10期生勉強会 テーマ:中枢神経系 ~基本事項と小ネタ~ それではよろしくお願いします。 本日の勉強会のテーマは中枢神経系ということでお時間をいただいております。 内容としては解剖や言葉の定義といった基本事項の確認が主体です。 文責:足立拓史
本日の流れ ①言葉の定義 (運動麻痺、共同運動、協調運動、痙縮) ②錐体路と錐体外路 ③脳卒中後の回復過程 ④中枢神経系の可塑性 (運動麻痺、共同運動、協調運動、痙縮) ②錐体路と錐体外路 ③脳卒中後の回復過程 ④中枢神経系の可塑性 流れとしてはこのように 言葉の定義、解剖、あとは脳卒中後の回復に関する簡単な話をさせていただきます。 深い話はディスカッションでと考えています。
①言葉の定義 運動麻痺 運動中枢から筋線維までのどこかに障害があり、随意運動が困難な状態をいう。 程度→完全麻痺or不全麻痺 運動麻痺 運動中枢から筋線維までのどこかに障害があり、随意運動が困難な状態をいう。 程度→完全麻痺or不全麻痺 部位→上位運動ニューロンor下位運動ニューロン 大脳皮質から内包、脳幹、脊髄を経て脊髄前角細胞に至る経路のどこかに障害のあるとき(核上性麻痺) 脊髄前角細胞から末梢部で筋に至るまで (核下性麻痺) それでは言葉の定義の話です。 運動麻痺、協調運動、共同運動、痙縮、筋緊張という言葉の定義について触れます。 まず運動麻痺は「運動中枢から筋線維までのどこかに障害があり、随意運動が困難な状態をいう」と定義されています。 ご存じの通り、程度と障害部位によって完全・あるいは不全麻痺、上位運動ニューロン障害あるいは下位運動ニューロン障害にわけられます。 参考:広辞苑より 麻痺 ①しびれること。感覚のなくなること。また、本来の活発な動きや働きが鈍くなること。 ②神経または筋の機能が停止する状態。運動麻痺と知覚麻痺とがある。
運動神経 感覚神経 卒業までにやっておきたいこと ・肉眼解剖の確認 ・脳血管の確認 ・機能解剖の確認 ・脳画像の読み方の確認 運動神経と感覚神経の伝導路と脳血管の支配領域の確認、機能解剖と脳画像の読み方については触れませんが、卒業までに確認しておきましょう。ということで飛ばさせていただきます。 卒業までにやっておきたいこと ・肉眼解剖の確認 ・脳血管の確認 ・機能解剖の確認 ・脳画像の読み方の確認
①言葉の定義 協調運動 coordinated movement 共同運動 synergy 個体の多くの筋群が神経系の作用によって、機能のうえで相互に調和のある 収縮と弛緩を行い、目的に合致する協同作用を現すこと 運動を運動学・生態力学的に効率・円滑さ・巧みさなどの現象や軌跡としてみたときの概念 共同運動 synergy 多くの複雑なレベルによって構成されるシステムにおいて相互の干渉を 最も少なくするための原則に基づいた機構で、運動の自由度を減少させて 目的とする効率的かつ円滑な協調運動を保証している、共力・相乗作用 続きまして協調運動と共同運動です。 協調運動は「個体の多くの筋群が神経系の作用によって、機能の上で相互に調和のある収縮と弛緩を行い、目的に合致する共同作用を現すこと」と定義され、運動を運動学・生体力学的に効率・円滑さ・巧みさなどの現象や軌跡としてみたときの概念とされています。 一方、共同運動は某教授に叩き込まれたように「多くの複雑なレベルによって構成されるシステムにおいて相互の干渉を最も少なくするための原則に基づいた機構で、運動の自由度を減少させて目的とする効率的かつ円滑な協調運動を保証している、共力・相乗作用」と定義されています。これは運動に関して、その神経機構に重みをおいてみたときの概念とされています。 運動に関して、その神経機構に重みをおいてみたときの概念
①言葉の定義 共同運動と同義って書かれたらもう何も言えませんよ。トホホ。 協調運動の定義は学問の領域によってその定義や扱う範疇は幾分異なっているとされています。 ここに協調運動の定義をいくつか載せていますが、共同運動と同義という文章もあります。 ですので、今回の発表につきまして協調運動と共同運動を正確に分けることはできませんでしたが、先ほど申し上げましたように共同運動は神経系の機構、協調運動は現象として確認される運動学的・生体力学的な領域の言葉と捉えてよいかと思います。 共同運動と同義って書かれたらもう何も言えませんよ。トホホ。 ただ共同運動というのは運動の自由度を減少させる機構のことで、現象として確認される運動は協調運動ということか。
