日語文法研究 (大学院) 2月19日(木) 担当 神作晋一
ここでは、文法の前に、学問分野の「日本語学」「日本語言學」についてお話します。 日本語学とは ここでは、文法の前に、学問分野の「日本語学」「日本語言學」についてお話します。
荻野綱男編(2007)『現代日本語学入門』 P.10~24 1 日本語学と言語学 2 日本語学の諸分野 3 日本語の変化と現代日本語学 1 日本語学と言語学 2 日本語学の諸分野 3 日本語の変化と現代日本語学 4 応用分野・関連分野の位置づけ 5 世界の言語と日本語 5-1 日本語特殊論 5-2 言語類型論 6 国語と日本語
1 日本語学と言語学
日本語学は言語学の一分野 言語学:「言語を対象とした研究」 下位分類に2つの方法 Linguistics 語言學
下位分類の2つの方法 言語別 分野別 日本語学 英語学 ドイツ語学 中国語学など 台語 音声学・音韻論 語彙論・意味論 文法論 文章・文体論 話者・研究者の少ない言語の研究もある。 台語 分野別 音声学・音韻論 語彙論・意味論 文法論 文章・文体論 文字論など 複数の言語を比較・対照する研究もある
研究の動向 言語が異なるとその仕組みが違うことも多い。 言語を研究するには、まずその言語自体の学習が必要。(少数言語はもっと難しい。) 他の言語の研究を自身の母語にも当てはめることは比較的簡単。
日本語学の二つの方法・立場 言語学の一分野 日本語は他言語と性質が違う面が多い 他の言語の言語学的研究との関連を無視するべきではない。 例:英語(学)の研究手法を取り入れる。 日本語は他言語と性質が違う面が多い 日本語だけを研究、 日本語だけを扱う本など。
2 日本語学の諸分野
日本語学の下位分野 大体が、言語学の下位分野と一致する。 例外①:「敬語」は日本語学で重要 例外②:「文字・表記」(漢字と仮名、アルファベットを組み合わせる日本語の特殊性。) 英語などアルファベットを使う言語では、文字はあまり研究対象にならない。 cf.漢字自体の研究
音声学(おんせいがく) 世界共通の、全言語に通用する考え方 音声を客観的に捉える。 全言語学的観点における日本語の特徴 調音音声学(口の形と舌の位置) 音響音声学(波形分析など) 聴覚音声学 (聞き取り、理解、脳) 全言語学的観点における日本語の特徴 日本語、中国語、英語の「あ、阿、a」 例:イントネーション、プロミネンス(全体の印象)
音韻論(おんいんろん) 言語ごとに体系が組み立てられる。 例:50音 an ang アン right light riben 日本 り 共通するのは研究方法や考え方だけ。 分析結果はその言語だけに当てはまるものになる。 例:アクセント 音韻論的な観点で分析。 ※拍(モーラ) 温泉 で高低が変わる。
チョ・コ・レ・ー・ト 5(モーラ) cho・co・la・te 4 巧克力 3 温泉おんせん ○●●● 【おン】【せン】 音節 2 お ん せ ん 拍(モーラ) 4
はしが かな文字が1単位 箸が ●○○ 端が ○●● 橋が ○●○ 日が ○● 火が ●○
語彙論 さまざまな観点から語彙体系を眺める。 たくさんの要素がある。 語構成・品詞・語種(和語・漢語・外来語・混種語)など 文法的・音韻論的・意味的・位相的など 語構成・品詞・語種(和語・漢語・外来語・混種語)など
意味論 さまざまなレベルの考え方が混在。 客観的意味・辞書的意味 主観的意味・文脈的意味 同義語・類義語 対義語・反義語・対極語 意味の拡張・変化
文法論 学校文法や日本語教育(教科書)の文法だけではわかりにくい現象を考える。 主として単文レベルの規則。 ⇒この授業で詳しく。 活用・格・ヴォイス・アスペクト・テンス・ムード(モダリティ) ⇒この授業で詳しく。
文章論 文章(談話)の構造を把握。 文法論 + それを超えた研究 指示詞(現場指示と文脈指示) 接続詞(しかし、そして、また、など) 例:これ、それ、あれ、など) 接続詞(しかし、そして、また、など) 直接形(言い切り)と間接形(ようだ・らしい)
