日語誤用分析 (大学院) 5月 16 日(月・一)~ 担当 神作晋一
第8章 言語習得に及ぼす年 齢の影響 1. 外国語は早くから始めたほうがいいのか 1.1 「臨界期」という考え方 1.2 年齢の影響について、ある程度わかっている こと 1.3 なぜ年齢が外国語習得に影響するのか 2. 子どもは二つの言語をどう習得するのか 2.1 バイリンガリズム 2.2 子どもはどんな言語能力を身につけなければ ならないのか 2.3 二つの言語が助け合うという考え
第8章 言語習得に及ぼす年 齢の影響 習得の進行に個人差がある 速い人もいれば 遅い人もいます 専門分野の習熟とかかわらない 学習の個人差(年齢要因、年少児の注 意など)を考えてみる。
1. 外国語は早くから始めたほ うがいいのか 1.1 「臨界期」という考え方 1.2 年齢の影響について、ある程度わか っていること 1.3 なぜ年齢が外国語習得に影響するの か
1.1 「臨界期」という考え方 言語は早くから始めたほうがいい? 小学校英語教育に関する議論 臨界期仮説 臨界期( critical period ) 生物がある特性を獲得するための学習が成 立する限られた期間 ※鳥の雛の例 「その期間を過ぎると外国語の習得が難し くなる期間」 例:思春期を過ぎるとつらい、 12 歳くらい まで 言語形成期
1.1 「臨界期」という考え方 臨界期:意見が分かれる 年齢の影響はありそう: 例:駐在員の親子の例、子どもはペラペラ 例:こどもでも年齢次第のところがある 臨界期の影響かどうかはわからない どのくらいの程度なのか → 今のところは「徐々に」と考えるしかな い
1.2 年齢の影響について、ある 程度わかっていること 年齢:第二言語習得への影響 音声の習得は年齢の影響が大きい 大人:母語にない音の聞き分けの難しさ、発音 やアクセントに母語の影響が残る 個人差はあるが、ネイティブと全く同じにはな らない → かぎりなく近づくことはできる 「 Older is faster ; younger is better. (大人の方 が早いが、子どもの方が優れている)」 大人は分析能力と認知能力が高いが、あとでこ どもに追い越される。
1.3 なぜ年齢が外国語習得に 影響するのか 脳神経科学的な説明 脳の働き、機能との関係(言語を習得する部 分) 認知的な面 大人は抽象的分析能力がある 子どもは無意識で自然な言語習得 心理的な面 人見知り 自意識の発達した大人 新しい環境や第二言語環境に溶け込めなかった り、あえて溶け込まないようになるなど
1.3 なぜ年齢が外国語習得に 影響するのか 母語習得により、第二言語習得がしにくく なる 母語習得に関係のない音の区別は無視するよう になる(例:RとLなど) → 効率化のために 下の動かし方や口の周りの筋肉など 母語のフィルターFilterを通して(音声 や文法などを)見ることになる
1.3 なぜ年齢が外国語習得に 影響するのか 「生物学的な」要因かそれとも別の要因か → 意見が分かれる → 複合的な要因 記憶力の問題 高校生くらいが分岐点?(大学受験への問題) 30 歳を過ぎると処理速度が遅くなる?
