残高 の増加率 b/bt+i i プライマリー収支がわずかに黒字⇒発散 r プライマリー収支が大きく黒字⇒縮小 O 政府債務残高の対GDP比 bt
経済成長率と利子率
日本の財政は危機的か? 反対意見(危機的でない) ①日本の政府規模は相対的に小さく、国民負担上昇 の余地が依然として大きい(返済能力が高い)。 ②民間の貯蓄残高が莫大で、財政にまわせる余剰 資金が潤沢にある。 ③以上の傍証として国債利回りが上昇していない。 賛成意見(危機的である) ①今後の社会保障負担が莫大である。 ②政治的に増税が受け入れられにくい。 ③既得権益により財政赤字が生じやすい。
財政再建をめぐる論争 経済成長 ドーマー条件:経済成長率>利子率 経済成長率の引き上げを重視 名目成長率=実質成長率+インフレ率 金融政策によるインフレ進行でもOK? 増税 経済成長率<利子率 プライマリーバランスの改善を重視 景気への悪影響をどのように考えるか?
2つのドーマー定理 2つのドーマー定理 (DC)経済成長率が利子率を上回れば財政は 破綻しない (DT)国債発行(財政赤字)がGDPの一定割合 であれば、財政は破綻しない。 DCはドーマー条件とも呼ばれる DTはDomar (1944)が示した
ドーマー条件のルーツ ルーツ論文 米原淳七郎(1979)「増税の論理」『税(ぎょうせい)』第34巻11号:4-18. 荒憲治郎(1980)「経済成長と公債依存度」,荒憲治郎ほか編『戦後経済政策論の争点』第13章,207-215. 派生した論文 野口悠紀雄(1980b)「赤字財政の意味を考える」『税(ぎょうせい)』第35巻2号:4-16ページ. 望月正光(1981)「ドーマー公債負担論の再検討―公債累積と財政破綻―」『経済と経済学(東京都立大学)』第46号:143-157ページ.
誰がドーマー条件を広めたか 修正ドーマーモデル ――(1984)「公債残高累増と我が国経済社会(財政制度審議会)」『ファイナンス』(財務省広報誌)19巻11号:31-37. ドーマー定理(DT)の成立要件として利子率と成長率の大小関係を指摘 =ドーマー条件(DC) ドーマー条件の育ての親は大蔵省!