文体論 文体(スタイルstyle)の多様性 社会言語学や心理学などとの関係 丁寧体(ですます、敬語等)と普通体(だ、である等) 書き言葉と話し言葉 社会言語学や心理学などとの関係 例:携帯メールやチャット、手紙など
文字論(表記論、書記論) 漢字、かな(カナ)、アルファベット(ローマ字)を使う現代日本語表記の特徴。 漢字の種類・字体(常用漢字・人名漢字・コンピューターの文字) 文字の組み合わせ(仮名遣い・送り仮名・外来語の表記)
敬語(※ポライトネスpoliteness) ことばの仕組み 尊敬語・謙譲語(丁重語)・丁寧語(美化語) 特殊形(例:いらっしゃる、召し上がる) 付加形式(お~になる、お~する、れる・られる) 敬語行動 場面・人物関係 コミュニケーション論(社会言語学的)
方言学 日本各地に残された方言の多様性。 方言と共通語の使い分け。 地域的変種(方言)と社会的変種(集団語など) コード変換 台湾にもあるか。(國語と台湾語) 地域的変種(方言)と社会的変種(集団語など)
下位分類同士の関連性 例:「ら抜きことば」(例:見れる、食べれる) 活用の問題(文法論的)だけではない。 動詞ごとに違う。⇒語彙論的 「信じ(ら)れない。」はなりにくい。 短い言い方 ⇒音韻論的 (縮約の一種) 地域差がある ⇒方言学的
個別の具体的な課題を探求するには (各下位分類を踏まえた)総合的な態度が必要。 関連分野・周辺分野を知ることも必要。
3 日本語の変化と現代日本語学
日本語史とは 日本語の歴史のことをいう。 日本語史学。 現代日本語と古典日本語(古典語、古文) 現代日本語は歴史上の変化の結果なので、 古代語と近代語 現代日本語は歴史上の変化の結果なので、 歴史的観点も必要なのだが……。
現代日本語だけを取り上げる理由 ①日本語史は下位分野なので、かえって「日本語学」全体がわかりにくくなる
現代日本語だけを取り上げる理由 どちらも満たすのは難しい。 ②古典語の研究と現代語の研究では、研究方法が異なる。 古典語 現代語 使える資料が文献だけで、少ない。 現代の文献と、話者の内省・意識も使える。 どちらも満たすのは難しい。
現代日本語だけを取り上げる理由 ③古典日本語学と現代日本語学では、他分野との関わりが異なる。 古典日本語学 現代日本語学 歴史学や文学(古典文学)くらい 研究方法が確立 さまざま分野と関連 学際研究が盛んである 日本語学史に関するものは別に読むべき
4 応用分野・関連分野の位置づけ
日本語教育 日本語が母語ではない人に日本語を教える(⇔国語教育) 日本語学の成果を日本語教育にどう生かすか。 来週以降、詳しく述べる。 研究者であり教育者でもある 日本語学の成果を日本語教育にどう生かすか。 例:文法研究の成果を教科書や教授法に応用。 来週以降、詳しく述べる。
社会言語学 言語の体系や構造より、言語の使い方。 話し手や書き手(発信側)だけでなく、聞き手や読み手(受信側)を含めた研究。 言語行動(人間と言語、両方) 例:「敬語」
コンピュータ言語学 情報科学との関わり。 コンピュータに日本語が扱えるようにする。 コンピューターによる言語処理 コーパス言語学など
心理言語学 言語習得の問題。 子供(幼児)の言語習得の研究と日本語。 ⇒幼児語の研究などもある。 ⇒第二言語習得論も同じ。
対照言語学 2つ以上の言語を比べ、共通点と相違点を明らかにする。 日本語教育では、学習者の母語を理解することで、有益なものになる。 学習者の母語と日本語の「ずれ」
文化人類学 人間の文化を扱う。 色彩名称(青、藍、緑など) 親族語彙(家族の名称)の研究
応用分野・関連分野について すべてが日本語学の一部である。 日本語の研究のすべてをカバーするものである。 研究分野を超えた学際的な研究が必要。
5 世界の言語と日本語 5-1 日本語特殊論 5-2 言語類型論
