工業力学 補足スライド ● 配布物:授業ノート 3枚 (p.37~48), スライド 2枚, 解答用紙 1枚 第6回:慣性モーメント Industrial Mechanics ● 配布物:授業ノート 3枚 (p.37~48), スライド 2枚, 解答用紙 1枚 (※ 6枚 1組になっています) 知能システム工学科 井上 康介 日立キャンパス E2棟801号室
注意事項 今回出題する宿題以降,学籍番号を 1枚目の左上に表記してください (アシスタント学生のソート作業の緩和のため) 確認:用紙サイズは A4版,複数枚に渡る場合は左上をホチキス留めすること. 18T○○○○ 提出日:○月○日 氏名:○○ ○○
回転体と重心 (パップス・ギュルダンの定理)
回転体と重心 (パップス・ギュルダンの定理)
パップス・ギュルダンの定理のまとめ 曲線を特定の軸周りに回転させてできる回転体の表面積は,曲線全体の長さを L,曲線の重心と軸との距離を d とすると,S = 2pdL である.これは,重心が軸の周りを1周する軌道の長さと曲線長の積 である. 平面上の領域を特定の軸周りに回転させてできる回転体の体積は,領域全体の面積を S,領域の重心と軸との距離を d とすると,V = 2pdS である.これは,重心が軸の周りを1周する軌道の長さと面積の積 である. L S G d d G 2pd 2pd
物体のすわり 物体のすわりがよいとか悪いとかいうとき,これは 物体の安定性 を言っている. ある状態に置かれた物体が安定であるか否かは,物体に微小な傾きを与えた時,物体がそのまま倒れるか,元の状態に戻ろうとするか によって,まずは判定できる. 微小に傾いたときに,物体が「戻ろうとする」か「もっと倒れようとする」かは,その時 発生しているモーメントが復元モーメントか転倒モーメントか によって決まる. そしてそのいずれが生じるかの条件は… 重心がもとの位置より上がる 復元モーメント (安定) 重心がもとの位置より下がる 転倒モーメント (不安定) 重心高さが不変 モーメントは発生しない (中立)
安定なすわり (stable) 物体を少し傾けると重心が上がる場合 重心にかかる重力 W と地面からの反力 R がつくる力のモーメントは,傾きを回復する方向の復元モーメント 戻ろうとする (安定)
不安定なすわり (unstable) 物体を少し傾けると重心が下る場合 重心にかかる重力 W と地面からの反力 R がつくる力のモーメントは,より傾ける方向の転倒モーメント もっと倒れようとする (不安定)
中立なすわり (neutral) 物体を少し傾けても重心高さが変わらない場合 重心にかかる重力 W と地面からの反力 R の作用線が一致し,モーメントが生じない 倒れようとも戻ろうともしない (中立)
慣性モーメント
剛体の運動を解析するには これまで扱ってきた質点の力学では, 質点の 並進運動 だけを考えれば良かった. 剛体の力学では, 物体が大きさを持つので 並進運動 だけでなく 回転運動 も含めて考慮する必要がある. 一般には,剛体は並進しつつ回転する. 並進運動の式 と 回転運動の式 を併用して解析する. 並進運動 (translation) 回転運動 (rotation)
回転運動の法則性:角運動方程式 並進運動を数理的に解析する上での基本式:Newtonの運動方程式 f = ma これにより「物体に作用する力 f 」と「物体の加速度 a 」との関係が分かるので,物体が受けている力が分かれば運動が予測できる. 回転運動に対して同様の法則性を記述するとすればどうなるか? 角運動方程式 (Eulerの運動方程式) このように,「物体が受けているトルク N」と「物体の角加速度 」との関係 が回転運動の法則性.
慣性モーメント Newtonの運動方程式をよく見れば,以下のことが言える. f = ma 力に比例して加速度は大きくなる. 質量に反比例して加速度は小さくなる. 質量とは「物体の動きにくさ (慣性)」を意味している. では,回転の運動方程式 (角運動方程式) ではどうか? 質量に対応しているのは I であり,角加速度 (回転の加速度) は,I に反比例している.つまり,I は「物体の回りにくさ (回転に関する慣性)」であり,これを 慣性モーメント (moment of inertia) と呼ぶ.