腱反射亢進に伴う筋緊張の速度依存性の増大 ①言葉の定義 相動性筋伸張反射が病的に亢進した状態 痙縮 腱反射亢進に伴う筋緊張の速度依存性の増大 <伸張反射活動の亢進をもたらす脊髄機構の概観> 言葉の定義やメカニズムを扱うに当たって痙縮というものは非常に難しい言葉だと思います。 定義としては「腱反射に伴う筋緊張の速度依存性の増大」とされており、相動性筋伸張反射が病的に亢進した状態と言われます。 伸張反射活動の亢進をもたらす脊髄機構を示していますが、多くの要素が混在して痙縮という病態をもたらしています。
近年では筋・関節の構造的要因である非反射性要素(生体力学的要因)の総和として筋緊張異常をとらえることが重要視されている。 ①言葉の定義 参考 痙縮の成因は上位運動ニューロンの障害による 「相動性伸張反射の病的亢進状態」とされてきた。 近年では筋・関節の構造的要因である非反射性要素(生体力学的要因)の総和として筋緊張異常をとらえることが重要視されている。 ・伸張反射の継続的亢進による静的な筋の硬化 ・麻痺筋の筋線維タイプの変化 ・不動による筋内結合組織の増加 ・筋フィラメントの架橋構造の割合が増大 ・筋・腱・結合織の粘弾的要因の変化 ・機能障害に基づく身体機能の程度 痙縮⇒反射性要素+ たった今お示ししたメカニズムは反射性要素に関するものですが、現在は非反射性要素も重要であると言われています。 非反射性要素とはこの吹き出しにあるような生体力学的要因のことで、痙縮は反射性要素とともにこの非反射性要素との総和として捉えることが重要であるというのが近年の流れのようです。 他動運動に対する抵抗は非神経学的要素による影響が大きいことや、痙縮よりも筋力低下のほうが歩行能力などの機能的活動と関連が強いことが報告され、筋力低下が重要な問題であると認識されてきている。
ここはウィキペディアから引用したので注意(笑) ①言葉の定義 筋緊張 中枢神経疾患の理学療法では”筋緊張”という言葉がよく用いられるが、これには下記のような多くの要素が含まれており、これらを混同しないように注意する。 ・狭義の筋トーヌス(緊張) ・姿勢反射による筋トーヌス(分布)の変化 ・動作開始時の予備緊張 ・予測的制御に伴う筋収縮 ・保持のための持続的な随意収縮 さて、痙縮の定義では筋緊張という言葉が出てきましたが、筋緊張とは臨床現場で多く耳にする言葉だと思います。 しかし、筋緊張といってもこのように多くの要素が含まれており、この言葉が登場するシチュエーションによってその意味や関与する生体の働きは全く別のものとなるので注意が必要です。 ちなみに狭義の筋トーヌスとは 以上で言葉の定義は終了です。 ※狭義の筋トーヌス ・神経生理学的に神経支配されている筋に持続的に生じている筋の一定の緊張状態 ・骨格筋は何も活動していないときにも絶えず不随意的にわずかな緊張をしており、このような筋の持続的な弱い筋収縮 ・安静時、関節を他動的に動かして筋を伸張する際に生じる抵抗感 ここはウィキペディアから引用したので注意(笑)
②錐体路と錐体外路 下行性脊髄路 外側経路 内側経路 ・皮質脊髄路 ・赤核脊髄路 ・網様体脊髄路 ・視蓋脊髄路 ・前庭脊髄路 錐体外路 いわゆる錐体路 下行性脊髄路 ①皮質脊髄路 ⇒外側皮質脊髄路(四肢の遠位筋の運動制御)と前皮質脊髄路(主に体幹) ②赤核脊髄路 ⇒小脳のような他の運動中枢や運動野入力を受ける。皮質脊髄路を補足。 屈筋支配の運動ニューロン↑+伸筋支配の運動ニューロン↓ ③網様体脊髄路 ⇒姿勢保持に重要(体幹筋)とされる。4野・6野や他の核からの入力あり。 橋網様体脊髄路(前索を通り同側性)、延髄網様体脊髄路(側索を通り両側性)。 ④視蓋脊髄路 ⇒頭部と眼の動きとその協調運動に関係している。 ⑤前庭脊髄路 ⇒内側:頸髄から上位胸髄まで→頸部や上肢の運動に関わる。 外側:脊髄全長へ→体幹筋、四肢近位筋(主に抗重力筋)のコントロール。 次は解剖の話です。 錐体路・錐体外路を題材にして進めていきます。 下行性脊髄路には皮質脊髄路、赤核脊髄路、網様体脊髄路、視蓋脊髄路、前庭脊髄路があります。 皮質脊髄路がいわゆる錐体路と呼ばれるもので、一方他は錐体外路と言われます。 個々の経路の具体的な役割を記して置きました。 後で確認してこれは違うのではなどありましたら教えて下さい。
