教育夏まつり2010 平成22年8月7日 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校 小児科医からのアドバイス ADHD児・LD児への支援 ー行動・さんすうを中心にー 全国重症心身障害児(者)を守る会 三宿診療所 所長 小児科医 武田 洋子 1
今日お伝えすること 発達障害とは・・・ ・そしてADHD・LDとは・・・ ADHD・LD児の行動と学習において 発達障害とは・・・ ・そしてADHD・LDとは・・・ ADHD・LD児の行動と学習において ・子どもたちの困難・上手なコントロール法 ・さんすう学習の目標と、心がけたいこと ・わからない子へのサポート法 ・社会生活にむけてのさんすう ・学習環境の選択 先生方への願い
発達障害の現れ方(宮本) ●遅れ:できるようになる年齢が通常より遅い ・例)精神遅滞 ●偏り:認知や行動の質・量が通常の幅をこえている ・例)精神遅滞 ●偏り:認知や行動の質・量が通常の幅をこえている ・例)行動面→注意欠陥多動性障害(ADHD) ・例)学習面→学習障害(LD) ●歪み:通常見られない行動が反復して見られる ・例)広汎性発達障害(PDD)・・自閉症の仲間 知的障害(-)・・・高機能自閉症 歪み:通常見られない行動が反復して日常的に見られる 3
発達障害の相互関係 ●生来性の素因による ●似ていることも、一緒にみられることもある ●「そっくりさん」が存在する 例)被虐待 愛着障害 例)被虐待 愛着障害 ●学習:「遅れ」への対応法が 「偏り・歪み」には不十分 (注意欠陥・多動性障害) ADHD MR (精神遅滞) LD (学習障害) HFA (高機能自閉症) 育て方、環境、心因によるものではない。そっくりさん:素因を本質としない。遅れ:その年齢相当の課題と目標を与えることで、対応できる。 4
注意欠陥・多動性障害(ADHD)の基本症状 注意力障害 集中しない 気が散る・・・ケアレスミス よそ見 上の空 人の話を聞けない・・・・・・指示や連絡が届かない 忘れっぽい 物をなくす・・宿題をしない 消しゴムなどをなくす 多動性 落ち着きなくじっとしてない・・・離席 手足や体を動かす 過剰に話す ・・・・・・授業中でも話しかける 向こう見ず ・・・・・・・・・・・危ないことを平気でする 高い所に登る 衝動性 ブレーキがきかない ・・・会話や遊びに割り込む 待てない ・・・・・・・順番を待てない 質問の途中で答え出す
ADHDのコントロールにむけて 1. 基本症状のコントロール ●注意力障害・・・・すっきりした学習空間 (×貼り紙・置物) ●注意力障害・・・・すっきりした学習空間 (×貼り紙・置物) 席は、先生の近く (×窓際・廊下側) 一度に1つ、見える・消えない指示を 上手な時間設定→45分より15分を3回 ●多動性・・・・・・動ける時間を用意(お道具の用意・配布) メリハリのあるスケジュール 「見直し」よりも「もう一度」方式で ●衝動性・・・・・・理由より希望を聞いて →「そういう時は、こうしようね。」 タイムアウト
ADHDのコントロールにむけて 2. 行動の自己修正へのサポート ADHDのコントロールにむけて 2. 行動の自己修正へのサポート ・ コーチ役のキーパーソンを設定 例)「順番守ろうね。」「この問題やるんだよ。」 ・黒板にイエローカード、机に集中カードなど (×「こら・・!」) ・係・日直の仕事で役割を果たす体験を ・具体的にほめる 例)「○○してくれてありがとう。」 ・ねぎらいを惜しまない 例)「給食当番ごくろうさん。」 ・いけないことは、味方になって教える。 例)「騒いだら、みんな困るよね。」 ・・・責めずに、一般常識として 学力や作業で、達成感を。ねぎらわれることで、大切にされているという思い→誰かを信頼できる力 7
・お使い・お手伝いを頼もう ⇒ ほめ言葉・ねぎらいを ・交通機関を使う練習 ・冠婚葬祭への参加 4. 子どもは大切な存在というアピールを ADHDのコントロールにむけて 3.目標と達成感を ・お使い・お手伝いを頼もう ⇒ ほめ言葉・ねぎらいを ・交通機関を使う練習 ・冠婚葬祭への参加 4. 子どもは大切な存在というアピールを ・家族一緒の食事 ・誕生日を祝う トークンエコノミー 6. ペアレントトレーニング