慣性モーメントに関する定性的考察 慣性モーメント I とは,回転に関する慣性 (回りにくさ) であった. では,どういうとき物体は回りにくいか? まず,形状が同じとすれば 質量が大きい とき回りにくいであろうことは直感的に分かる. また,以下の2つの物体が同じ質量だとしたとき… 回転軸近傍に質量が集まっている方が回しやすいっぽい 回転軸と質量との距離が大きい と回しにくい
慣性モーメントを定量的に求める 1 再び角運動方程式を見ると… 「物体全体の回転を角加速度 で加速させるのに 必要なトルク は である」と解釈できる. 物体を,微小部分 i (質量 mi,回転軸からの距離 ri) の集合体と考えると,全体の回転を で加速させるトルクは,各部分の回転を で加速させるトルクの合計である. 部分 i の軸まわりの回転を で加 速させるのに必要なトルク Ni を 求めて,これを合算した全体の 必要トルク N を で割った値が 慣性モーメント I である! mi ri
慣性モーメントを定量的に求める 2 部分 i の軸周りの回転を で加速するのに必要なトルク Ni を求める. 角加速度が であることから,部分 i の加速度は である.部分 i にこの加速度を与えるのに必要な力の大きさ fi は, である. fi は回転軸から部分 i までのベクトルに直交しているので,部分 i にこの力を与えるのに必要なトルクは である. よって,物体全体の回転を で 加速させるのに必要なトルク N はその総和であり, である. fi mi ri 慣性モーメント
(部分の質量)・(部分と軸との距離)2 慣性モーメントを定量的に求める 3 より, . より, . 微小部分のサイズ (質量) をゼロに持って行く極限を取ると,連続体に対する慣性モーメントの式が求められる. 連続体の慣性モーメントは,物体の微小部分を考え,その微小質量 dm と軸からの距離 r を求めて積分して求める. 慣性モーメント (物体の回りにくさ=回転の慣性) とは, (部分の質量)・(部分と軸との距離)2 を物体全体にわたって合算した値である
慣性モーメントを定量的に求める 4 例) 下記の細い (太さの無視できる) 長さ l,質量 m の棒を軸 L まわりで回転させるときの慣性モーメントを求める.ただし,線密度 (長さあたりの質量) を r とする (m = rl ). 軸 L から距離 x の位置に微小部分 (長さ dx ) をとると,その質量は dm = r dx である.先ほどの式に代入すれば,
慣性モーメントを定量的に求める 5 結合体の慣性モーメントはどうなるだろうか? 結合体の全体を で回すのに必要な トルクを N とする ( ). 右図のように,それぞれの部分を回す のに必要なトルクは以下の通りとする. 全体を回すトルクはそれらの和である.
慣性モーメントを定量的に求める 6 N = N1+N2 より,I = I1+I2. すなわち, 同様の議論から,慣性モーメント IB の物体から慣性モーメント IP の部分を抜いた後の慣性モーメントは,抜く前の慣性モーメントから抜いた部分の慣性モーメントを引いた値となる.
有用な定理 1:平行軸の定理 下図の物体 (質量 m ) を重心 G を通る軸周りで回す時の慣性モーメントを IG とするとき,G から距離 d だけ離れた点O を通る平行な軸周りで回す慣性モーメントはどうなるか.
有用な定理 1:平行軸の定理 回転軸が z 軸方向となるように以下のように G を原点として座標軸をとり,物体上の微小部分 (質量 dm ) を考える.微小部分の座標を (x, y)T とする.微小部分と G との距離を r,O との距離を r ’ とする.
有用な定理 1:平行軸の定理 点 O 周りの慣性モーメントは以下の通りとなる. r2
有用な定理 1:平行軸の定理 ここが差分! = 0 G 周りの慣性 モーメント IG 物体の全質量 = m 重心の x 座標と 有用な定理 1:平行軸の定理 G 周りの慣性 モーメント IG 物体の全質量 = m 重心の x 座標と 全質量の積 = 0 ここが差分! = 0
平行軸の定理 (parallel axis theorem) 有用な定理 1:平行軸の定理 平行軸の定理 (parallel axis theorem) 物体の慣性モーメントは 重心を通る軸周りが一番小さく, そこから離れるにしたがって d 2m だけ増加する. 重心を通るある軸周りの慣性モーメントが分かっていれば,この定理を使って,その軸に平行な任意の軸周りの慣性モーメントを簡単に求められる. 質量 m の物体の重心 G を通る軸周りの物体の慣性モーメントを IG とするとき,その軸から距離 d だけ離れた平行軸周りの慣性モーメントは,IG に d 2m を足した量となる.
有用な定理 2:直交軸の定理 厚みの無視できる平面板に下図のように座標軸を取り,この板を x 軸,y 軸,z 軸周りで回すときの慣性モーメントをそれぞれ,Ix,Iy,Iz とする.
有用な定理 2:直交軸の定理 微小質量 dm を座標 (x, y, 0)T に取るとき,z 軸周りの慣性モーメントは となる. = Iy = Ix
有用な定理 2:直交軸の定理 直交軸の定理 (perpendicular axis theorem) 有用な定理 2:直交軸の定理 直交軸の定理 (perpendicular axis theorem) 平面板上の任意の点 O を通り,板に垂直な軸周りの慣性モーメントは,平面内の O を通り直交する2軸周りの慣性モーメントの和に等しい.
特定物体の慣性モーメントを求める 以上の考え方を使って特定物体の慣性 モーメントを求められる. 例) 右図の物体の軸 L 周りの慣性モーメ ントを求める. 円柱や直方体の 重心周り の慣性モー メントは,積分の計算 により求まる. この計算の中で 直交軸の定理 を活用. ( 結果が教科書の表 6・1 に出ている) 平行軸の定理 を使えば,右図の 軸 L 周り の部分ごとの慣性モーメントが分かる. さらに,「全体の慣性モーメント=部分の慣性モーメントの和」であるから,求まった 部分ごとの慣性モーメントの合算 により全体の慣性モーメントが求まる. L