ロボット工学 第14回 インピーダンス制御 福岡工業大学 工学部 知能機械工学科 木野 仁

Slides:



Advertisements
Similar presentations
著作物の利用と使用 開 始開 始 再生時間:3分50秒. 著 作 権 法著 作 権 法著 作 権 法著 作 権 法 利用するには 皆さん、著作物の利用 と使用には区別がある ことを知っています か? 使用するには 作った人の許諾が必要 『著作物の利用と使用』 使うときのルールを 守る必要がある.
Advertisements

スイングバイを行う惑星 探査機軌道の再現 B 上杉耕玄. 目的・研究概要 スイングバイを再現するために 3 次元の運動方程式を ルンゲクッタを用いて解き, 精密な太陽系シミュレー タを作成した. 各惑星とパイオニア 10 号の初期位置と初期速度を打 ち上げの 1 ヶ月後,6 ヶ月後, スイングバイの.
第2回:力・つりあい 知能システム工学科 井上 康介 日立キャンパス E2 棟 801 号室 工業力学 補足スライド Industrial Mechanics.
1 関西大学 サマーキャンパス 2004 関西大学 物理学教室 齊 藤 正 関大への物理 求められる関大生像 高校物理と大学物理 その違いとつながり.
Determining Optical Flow. はじめに オプティカルフローとは画像内の明る さのパターンの動きの見かけの速さの 分布 オプティカルフローは物体の動きの よって変化するため、オプティカルフ ローより速度に関する情報を得ること ができる.
円線図とは 回路の何らかの特性を複素平面上の円で表したもの 例えば、ZLの変化に応じてZinが変化する様子 Zin ZL
本日のスケジュール 14:45~15:30 テキストの講義 15:30~16:15 設計レビュー 16:15~16:30 休憩
点対応の外れ値除去の最適化によるカメラの動的校正手法の精度向上
高度情報演習1A “テーマC” 実践 画像処理プログラミング 〜画像認識とCGによる画像生成〜 第四回 演習課題 画像中からの物体抽出処理(背景情報を手がかりとして) 芝浦工業大学 工学部 情報工学科 青木 義満 2006/05/15.
第11章 プレゼンテーションの基本スキル 1 プレゼンテーションとは 2 プレゼンテーションの種類と特徴 3 プレゼンテーションツール
CGアニメーションの原理 基本技術 対象物体の動きや変形の設定方法 レンダリング技術
電磁気学C Electromagnetics C 7/27講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
・力のモーメント ・角運動量 ・力のモーメントと角運動量の関係
コリオリ力の復習資料 見延 庄士郎(海洋気候物理学研究室)
ゲーム理論・ゲーム理論Ⅰ (第8回) 第5章 不完全競争市場の応用
情報技術と著作権.
情報検索演習 欠席者用第3~5回演習課題 2006年11月15日 後期 水曜4/5限 江草由佳 国立教育政策研究所
コンピュータ・リテラシ b 第12回 簡単な画像処理.
ソフトウェア工学 知能情報学部 新田直也.
共通科目「情報(実習)」 第7回 プレゼンテーション資料作成 標準表示中は矢印下でスライド移動
プロセス制御工学 6.PID制御 京都大学  加納 学.
工業力学 補足・復習スライド 第13回:偏心衝突,仕事 Industrial Mechanics.
退職記念講演 制御屋のロボット工学 立命館大学理工学部 前田浩一 2009年1月30日.
情報科学1(G1) 2016年度.
主人公だけでなく、 周りの人間の問題点も考えながら ドラマを視聴してください。
人工知能概論 第6章 確率とベイズ理論の基礎.
1.Atwoodの器械による重力加速度測定 2.速度の2乗に比例する抵抗がある場合の終端速度 3.減衰振動、強制振動の電気回路モデル
第 4 章 : 一般回路の定理 4.3 ノートンの定理 ノートンの定理 キーワード : ノートンの定理を理解する. 学習目標 :
3次元剛体運動の理論と シミュレーション技法
動力学(Dynamics) 運動方程式のまとめ 2008.6.17
前回の内容 結晶工学特論 第5回目 Braggの式とLaue関数 実格子と逆格子 回折(結晶による波の散乱) Ewald球
2003年度 データベース論 安藤 友晴.
高度情報演習1C 実践 画像処理プログラミング
二輪型倒立振子ロボットの製作 箱木研究室 T20R020 三留隼.
ロボティクス・メカトロニクスの基礎 東京大学 生産技術研究所 倉爪 亮.
電気回路学 Electric Circuits コンピュータサイエンスコース、ナノサイエンスコース4セメ開講 円線図 山田 博仁.
ロボット工学 第1回 マニピュレータを制御しよう
坂本彰弘(岡山天体物理観測所) 栗田光樹夫(京都大学)
ロボット工学 第6回 ロボット用アクチュエータ
ロボット工学 第7回 ロボット用センサ 福岡工業大学 工学部 知能機械工学科 木野 仁
蒸気タービンの流体設計の基礎 火原協大学講座 妹尾 茂樹 2018/5/19
人工知能概論 第2回 探索(1) 状態空間モデル,基本的な探索
垂直多関節ロボット 座標認識システムの構築
カオス水車のシミュレーションと その現象解析
電気回路学Ⅱ 通信工学コース 5セメ 山田 博仁.
電磁気学C Electromagnetics C 7/17講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
知能システム論I(13) 行列の演算と応用(Matrix) 2008.7.8.
動力学(Dynamics) 力と運動方程式 2008.6.10
AIを用いたドローンの 新たな姿勢制御方法に関する研究
LEGOを用いた倒立振子の 制御系設計に関する研究
桐蔭横浜大学工学部ロボット工学科 箱木研究室 T20R022 山下 晃
ロボット工学 第15回 まとめ 福岡工業大学 工学部 知能機械工学科 木野 仁
ロボット工学 第10回 力制御と作業座標系PD制御
コンピュータにログイン 第1章 コンピュータにログイン 啓林館 情報A最新版 (p.6-13)
情報検索演習 第1回補足資料 授業Webサイトをお気に入りに追加 2006年9月27日 授業資料をダウンロード 後期 水曜4/5限
逆運動学:手首自由度 運動学:速度、ャコビアン 2008.5.27
シミュレーション論 Ⅱ 第1回.
電気回路学Ⅱ エネルギーインテリジェンスコース 5セメ 山田 博仁.
電気回路学Ⅱ コミュニケーションネットワークコース 5セメ 山田 博仁.
発表会用テンプレート このテンプレートの枚数で発表をすれば、ほぼ15分で終了するであろう。
宿題を提出し,宿題用解答用紙を 1人2枚まで必要に応じてとってください 配布物:ノート 2枚 (p.85~89), 小テスト用解答用紙 1枚
今日は広告のポスターを調べます。.
円線図とは 回路の何らかの特性を複素平面上の円で表したもの 例えば、ZLの変化に応じてZinが変化する様子 Zin ZL
バネモデルの シミュレータ作成 精密工学科プログラミング基礎 資料.
物理学実験 II ブラウン運動 ー 第2日目 ー 電気力学結合系の特性評価 物理学実験II (ブラウン運動) 説明資料.
センサの基礎知識 メカトロニクス機械を作り上げるには,センサについての幅広い知識と経験が必要!.
力覚インタラクションのための 物理ベースモデリング
宿題を提出してください. 配布物:ノート 3枚 (p.49~60), 中間アンケート, 解答用紙 3枚 (1枚は小テスト,2枚は宿題用)
逆運動学(Inverse Kinematics) 2007.5.15
7-Zipのインストール (Windows 10)
Presentation transcript:

