本章の学習目標 1.精神に障害のある対象者への援助を進めるにあたり,援助の特徴と,なぜそのようにするのかがわかったうえで,具体的な方法を考えられること. 2.精神に障害のある対象者は,病的な体験のために部分的に日常生活に支障を来たす場合が少なくない.生活を通じて,自己のあり方や生活スキルの見直しが求められる.日常の生活が治療的な環境として大きな意味をもち,またそこで援助を行う看護師も治療的な環境の一つであることを理解する. SAMPLE ○第2章で学習することは大きく分けて2つ 1.精神に障害のある対象者への援助を進めるにあたり,援助の特徴と,なぜそのようにするのかがわかったうえで,具体的な方法を考えられること. 2.精神に障害のある対象者は,病的な体験のために部分的に日常生活に支障を来たす場合が少なくない.生活を通じて,自己のあり方や生活スキルの見直しが求められる.日常の生活が治療的な環境として大きな意味をもち,またそこで援助を行う看護師も治療的な環境の一つであることを理解する. 説明 ○この学習目標に沿って,5回に分けて皆さんと考えていく.
学習目標 1.コミュニケーションの種類とそれぞれの特徴が理解できる. 2.精神症状がコミュニケーションに影響を与える要因がわかる. 3.精神科におけるコミュニケーションの基本を理解できる. SAMPLE 学習目標 1.コミュニケーションの種類とそれぞれの特徴が理解できる. 2.精神症状がコミュニケーションに影響を与える要因がわかる. 3.精神科におけるコミュニケーションの基本を理解できる. 説明 ○本章の学習目標の2.で,援助を行う看護師も治療的な環境の一つであることを説明したが,ここで「治療的関わり」について考える.
資料映像:精神科看護におけるケアの方法 SAMPLE
コミュニケーション 情報交換の手段 ・言語的コミュニケーション 話し言葉,書き言葉 ・非言語的コミュニケーション 視線・表情・身振り手振り・話し方 SAMPLE 説明 ○コミュニケーションとは情報交換の手段であり,対人関係を形成するものでもある.情報の大半は非言語的コミュニケーションが占める.人と関わる場面でキャッチされるすべてのことを意味する.つまり,非言語的コミュニケーションとは,五感を使って感じられるすべてのことである. ○どのような人の行動にも何かしらの意味がある. 沈黙そのものにも意味がある. 非言語的コミュニケーションは,みかたや感じ方によって,受け取り方は違ってくる可能性がある.
精神症状 陽性症状 もともと存在しない症状の出現 幻覚・妄想,興奮,思考の障害 陰性症状 あったものが失われていく症状 意欲低下,感情の平板化,思考の貧困化 SAMPLE 説明 ○陽性症状とは,幻覚や妄想,非常な興奮や思考障害など,今までなかったものが症状として現れる. ○妄想は訂正不可能な誤った考えではあるが,すべてが誤っているとは限らない.内容そのものは理にかなっている場合もある.また,妄想の内容について,本当にあることかどうか対象者自身も疑問をもっていることも少なくない. 妄想の話の内容を理解しようと試みても難しく,コミュニケーションに影響を与える要因はここにある.しかし,話の内容から,対象者が今どのような考えに支配されているのかを考えることはできる. ○陰性症状とは,感情の平板化・思考の貧困化・意欲の低下.感情の平板化とは,感情の表現が極端に少ないか,あるいは外見上,欠落しているようにみえる状態. ○陽性症状は今までなかったものが症状として現れるが,陰性症状はもともとあったものがなくなってしまう症状.
SAMPLE 病識 自分が病気で治療の必要があることがわかっている. 説明 ○ここに書かれている「病識」というのは,自分が病気で治療の必要があるという意味. ○精神疾患が他の疾患と考え方がやや異なる点は,検査の値が基準を越えているから異常であるとか,身体のある部分に明らかな病変があるわけではないということにある. ○病気であることを自覚する根拠がなかなかみつからないため,精神科で診断を受けても,本人が認めようとしない場合もある.また,自分は病気であるという説明を受けて自覚しても,治療が始まってみると本人にとっては不快となる治療も多く,その後の治療に対し了解が得にくい.本人の状態が理解されていないと,医療スタッフとの認識にずれが生じる.