5-1 日本語特殊論 日本語は果たして特殊なのか? 特殊といわれる面・要素 ①系統関係が不明 ②日本語≒日本国≒日本人 ③日本語の敬語 5-1 日本語特殊論 日本語は果たして特殊なのか? 特殊といわれる面・要素 ①系統関係が不明 ②日本語≒日本国≒日本人 ③日本語の敬語 ④漢字と仮名(複雑で複数の文字体系)
①系統関係が不明 20ほどある語族。 ⇒祖語が同じで、系統関係があるもの。 言語の親族関係。 言語の親族関係。 日本語は、誰もが認める系統説がなく、系統が不明。 系統的に孤立。 Cf.琉球語⇒沖縄方言として日本語の一部
②日本語≒日本国≒日本人 「国内でその言語の話し手の占める割合」 「その言語の話し手の中で、その国民の占める割合」 1982年の資料なので、現在はもう少し増えているかも 「国内でその言語の話し手の占める割合」 日本国内では98%以上日本語 外国人(中国・韓国・ブラジルなど)は2%弱 「その言語の話し手の中で、その国民の占める割合」 日本語母語話者はほとんど日本にいる。 ハワイ・ブラジルの日系人、台湾の原住民などもごく少数
中国語 中華人民共和国(大陸)在住が98%くらい 中国国内では、80%くらいが中国語を話す。 その他は2%(台湾やその他の国にいる華僑が該当) 中国国内では、80%くらいが中国語を話す。 20%くらいは、他言語(方言とも)他の民族(チベット、ウイグル、内蒙古など)
③日本語の敬語 韓国語(朝鮮語)でも敬語は発達 日本語も、敬語(ですますを含む)が話せないと支障がある。 世界の諸言語と比べると特殊。
④漢字と仮名 (複雑で複数の文字体系を使う) 漢字の使用 行動こうどう 行間ぎょうかん 行灯あんどん (諸橋徹次『大漢和辞典』では5万字) 漢字に音読みと訓読みなど複数の読み方 中国語・韓国語ではほぼ1つ 漢字と仮名(ひらがな・カタカナ)の併用 仮名遣い・送り仮名・振り仮名 漢字表記とカナ表記の「ゆれ」
シャ乱Q きづく 気付く きずく 築く 焼きそば 焼そば やきそば ヤキソバ yakisoba
5-1 日本語特殊論 ①~④以外は、他の言語にも存在する。 ⇒日本語特殊論は成立しない? ①系統関係が不明 ②日本語≒日本国≒日本人 5-1 日本語特殊論 ①系統関係が不明 ②日本語≒日本国≒日本人 ③日本語の敬語 ④漢字と仮名(複雑で複数の文字体系) ①~④以外は、他の言語にも存在する。 ⇒日本語特殊論は成立しない?
5-2 言語類型論 (構造) 孤立語(語形変化がない、語順のみ) 膠着語(自立語に付属語が接続) 屈折語(語形が変化、接辞を加えるなど) 5-2 言語類型論 (構造) 孤立語(語形変化がない、語順のみ) 中国語など 他給我一本書 膠着語(自立語に付属語が接続) 日本語など 「走ったり」「図書館の本」 屈折語(語形が変化、接辞を加えるなど) 英語など I am you are she is he gives 抱合語(動詞が名詞を取り込む、語と文の区別なし) エスキモー語
明確には4分類できない 英語: ⇒膠着語的 日本語: 動詞の音便形(歩いた、飛んだ) ⇒屈折語的 屈折語(三単現のS、不規則動詞) 前置詞(a,in,outなど)助動詞(can,may,will)など ⇒膠着語的 日本語: 膠着語(助詞助動詞が付属) 動詞の音便形(歩いた、飛んだ) ⇒屈折語的
語順の研究 ①SVO型(英語・中国語など) ②SOV型(日本語) ⇒実は②の方が多い。 ⇒日本語が特殊ということにはならない。
6 国語と日本語
日本語と国語 日本語 「国の名前+語」 ⇒世界に通じる 国語 言語≒領土≒民族でないと言いにくい。 韓国 ベトナム ※台湾「國語」
国語教育と日本語教育 学校の教科としての「国語」 文化庁国語科・国立国語研究所 国研 日本語母語話者に教える「国語教育」 文化庁国語科・国立国語研究所 国研 日本語母語話者に教える「国語教育」 非日本語母語話者に教える「日本語教育」
国語と日本語が同じ 日本語学と国語学 国語学会 ⇒日本語学会 大学の学科(系)名 (国語)国文学科 ⇒(日本語)日本文学科