ロボット工学 第14回 インピーダンス制御 福岡工業大学 工学部 知能機械工学科 木野 仁 ロボット工学 第14回 インピーダンス制御 福岡工業大学 工学部 知能機械工学科 木野 仁 本サイトで提供されるコンテンツの著作権は,木野仁,谷口忠大,峰岸桃,(株)講談社にある. 非営利目的に限り,ファイルのダウンロード,印刷,複製,大量の印刷を自由に行ってよい. 講義や勉強会などで配布し,利用していただくのも大歓迎である.ただし,そうして作ったものを無断で販売することを禁止する. つねに最新版を配布したいので,ファイルのネット上での再配布も禁止する.

Information このスライドは「イラストで学ぶロボット工学」を講義で活用したり,勉強会で利用したりするために提供されているスライドです. 「イラストで学ぶロボット工学」をご購入頂けていない方は,必ずご購入いただいてからご利用ください.

STORY インピーダンス制御 「じゃあ,そろそろ帰るね.ダックくん帰ろう?」夕日が西の空に差しかかってきたころ,ホノカはおじいちゃんに言った. 「ほっほっほ.元気でな.ホノカも,ダックくんも.気をつけて帰るんじゃぞ」おじいちゃんもすっかりホイールダック2 号のことを好きになったようだ.おじいちゃんと話し続けるホノカより一歩先に,ホイールダック2 号が家を出ようと,ドアノブに手をかけたその瞬間「バキバキ!!」ドアノブが折れてしまいました. そう,ドアノブを開けるのはなかなか難しかったのだった.ホイールダック2 号に最後に求められたもの.それはインピーダンス制御だった.