②錐体路と錐体外路 脊髄へ達する錐体外路系 具体的な位置関係はこの図のようになっています。
②錐体路と錐体外路 大脳基底核 基本的に黒質、線条体、淡蒼球、視床下核のことを指す。 大脳基底核からの神経線維はどこへ向かうのか・・・ 錐体外路と聞いて先に思い浮かべるのは大脳基底核かもしれません。 大脳基底核は黒質、線条体、淡蒼球、視床下核のことを指します。 これらは末梢からの入出力と直接の線維連絡をもたない、つまり脊髄と直接の結びつきがない集団です。 主に、身体運動、眼球運動、報酬や学習に関する系に分けることができるとされています。 脊髄と連絡がないと言いましたが、基底核からの出力はどこへ向かっているのでしょうか。 基本的に黒質、線条体、淡蒼球、視床下核のことを指す。 大脳基底核からの神経線維はどこへ向かうのか・・・
②錐体路と錐体外路 大脳基底核 線条体には少なくとも5つの大脳皮質領野からの入力がある。 一次運動野、補足運動野、運動前野などの運動関連領野だけでなく、前頭前野といった領野からも入力を受けループを形成する。 つまり皮質脊髄路(錐体路)の出力は既に大脳基底核(錐体外路)からの影響を受けている。 大脳基底核は大脳皮質から入力を受け、視床を介して大脳皮質に線維を送っており、大脳皮質⇒大脳基底核⇒視床⇒大脳皮質というループを形成しています。 つまり、皮質脊髄路、いわゆる錐体路の出力は既に大脳基底核の影響を受けたものとなっています。 また大脳基底核からは大脳皮質への投射以外にも脳幹への出力も存在しています。 以上が錐体路・錐体外路の内容です。 脳幹・脊髄へ ⊡外部への直接的な出力は脚橋被蓋核(脳幹網様体へ)と中脳歩行誘発野への出力がある。 ⊡補足運動野からの入力は歩行開始や停止などの歩行調整に重要とされる。
病変周囲の血腫の吸収、浮腫の軽減→ペナンブラ領域の救済 ③脳卒中後の回復過程 急性期 ⇒機能回復は主に脳の可逆性が関与。 回復期 ⇒機能回復は主に脳の可塑性が関与(後述)。 病変周囲の血腫の吸収、浮腫の軽減→ペナンブラ領域の救済 内科的治療では 脳梗塞:選択的動脈内血栓溶解術 経静脈的血栓溶解療法(ex. t-PA) 脳出血:血腫除去 など これからは脳卒中後の回復について非常に簡単に触れていきます。 まず、急性期における回復は主に脳の可逆性によるものと考えられています。つまり、まだ死んでいない神経細胞の救出による機能回復です。 脳の可逆性は病変周囲の血腫の吸収や浮腫の軽減によってペナンブラ領域の救済により生じます。 内科的治療では、脳梗塞では血栓溶解術や経静脈的血栓溶解療法があります。有名なものは組織型プラスミノーゲンアクチベータです。 脳出血においては血腫の大きさや部位によって適応が決まりますが、血腫の除去がなされることがあります。 一方回復期以降は主に脳の可塑性によって機能回復が生じます。
③脳卒中後の回復過程 維持期 ⇒そもそも維持期とはいつからか。 発症6カ月くらい? 発症半年では脳組織の可逆的な変化はないと考えられる。 発症6カ月くらい? 発症半年では脳組織の可逆的な変化はないと考えられる。 ⇒可塑性が関与。しかし回復期ほどの改善は難しそう+限界あり? 維持期における機能回復は難しいとされるのが一般的です。 そもそも維持期とはいつからかという話になりますが、よく言われるのが発症後6カ月以降です。 なぜ6カ月ということが言われるようになったかというとスライドにお示しする、脳卒中の症例のBRSと起居動作回復過程を追った研究があるからです。 グラフは左から下肢のBRS、上肢のBRS、起居動作です。 いずれも機能改善は発症後6カ月以降はほぼプラトーとなっています。 しかし、粗大な評価項目を使用していることや年齢によって回復具合が異なることに注意が必要です。