ADHDのまとめ なぜ、このような対応が必要か? ★心理特性 モニター機能の弱さ フィードバック機能の弱さ ★心理特性 モニター機能の弱さ フィードバック機能の弱さ 周囲が上手にコントロールしないといけない ★最終目標 自尊心の回復と維持 何をしなくても、自分がそこにいていいと思える気持ち ゆるぎない自分 ≒居心地の良さ 人生のセイフティ ネット 生きていることを あたり前と思える
学習障害(LD) ●Learning Disorders ・・・読字、書字、算数能力の問題に限定 ・1領域以上の習得・使用の障害 ・・・読字、書字、算数能力の問題に限定 ・1領域以上の習得・使用の障害 ・ふつうの子と境界はない ・動作性LDと言語性LDは、つまずき方が違う 例)読み・書きの困難 動作性LD:文字の姿・形を認識できない 言語性LD:意味的な理解ができない 違うサポート法が 必要
発達障害児のさんすう・・・めざすこと 目標 1. お金の計算ができること⇒家計の管理・経済観念 高い・安い 相場感覚 おつりの計算 目標 1. お金の計算ができること⇒家計の管理・経済観念 高い・安い 相場感覚 おつりの計算 およその計算 2. 時計が分かること⇒社会人として約束を守るために 見通しを立てるために 例 使い方 ○ボトムアップ;計算を習得⇒買い物へ ◎トップダウン;買い物を実践⇒やりとりや計算を習得 ・・・体験的にスキルの獲得を およその計算;行書・草書
発達障害児のさんすう・・・大切なこと 数の機能 記録数として・・在庫・金額・計測値など 計算数として・・数量の違いや変化を扱う 数の機能 記録数として・・在庫・金額・計測値など 計算数として・・数量の違いや変化を扱う 数値処理のために 位どりによる表記 0の使用 が有用 さんすうの理解の鍵・・・「十進法」という法則の理解 10ごとのまとまり 0の意味と機能 数量としてわかる→まとまり感覚→計算につながる 序数としてわかる→数え足し × まとまり感覚 数を読む 105 2030 数直線を読む・分かる 12
1. 数量の理解から計算へ ◆ 物や人は数えることができる→数字で表すことができる 具体物 半具体物 数字 2 具体物 半具体物 数字 2 ◆ 5、10のまとまり中で、補数を意識しながら数をとらえる ◆ 仲間ごとの数と、数の保存の理解 ●●●●● ●●●●● ○○○○ ○ ○ ○ ○ ◆ 0の意味・役割の理解 ⇒ 操作法の習熟 序数より数量 自閉の子は、斜めの線をひくことに抵抗 3で割ってのクラス分け
2. くり上がり・くり下がり かぎ・・10のまとまりの理解ー10の合成・分解の習熟 例)8はあといくつで10? 2. くり上がり・くり下がり かぎ・・10のまとまりの理解ー10の合成・分解の習熟 例)8はあといくつで10? △(1) 9、10 だからあと2・・・・・数えたし ○(2) 8+2=10 だからあと2・・・・・まとまりごとのたし算 ◎(3)10-8= 2 2たりないからあと2・・補数を出すひき算 10のタイル、たまごのパックなどで、10のまとまりの中で、 数をとらえていく習慣を。 お金の両替の練習を。① ① ① ① ① ① ① ① ① ① ⑩ できるだけ(2)までを理解させたい。できれば(3)へ。
3. 複数桁の計算・・・位どり 十 一 □ 3 6 + 2 5 ★特に力を入れたいこと 手順を短く書いてあげて下さい。・・・消えない情報にしてあげる 例 十 一 □ 3 6 + 2 5 ★特に力を入れたいこと ・0をたす、たして10になる ・0からひく、0をひく ●①一の位をたす。 ②くり上がるか、チェック。 ③くり上がるときは、十の位 の上に1を書く。 ④十の位の数をたす。 ←位どりを書く ←くり上がりの数のらん ←桁をそろえるガイドライン 0をとまどうことなく操作できるようにしておく。