Contents 14.1 ドアノブ問題 14.2 電気インピーダンスと機械インピーダンス 14.3 インピーダンス制御のイメージ 14.1 ドアノブ問題 14.2 電気インピーダンスと機械インピーダンス 14.3 インピーダンス制御のイメージ 14.4 インピーダンス制御の方法 14.5 コンプライアンス制御

14.1.1 はじめに 位置制御と力制御だけでは,ロボットが外部環境に対して行動をするとき,さまざまな不確定要素や誤差の影響から,その外部環境を破壊してしまう場合がある. 特に,ロボットが人間と協調作業するときは,人間に危害を加える恐れがある.このような問題点を解決する方法の1 つとしてインピーダンス制御について解説する.

14.1.2 ドアノブ問題の整理 ドアはちょうつがい蝶番で壁と接続されており,蝶番を中心として回転運動をする. 物理情報が正確に得られない場合に,マニピュレータにドアノブの軌跡を描かせようとしても,図のように結果的に生成される手先軌道はドアノブの軌跡とは異なり,ドアが破壊されてしまう.

Contents 14.1 ドアノブ問題 14.2 電気インピーダンスと機械インピーダンス 14.3 インピーダンス制御のイメージ 14.1 ドアノブ問題 14.2 電気インピーダンスと機械インピーダンス 14.3 インピーダンス制御のイメージ 14.4 インピーダンス制御の方法 14.5 コンプライアンス制御

インピーダンスとは必ずしも電気インピーダンスのみを意味しない.ここで言ういうのは機械インピーダンスのことである. 機械インピーダンスと電気インピーダンスの微分方程式には極めて強い類似性が成り立つ. 機械インピーダンスとは,簡単に言えば,質量・バネ・ダンパの組み合わせのこと.これは「外力Fをシステムに与えた際に,どの程度の速度 を生じるか」を示しており,外力に対する「物体の動きやすさ」を示している.

Contents 14.1 ドアノブ問題 14.2 電気インピーダンスと機械インピーダンス 14.3 インピーダンス制御のイメージ 14.1 ドアノブ問題 14.2 電気インピーダンスと機械インピーダンス 14.3 インピーダンス制御のイメージ 14.4 インピーダンス制御の方法 14.5 コンプライアンス制御

インピーダンス制御とはマニピュレータの見かけの機械インピーダンスの量を制御する. 図のように,ホイールダック2 号@ホームがおじいちゃんと握手をしようとする.マニピュレータにインピーダンス制御を実装し,見かけの質量・バネ・ダンパの値を十分小さくできたとする.この場合には,おじいちゃんが外部からマニュピレータを上下に振ると,マニュピレータは外力を受けて,まるで人間の腕のように柔軟に動くことができるのである.

Contents 14.1 ドアノブ問題 14.2 電気インピーダンスと機械インピーダンス 14.3 インピーダンス制御のイメージ 14.1 ドアノブ問題 14.2 電気インピーダンスと機械インピーダンス 14.3 インピーダンス制御のイメージ 14.4 インピーダンス制御の方法 14.5 コンプライアンス制御

14.4.1 はじめに インピーダンス制御は,大きく分けて力制御ベースのものと位置制御ベースのものがある. 図のような並進1 自由度の関節をもつマニピュレータにインピーダンス制御を実装することを考えてる. 必要に応じてセンサを用いて変位,速度,加速度,外力 などがリアルタイムに計測できるものとする.

14.4.2 力制御ベースの インピーダンス制御 加速度,速度,変位 の情報は,センサを用いて,リアルタイムに計測されているとする. 14.4.2 力制御ベースの            インピーダンス制御 加速度,速度,変位 の情報は,センサを用いて,リアルタイムに計測されているとする. 式(14.8)の制御を与えることで,式(14.9) より,加えられた外力FE に対し,結果的に生じる運動が目標の機械インピーダンスを実現できる. ただし,式(14.8) は極めて理想的な状態での制御法である.実際のハードウェアに適用する場合には,ハードウェアの条件に応じて制御式を改良したものを利用する.

14.4.3 位置制御ベースの             インピーダンス制御 マニピュレータは短い時間の間隔Δt(サンプリング時間)で処理を行っているものとする.与えられた外力に対し,目標の機械インピーダンスを有した場合の,次回のサンプリング時の理想的な変位と速度を計算しておく. 理想的な変位と速度を目標値として,それを実現するようにアクチュエータを用いて位置制御を行う.

Contents 14.1 ドアノブ問題 14.2 電気インピーダンスと機械インピーダンス 14.3 インピーダンス制御のイメージ 14.1 ドアノブ問題 14.2 電気インピーダンスと機械インピーダンス 14.3 インピーダンス制御のイメージ 14.4 インピーダンス制御の方法 14.5 コンプライアンス制御

要求される運動によっては,見かけのバネ特性のみを変更すれば良い場合も多い.これをコンプライアンス制御あるいは剛性制御と呼ぶ. コンプライス制御では,必ずしもコンピュータプログラムによって制御する方法ばかりでなく,図のように,実際のバネをマニピュレータ内部に仕込み,ハードウェアを用いて制御する方法もある.

章末問題

第14章のまとめ