③脳卒中後の回復過程 参考までに基礎研究の話を・・・ 脳梗塞ラットの頭頂葉におけるGDNF発現 ラットの運動機能の変化 なぜ、脳卒中発症後時間が経つと機能回復が難しくなるのかについては不明な点が多いです。 参考までに基礎研究を一つ紹介します。 脳梗塞モデルラットを用いた研究で、運動機能と梗塞巣周辺に発現した神経栄養因子の量を時間経過とともに追った研究です。 左のグラフは神経栄養因子の発現量の変化です。 縦軸が発現量、横軸が時間経過です。脳梗塞発症後神経栄養因子の発現が高まり、14日後にはShamと同じ水準に戻っていることが分かります。 右のグラフは運動機能評価の結果です。縦軸は評価のスコアで点数が高いほど正常に近いことを示しています。横軸は時間経過です。 グラフから、発症後1週間以内に急速な回復がみられることがわかります。 左の神経栄養因子の発現が高まる時期とこの急速な運動機能回復をみせる時期が一致することがわかります。 考察では脳卒中発症後、神経栄養因子が高まる時期がリハビリテーションにとって重要であるとしています。 脳卒中後早期は何らかの要因で可塑的変化が起こりやすいことが推測されますが、発症後早期に神経栄養因子の発現が高まることが一つの要因である可能性があります。 ⊡GDNFが多く発現する時期と機能回復が加速する時期が一致する。 ⊡GDNFやNGFといった神経栄養因子の発現は脳損傷後早期の方が高いと言われている。(※ラットによる実験結果をヒトにそのままあてはめることはできないが。) ⊡脳損傷後早期に介入を行うとその効果が大きいという報告が複数ある。
現在はよりヒトに近い霊長類であるマーモセットの脳梗塞モデル作成も進められているらしい・・・ ③脳卒中後の回復過程 現在はよりヒトに近い霊長類であるマーモセットの脳梗塞モデル作成も進められているらしい・・・
④中枢神経系の可塑性 中枢神経系の可塑性とは何か ⇒機能的要求および認知機構の能力に適応するための中枢神経系の能力。 広い意味では学習のプロセスも脳の可塑性に含まれる。 生理学的には、脳の可塑性はシナプス伝達効率の変化、 すなわちシナプスの可塑性として取り扱われる。 最後に中枢神経系の可塑性についてですが、内容は簡単な復習です。 中枢神経系の可塑性とは機能的要求および認知機構の能力に適応するための中枢神経系の能力のことで、広い意味では学習のプロセスも脳の可塑性に含まれます。 生理学的には、シナプス伝達効率の変化のことを指します。 具体的な変化としては、形態的側面であるシナプス数の変化と機能的側面である情報伝達能の変化に分けるとわかりやすいと思います。 形態的側面は樹状突起の変化やスパインの増加によってシナプスが増加することを、一方で機能的側面とは神経伝達物質の放出量の変化とそれを受け取るレセプターの変化を指します。 ①シナプス数の変化(形態的側面) ⇒樹状突起の伸長・分枝、スパインの増加によりシナプス形成 ②情報伝達能の変化(機能的側面) ⇒神経伝達物質の放出量増加、レセプターの発現・感受性向上
④中枢神経系の可塑性 どのような変化が確認できるか・・・ ①シナプス伝達効率の変化 ⇒伝達物質放出量、受容体の感受性・発現量の変化など ②神経細胞の形態の変化 ⇒樹状突起の長さ、スパインの数の変化など ③脳活動(fMRI、脳血流など)の変化 ⇒活動領域の拡大・縮小など ④理学療法士が確認できる変化 ⇒あくまで現象 私見です 中枢神経系の可塑性によってどのような変化を確認できるかというと、まず先ほどお示ししたシナプスの伝達効率の変化と神経細胞の形態変化です。 また近年は脳活動測定器の発達により、脳活動の変化を捉えることができるようになりました。 しかし、理学療法士が臨床現場で捉えられるのはあくまで現象です。 ですので、運動療法によりほんとに可塑的変化が生じて機能的改善が生じるのか不安も感じるかもしれません。しかし、中枢神経系の可塑性という概念は代償的な動作の獲得に固執しないためにももっておく必要があると個人的には思います。 対象者の運動機能に変化(運動麻痺の回復)がみられたら神経系の可塑性が関与していると考えてよい? 運動麻痺の改善ばかりに目を向けるわけにもいかないが中枢神経系の可塑性という概念は知っておいた方がよい。 可能性と限界。難しい話ではある。
以上です。お粗末な内容でしたがありがとうございました。 内容がないよ~。 ディスカッションのネタに なれば幸いです。