2. 子どもは二つの言語をどう 習得するのか 2.1 バイリンガリズム 2.2 子どもはどんな言語能力を身につ けなければならないのか 2.3 二つの言語が助け合うという考え
2. 子どもは二つの言語をどう 習得するのか 小さいころから外国語を学ぶ → 「バイリンガル」への憧れ? 簡単ではない⇒問題が起こる可能性 日本国内:日本語を母語としない児童 (小 学生) 、生徒 (中高生) の急増 → 点在している、固まっていない → 対応する教師の不足、制度の不備など → 上記以外にも問題が …
2.1 バイリンガリズム (2言語 使用) 社会あるいは個人が二つの言語を使用するこ と 人については「バイリンガル」 ⇔「モノリンガル」一つの言語しか使用しない ⇒一般的には、ネイティブスピーカーレベルの人 をイメージする ⇒専門用語(術語)では、さまざまなタイプの2 言語使用者を含む。
2.1 バイリンガリズム (2言語 使用) 均衡バイリンガル( balanced bilingual ) 両方の言語が同じくらい 偏重バイリンガル( dominant bilingual ) どちらかが高い場合 同時バイリンガル( simultaneous bilingual ) 両方の言語を同時に習得 継起バイリンガル( sequential bilingual ) どちらかが先で、あとからもう一つ
2.2 子どもはどんな言語能力 を身につけなければならない のか 日常言語能力 ( BICS : Basic Interpersonal Communication Skills ) 日常会話など 1~2年くらいで身に付くといわれる 認知学習言語能力 ( CALP : Cognitive Academic Language Proficiency ) 読み書きや複雑なディスカッシ ョンなど 年齢相応のレベルまで5~6年かかる 見かけの外国語能力に惑わされない
2.3 二つの言語が助け合うと いう考え CALP ⇒どちらかの言語で発達させればよい 2言語基底共有説 → 別々に発達するわけではなく → それぞれの言語に共通する部分は共有され て発達していくという考え 水面下(点線の下)がCALP。一つの言語 で身につければもう一つの言語に転移する。
2.3 二つの言語が助け合うと いう考え 共有基底言語能力 第一言語の表層的特徴第二言語の表層的特徴 図2 2言語基底共有説 Cummins ( 1981,P.24 をもと に作成)
2.3 二つの言語が助け合うと いう考え 必要な技能はそれぞれの言語で別に習得 するべき。 読む能力そのものはゼロからする必要は ない。 自分の母語で持っている概念に第二言語 の新しい語を結びつければいい。
2.3 二つの言語が助け合うと いう考え 例:6歳くらいの非母語話者が来て授業 を受けていてもCALPが発達するわけ ではない。 CALPが発達せずに大人になってしま う → どちらの言語でも複雑な言語を話したり難 しいものを書いたり読んだりできなくなって しまう。 → BICSが育つにも1~2年かかる → 初めから日本語でCALPを育てるのは難 しい → 子供の母語を使った教科支援ができるのが 望ましい
2.3 二つの言語が助け合うと いう考え カミンズ:敷居仮説(閾仮説) 二段階の敷居(閾) 両方の言語の発達が上の敷居を越えれば認知 発達にプラス → モノリンガルよりも有利 どちらの言語も下の敷居を超えられない場合 、認知的にマイナスとなる → 十分に発達しない ↓ ダブル・リミテッド・バイリンガル (リミテッド・バイリンガル) limited
2.3 二つの言語が助け合うと いう考え ダブル・リミテッド・バイリンガル の問題 → どちらの言語も CALP が育たない(下の敷居 を越えられない) カミンズ「発達相互依存仮説」 → 子どもの第二言語は第一言語が発達してい れば発達しやすく、未発達なら発達しにくい 母語による教育支援 → 両方の言語を育てる(日本語+母語) ※永住するわけではない
第8章のまとめ
まとめ 1.年齢の影響(大人と子ども) 「 Older is faster ; younger is better. (大人の方 が早いが、子どもの方が優れている)」 2.臨界期 生物学的な要因かどうかは議論が分かれる 3.二つの言語能力 日常言語能力( BICS ):1~2年くらいで身に 付くといわれる 認知学習言語能力( CALP ):年齢相応のレベル まで5~6年かかる
まとめ 4.言語基底共有説 CALPはどちらかの言語で発達させればいい。 どちらの言語も発達しなかった場合、難しい処 理がどちらの言語でもできなくなってしまう (ダブル・リミテッド)の可能性がある。 5.母語支援・保持 第二言語教育+母語による学習支援や母語保持 が必要。