精神疾患の病識の欠如 ・客観的な視点が少なく(検査値など),どこをもって疾患とするかということがわかりにくい. ・身体のある部分に明らかに病変があるというわけではない. ・ゆえに本人が病気であるということを自覚する根拠がなかなかみあたらない. SAMPLE 説明 ○自分はどうなるのか,どんな治療を受けるのかなど,治療が必要な本人自身がわかっていないと,安心して治療を受ける気にはなれない.状況に応じて,適切な立場のスタッフが説明を進めることが重要である. ○テキストに書いてあるように簡単なことではないが,根気よく説明をしていくことが求められる.
SAMPLE 対人関係の体験の少なさの理由 ・若年で発症することが多い. ・その時期は大きなライフイベント(学生から社会人へ結婚)がある.本来,そこで習得していく対人関係や対処方法を,体験を通して学ぶ機会がない. ・機会の少なさから,何か起きたときに対応することに困難が生じる. SAMPLE
SAMPLE 精神障害者のコミュニケーションの特徴 ・話の内容がよくわからない. ・話が続かない. ・黙って立ち去ってしまう. ・何を話してよいのかわからない. SAMPLE 説明 ○学生が精神障害者との関わりの中で感じることは,「話の内容がよくわからない」,「話が続かない」,「何を話してよいのかわからない」ということもある. ○どうすればよいかという方法論の前に,対象者の置かれている状況を知ることが必要である. ○精神を障害されているということは,何らかの対人関係の障害をもっている.つまり,どのように相手に向き合ったらよいのかわからなかったり,自信がなかったりする.幻覚妄想などの精神症状の著しいときは,現実的な話をすることが難しい.
SAMPLE 患者の状況として考えられること ・何らかの対人関係の障害をもっている. ・どう話しかけたらよいのかわからない. ・自信がない(話したい,接したい気持ちをうまく表せない). ・相手の話に合わせて話をするほどの気持ちの余裕がない. ・現実的な話に合わせることができない. ・抗精神病薬の副作用がつらい. ・うまく伝えられなくて嫌われたらどうしよう. SAMPLE 説明 ○患者とコミュニケーションをとる際に,このような状況が考えられる.これらのことを理解して患者と関わる必要がある.人と接して傷ついた体験をもっている人が多いため,対人関係に自信がないという背景を理解する.
SAMPLE コミュニケーションの基本的姿勢 受容;あるがままの相手を受け入れる態度.批判・評価をしない. 共感;相手の感情に寄り添い,内面から理解しようとする. 傾聴;相手が伝えようとしていることを意識して聞こうとする. SAMPLE 説明 ○コミュニケーションの基本的な姿勢には,「受容」「共感」「傾聴」が挙げられる. ○受容とはあるがままの相手を受け入れる態度.患者の訴えに現実性や存在自体がないとしても,実際にそのような体験をしているという事実や不安や恐怖の精神症状に苦しみながら暮らしているという事実を受け入れる. ○共感とは相手の感情に寄り添い,相手を内面から理解しようとする態度.精神症状に苦しめられている患者の思いや気持ちを,患者の立場であったら自分はどう感じるのかを考える. ○傾聴とは,相手が何を言おうとしているのか,どのような気持ちでいるのかを意識して,相手の話に耳を傾けること. ○非言語的コミュニケーションから得られることも意識して話を聞く.
SAMPLE 話しやすい環境づくり 施設的要因;時間や場所,座るのか立っているのか,部屋,明るさ 人的要因;話そうとする相手の雰囲気,話術 施設的要因;時間や場所,座るのか立っているのか,部屋,明るさ 人的要因;話そうとする相手の雰囲気,話術 SAMPLE 説明 ○大切なことを話しやすい環境には,施設的要因と人的要因が整っている.場所は,どのような内容の話を進めるのかを考えてから決める. ○座り方についても,対象者の状況を見ながら配慮することが必要.近づきすぎれば相手は緊張してしまい,離れすぎてしまえば疎遠な関係となり,話したいことが伝わりにくくなることもある. ○図2-1の左上の図は対象者と看護師が正面を向いて座っている.対面は緊張感を増長しやすいとされている位置である.ただ,だからといって面接では用いないということはなく,しっかりと伝えたいことがある場合に用いられる座り方である.机を90度の角度ではさんで座っている中央の図は,最もリラックスできるとされる. ベンチに座っている右端の図では,表情が直接に見えない状態となるが,これは顔が見えてしまうと緊張してしまうときなどに用いる座り方である.
話しやすい環境を提供するために意識すること ・話をする場所 ・話を聞こうとする人 ・どのような状況の患者と話をしようとするのかを意識に入れて座る. ・沈黙を生かす. ・聞くばかりではなく,伝える方法も生かす. SAMPLE