4. たし算からかけ算へのつなぎに・・・ 10が 3こ→ 30・・わかりやすい 3が10こ→ 30・・わかりにくい 滝のたし算 滝のひき算 ・10個たすと、位が一つ上がる 10が 3こ→ 30・・わかりやすい 3が10こ→ 30・・わかりにくい 計算に慣れる中で、しっくり理解 ・3→30 となるかで、自己診断可能 ・大きい数にも応用できる 206を10回などで、0にも慣らせる 3 +3 30 - 3
5. かけ算と九九① ・「一あたりの量×いくつ分の数」の意味理解←たし算から ・九九を覚えるために ・かけ算の前に必要なこと 仲間分け 何個ずつのたし算 ・「一あたりの量×いくつ分の数」の意味理解←たし算から 数直線を使えるように 0 10 20 ・九九を覚えるために 動作性LD ○歌で覚えるなど 言語性LD ○分りやすい例を絵で示す
②つまずきやすいこと(特に言語性LD) ・「○個ずつ」の意味理解 例)みかんとりんごが3個ずつあります。合わせて何個ですか。 3+3=6 → 3×2=6 ・「5と2をたした数」と、「5を2回たした数」の読み分け ヒント→ 「どっちが5+2?どっちが5+5?」 「かけ算にできるのは、どっち?」 ・1ふくろ5まいいりのクッキーが3ふくろあると、全部で何まい? 使う数と使わない数 たし算かかけ算かの読み分け ヒント→「絵をかいてみて。」 単位(まい・ふくろ)に注目 どっちが5+2? どっちが5+5? じゃあ、どっちが5×2
6. わからない子へのサポート 1)計算ができない子 ・数量的理解が不足 ・記憶力の弱さ・・・・・・できるけれども遅い 暗算ができない 暗算ができない 九九を覚えない 1まいに少なくすっきり、短時間で 2)文章題・応用問題ができない子 ・上手に読めなくて、分からない・・LD ADHDに多い ・読めるけれども、分からない・・・・PDDに多い 絵や図で、ビジュアルに 手を使う、操作性を取り入れる 100マス計算は 裏わざで 詳しい説明はあだ 半分は、数量的理解ではなく、国語力の不足による。 読めない:LD 読めるけれども:PDD イメージ力が弱い 高学年の子には字を小さく 分数・小数の設問
7. 社会生活にむけてのさんすう お金の計算ができるように お金を理解のたすけに 両替・・・十進法の理解へ お金の計算ができるように お金を理解のたすけに 両替・・・十進法の理解へ 金額分のお金を揃える 30円 120円 105円・・ 高い・安い 105円と98円、安いのは? おつり ★およその計算 例 89円と94円には、100円玉2個出そう 30円のものを、100円で何個買えるか ・・・数感覚を身につけて ボトムアップとトップダウン・・・子どもにあわせて 電子マネーの使用も視野に
・一人で何でもできることではなく 子どもたちの目指すべきこと(宮本) ・自分のできること・苦手なことを知っていて ・解決や処理のために ・一人で何でもできることではなく ・自分のできること・苦手なことを知っていて ・解決や処理のために ①どうしたらいいか ②誰に相談したらいいか を知っている それができる ・できることは、自信をもってやれる(武田) スイッチがオンになる。社会で生きていくために、理解と支援が必要。 大きな可能性を秘めている。 21
学習環境を選ぶポイント 学習に取り組めるか 参加できるか 学習の積み上げが可能か 将来の役に立つ学習ができるか 居心地良くすごせるか 学習に取り組めるか 参加できるか 学習の積み上げが可能か 将来の役に立つ学習ができるか 居心地良くすごせるか 2学年以上の遅れ⇒別の目標・メソードを考慮 普通学級以外の環境も視野に 学力以外の特性にも配慮・・・対人関係・こだわり他
いじめについて いじめる子の心理 ふざけていただけで、いじめたつもりはない。 悪気はないから、自分は悪くない。 悪気はないから、自分は悪くない。 いじめられる方にも原因がある。だから、いじめられる方が悪い。 理解を促すべきこと 相手がいじめられたと感じたことは、確実ないじめである。 相手に原因があっても、いじめていいことにはならない。
ⅰ)行動や対人関係を、学力のフィルターで見ない 医療者・教育者が心がけたいこと・・・人格の尊重 ⅰ)行動や対人関係を、学力のフィルターで見ない ⅱ)がんばるよりも自然体 ⅲ)みんなちがって、みんないい(金子みすず)